芝の塊がバコーン！ 一瞬意識が飛び、右目は見えず…

佑介　安田記念優勝、おめでとうございます！ まずは率直な感想から言わせてください……シビれました！

池添　ありがとう。俺もシビれたわ。

佑介　高松宮記念は、すごく惜しい2着だったじゃないですか。能力の高い馬ですから、池添さんとしてもチャンスだと感じていたと思うんです。そんななかで、けっこう苦しいところから能力で伸びてきたという競馬になったので、すごく悔しそうでしたよね。レース後の池添さんを見て、「あそこでああしていれば…」とか考えているような感じがしたので、次はどういうふうに乗るのかなって注目してたんですよ。

池添　高松宮記念は悔しかったねぇ。直線に向いてからタワーオブロンドンにちょっと振られたところがあって、そのぶんの差だったから。初めてのスプリント戦で戸惑っていた部分もあったけど、能力は見せてくれたし、俺自身、結果を出さなくちゃいけない馬だと思っていたしね。


佑介　安田記念は、“アーモンドアイ一強”の構図やったけど、高松宮記念のパフォーマンスを考えたら、ひょっとするかも…っていう気はしてました。

池添　俺もね、(高松宮記念で)あれだけの脚を使えることがわかったので、それほど引けは取らへんちゃうかなとは思ってた。あと、安田記念では、返し馬がすごく良くて。高松宮記念のときより、全然良かったの。ヴィクトリアマイルは使えなかったけど、厩舎のスタッフや(杉原)誠人に聞いたら、安田記念に目標を切り替えてからはすごく調整が順調だったんだって。そういう話も聞いていたし、これなら自信を持って乗っていけるなって返し馬の時点で思ったけどね。

佑介　高松宮記念の前までは、けっこう掛かりそうな馬だなっていうイメージだったんですけど、前回も今回も、道中はけっこう促しながら乗っていましたよね。

池添　そうそう。もっと行きたがるのかなと思っていたけど、高松宮記念でそうでもないことがわかって、これならマイルでも自分のなかでコントロールできるなって思った。

佑介　それがあの前半のポジショニングにつながったんですね。やっぱり、一度乗っているというアドバンテージは大きい。

池添　めちゃくちゃ大きかったよ。一度乗っているからこそ攻めていけたからね。道中も、自分がイメージしていた馬たちが前に行って、ちょうど1頭でポツンと走れて。

佑介　めちゃくちゃストレスがない位置取りでしたよね。

池添　そう、完全にストレスフリー。ホントにリラックスして走っていたし、めちゃくちゃいいリズムでベストな場所を取れたなと思ってた。で、3コーナー……芝の塊が(苦笑)。

佑介　あれは…。大変でしたね。

池添　もうホントにヤバかった。3コーナーに入った瞬間やったから、キックバックが見えへんくて。まったく見えへんところから飛んできた。

佑介　東京の3コーナーって、けっこう飛んでくるんですよね。

池添　いきなりバコーン！ ときて、一瞬何が飛んできたのかわからなかった。でね、漫画みたいにチラチラチラチラ星が見えて。「ホンマに漫画みたいになるんや！」と思ったもん(笑)。バコーン！ ときた瞬間は、一瞬意識が飛んだからね。

佑介　怖ッ！

池添　怖いやろ？ まぁすぐに戻ったんやけど、涙で視界がブワーッとぼやけて、右目は何にも見えない状態やった。「うわッ、どうしよ…」と思ったけど、いいポジションにいたし、あとは仕掛けだけ間違わんように集中しなければと思って。

佑介　4コーナーの手前で、外からケイアイノーテック(5着・津村騎手)が早めにきたじゃないですか。もし、ケイアイがきていなかったとしても、あのタイミングで動いてました？

池添　いや、ケイアイがきていなかったら、もうちょっと待ってたね。4コーナーを回り切る前には動こうと思っていたけど。

佑介　結果論ですけど、もうちょっと待っていたら、たぶんセイウンコウセイ(12着・内田博騎手)が壁になってましたよね。で、そこから一瞬、外に振るような感じになるというか。あそこで動いた池添さんを見たとき、高松宮記念の4コーナーの立ち上がりで外に振られたこともあって、今回は絶対に被せられないようにというか、グランアレグリアのバランスとタイミングで仕掛けたいんやろうなって思ったんです。

池添　そう、その通り。アーモンドアイを見て追い出すとか、アーモンドアイありきの競馬ではなくて、グランアレグリアのタイミングでスパートしたいと思っていた。だから、アーモンドアイより絶対に前で競馬したかったんだよね。実際、理想の形になっているところにケイアイがきたわけだけど、蓋をされるのは嫌だなと思っていたら、逆にグランアレグリアからハミを取って、スッと反応してくれた。でもね、最初はアーモンドアイが上がってきたのかと思ったよ。

佑介　そうでしょうね。

池添　うん。で、パッと横を見たんだけど、右目が全然見えてなかったから、結局どの馬がきたのかわからなかった。ただ、4コーナーを回り切ったあたりで一瞬いなくなったから、「ああ、アーモンドアイじゃないな」と思って。直線は、いつもだったら後ろとの差をターフビジョンで確認したりするんやけど、もう右目は見えてへんし、とにかく無我夢中やったわ。

佑介　アーモンドアイは、絶対に伸びてきますからね。

池添　そう、絶対にくると思っていたから、最後まで必死に追ってたよ。それにしても、本当に上手くいったよね。

名手が感嘆、「謙一はホントに代打強いな…」

佑介　ドンピシャでしたよね。見てるほうとしては、3コーナーで芝の塊を喰らってるなんて思いもしませんでしたけど。

池添　あれはねぇ、ボクシングでいうと、ダウン寸前みたいな感じやったわ。

佑介　ジョッキーはみんな経験があるでしょうけど、さすがにGIでは…(苦笑)。

池添　俺もね、「GIでこんなことある!?」って思ったわ。

佑介　池添さんの「板(フェイスガード)はしない」という美学が、今回に限っては裏目に出ましたね。

池添　ホンマやね。もし板をしていたら、あそこまで酷くはなってなかっただろうな。戻ってくる時点で、「絶対に右目がおかしくなってる」と思ってたもん。俺さ、GIのときは、ゴール板で馬を止めてガッツポーズするやんか。ゴール板にレース名が書いてあるから絵になるねんな。安田記念でもやったんやけど、そのあと厩務員さんがきてくれたからチラッとゴーグルを外したら、「……すごいことになってるぞ!!!」って言われて(笑)。もう外さんとこうと思ってそのまま戻ったんやけど、ゴーグルの隙間から血が流れてたもんな。

佑介　こっちはこっちで、「なんか血ぃ出てない？」ってみんな言ってましたよ。でも、GIですからね、そんなのどうでもいいくらいうれしいわけじゃないですか。実際、いい仕事ができたなっていう充実感がインタビューからすごく伝わってきました。見ている人に、ジョッキーという仕事の素晴らしさが伝わったんじゃないかなと思えるインタビューでしたよ。

池添　佑介に「好感度が上がりましたよ」って言われたよな(笑)。そんなつもりはなかったのに「すごくよかった」って言われたから、勝ったときは毎回、自分の顔を殴っとかなアカンなと思ったわ(笑)。でもね、佑介の言う通り、あんなケガなんてどうでもいいくらいうれしかった。アーモンドアイだけじゃなく、本当にいいメンバーだったから。

佑介　すごいメンバーでしたよね。インディチャンプ(3着・福永騎手)もマイルでは相当なレベルにある馬ですし、アーモンドアイは、そのインディチャンプを差したわけですから、しっかり脚を使っていたと思うんですよね。グランアレグリアは、その馬たちを2馬身半も突き放したわけですから、本当に強かったなって。

池添　あのメンバーでしっかりレースができて、しっかり勝って。あの一戦で、グランアレグリアの価値は本当に上がったと思う。


佑介　それにしても池添さんは、能力があって、傍目には乗り難しく見えるような馬を任されたときの……なんていうのかな、“結果の出しっぷり”がスゴイ。

池添　そのあたりは健在でしょ(笑)？

佑介　安田記念は、(武)豊さんの近くで見ていたんですよ。豊さんと一緒に GIを見る機会なんてなかなかないから、あえて豊さんのそばまで行って。そうしたらレース後、「謙一はホンマに代打強いな…」ってボソッと言ってました(笑)。

池添　それって褒めてくれてるの？

佑介　そうだと思いますよ。もうひとつ、「トータルの勝ち鞍とGIの勝ち鞍が見合ってないな」とも言ってましたけど(笑)。

池添　ホンマやな。自分でもそう思うし、よう言われるわ…(苦笑)。