競馬や馬産に関する雑誌の歴史は古く、明治時代から複数発行されていた。そのひとつで、1911(明治44)年に創刊された「日本之産馬」を閲覧するため、先日、永田町の国立国会図書館に行ってきた。
東京アラートが解除され、休業要請が緩和されたことで、国会図書館東京本館も今月11日から来館サービスを再開した。休館したのが3月5日だから、約3カ月ぶりの開館である。といっても従前どおりではなく、1日あたりの入館者数を200名程度(今は350名程度)に制限するため抽選予約制となっている。運転中の飛び石などはよく当たるのに、馬券その他のクジ全般はからっきし当たらない私も、ダメ元で申し込んだ。すると、数日後、当選のメールが届いた。
私にとって、おそらくこれが2020年上半期に享受した最大の幸運である。
クジに当たったことに加え、テンションが上がったのには、もう2つの理由があった。
ひとつは業務上の理由だった。「日本之産馬」を閲覧するのは、来週校了の自著で確認したいところがあるからだ。抽選に漏れたらチェックできずに終わるところだったが、これで間に合う。
もうひとつは、いわゆる「アベノマスク」絡みの理由だ。
前にも書いたかもしれないが、私は、今年になってからマスクを購入していないし、ドラッグストアに問い合わせたこともない。花粉症用の買い置きがあったので、それを洗いながら使用していた。
そこに、4月中旬、アベノマスクが届いた。さすがに買い置きが底を突きかけていたので助かった。
安倍晋三首相は、配布を決定してから、自身もずっとこのマスクを着用している。
私も届いてすぐ着けはじめたので、アベノマスク歴はかなり長い。
これが小さすぎるだの、布マスクには効果がないだのと言う人もいるが、気に入らないなら必要とする人に渡せばいい。
普通に愛用していた私は、「アベノマスクをして国会図書館に行ける」というだけでテンションが上がった。国会図書館は国会議事堂から道を挟んだ並びにある。まさに「気分は安倍晋三」である。
ワールドスーパージョッキーズシリーズが阪神で行われていたころ、その週末はシリーズに参加しない日本の騎手も「気分はサントス」で、いつもより鐙を短くして乗ったという話を聞いたことがある。鐙を短くすると掛かる馬を抑えづらくなるので、ビュンビュン行ってしまう馬が多くなったという。なお、「気分はサントス」の「サントス」は、クリミナルタイプやスターオブコジーン、チーフベアハートなどで数々のビッグレースを制し、殿堂入りしたホセ・サントス元騎手である。
アベノマスクの配布は、コロナに苦しむ国民に対して政府が打ち出した最初の支援策であり、当初は、早々と現金支給を実施した他国と比較して、日本政府の対策は最低だと騒ぎ立てる人が続出した。しかも、小さいし、国産ではないのにかなりの金をかけているし、届くのが遅いし、毎日着用している政治家は首相だけだし……と、その立ち位置というか、イメージは微妙なものになっている。それもあって、買い物などに行っても私以外にしている人はあまり見かけないが、多くの人にとって、「万が一のときにあれば安心」というスーパーサブの役割は果たしていると思う。
まあ、立ち位置が微妙だからこそネタになるわけだが、国会図書館にも、アベノマスクをしている人は、職員を含め、見つけることはできなかった。
それでも、私に関しては、久しぶりに国会図書館に来られた喜びを、アベノマスクが増幅してくれたことは確かだった。現地に着いてみると特に感慨はなかったものの、着くまではとにかく楽しかった。
前出の「日本之産馬」で確かめたかったのは、自著に引用する「サラブレッドの定義」に関する部分が掲載された「第一刊第二号」の正確な発行年月日だった。何年か前にJRAの図書室(現在は閉室中)でコピーした目次には、誰かの手書きで「四四年五月」とあり、私はそれごとコピーして保管していた。ネットで「国立国会図書館デジタルコレクション」にアクセスして、それが1911(明治44)年の5月発行であることと、他号のコピーから、毎月5日発行ということはわかっていた。が、イレギュラーでその号だけ発行日が違っていたということが100パーセントないとは言えない。国会図書館で原典の奥付を見ると、「明治四十四年五月五日発行」と記されていた。これにて一件落着である。
細かなことだが、こういう引っ掛かりを残したままでは先の作業に集中できない性格なので、仕方がない。
いつもながら、とりとめのない話になってしまった。