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「馬の年金制度」で引退馬たちに明るい未来を!馬と歴史と未来の会(2)

  • 2020年08月04日(火) 18時00分
第二のストーリー

ナグラーダ、水沢競馬で競走馬として再デビューの日(提供:よこてんさん)


馬と人の共生のために必要な“馬自身が働く”こと


 骨折から復活して岩手競馬で再デビューを果たした芦毛のナグラーダは、2016年3月13日に北海道新ひだか町の木村秀則さんの牧場で生まれた。毛色は父のダンカークから受け継いだものと思われる。一方サンデーサイレンスを父に持つ母のレフィナーダは、広尾レース株式会社の所有馬として美浦の藤沢和雄厩舎の管理馬として4歳でデビューをしたが、2戦して勝てずに地方競馬で勝って中央に戻ってきたという経歴がある。JRAでは500万下を勝ち上がっており、8歳まで現役を続けて27戦2勝(地方含む)で引退。繁殖牝馬として北海道に戻った。

 このレフィナーダの5番目の子供として生まれたのがナグラーダで、母や兄姉たちと同じ広尾レース株式会社の所有馬として2019年3月16日に新馬戦でデビューを果たしている。だが成績は8着、7着、10着、9着、13着と、残念ながら掲示板にのることができずに中央競馬登録を抹消された。その後は岩手競馬へと移籍して、3勝できれば中央競馬に戻る予定もあったが、前回も触れた通り、調教中に骨折。引退が決まって乗馬のリトレーニングを受けるため、岩手の馬っこパーク・いわてへと移動した。

 馬っこパーク・いわては、一般社団法人馬と歴史と未来の会の代表理事の上田優子さんが、精神科医のご主人とともにホースセラピー活動を行っている場であり、また彼女がアハルテケイオン時代から関わってきた引退競走馬支援の拠点でもあった。いくつかのクラブで一口馬主ライフを楽しんでいる上田さんは、広尾サラブレッド倶楽部でナグラーダにも出資していた。

 主に個人で奮闘してきたアハルテケイオン時代から、上田さんは馬たちの引退後がより安泰になるようなシステムを構築したいと考え続けていた。それが馬の年金制度だ。自分が関わっていない馬でそれを実践することはできない。だが自分の馬ならそれを試験的に行うことができる。上田さんはナグラーダを一旦は半自馬として所有する形を取り、セラピーホース、乗馬、競技馬と様々な道を模索しながらも、一度は引退した馬を再び競走馬として走らせるという、馬への新たな支援のあり方を実践する方向へと舵を切った。

「私は地方競馬の馬主資格がないので、引退馬支援に理解があって力を貸してくださる方が馬主になって下さいました」

 ナグラーダは新しい馬主のもと、岩手・橘友和厩舎の管理馬となり、新たな一歩を踏み出した。
 
 上田さんは、以前馬っこパーク・いわてにいたアンナベルガイトを岩手競馬の誘導馬に育てて、岩手のアイドルホースにしたいという夢を持って活動に邁進していた。だがその夢は叶えられず、今度はナグラーダに夢の続きを託した。骨折から競走馬として復活したナグラーダをより多くの人に知ってもらおうと、SNSでの発信も積極的に行っている。そして現役競走馬時代からナグラーダのファンクラブを作り、岩手のアイドル的存在として支援を募り、それを治療費や馬運車代、乗馬へのリトレーニング費用など競走馬引退後にかかる経費用に積み立てる競走馬年金の構築に向けて、試験的な取り組みを開始した。

第二のストーリー

愛くるしい表情をみせるナグラーダ(提供:よこてんさん)


 馬を養うのは経済的負担が大きい。それだけに馬と人が共生していくためには、馬自身が自らの飼い葉代を稼ぎ出す仕事が必要だと上田さんは考えている。そのセカンドキャリアへの道に進むにも費用がかってくるわけで、その経費の部分をクリアできればよりスムーズに第二の馬生へと移行できるようになるはずだ。そしてリトレーニングが終了して晴れて乗馬として仕事をするようになれば、自らの飼い葉代を馬自身が稼ぎ出すことができるようになるのだ。競走馬年金制度がうまく機能するようになれば、競馬から引退した馬たちの未来が今以上に明るくなることだろう。

 だがどの馬も乗馬に向くわけではない。セカンドキャリアを生きていくためには、馬それぞれの個性に合った仕事ができるように、その選択肢を増やすことが今後の課題と言えるが、馬と歴史と未来の会でもそれが活動目標の1つともなっている。

 一方ナグラーダの再デビューは、今年5月10日に水沢競馬場のC2十八組。ダート1300mでおよそ10か月振りに実践に復帰した。1番人気に推されていたが、結果は4着。久々を考えればこの先に期待を持たせる走りだった。続く2戦目は5月24日、盛岡競馬場のC2十五組で、再び1番人気に支持されたが、残念ながら1番身差の2着。この時の優勝馬が、馬と歴史と未来の会のFUMIER PROJECTで馬糞堆肥を購入しているジオファーム八幡平で余生を過ごしていたベルモントセブンで、こちらも一度は引退した形だったのが岩手競馬で復活して12歳の今も現役生活を送っている。ある意味、縁のある馬とのワンツーというのも面白い。

第二のストーリー

2戦目、縁のあるベルモントセブン(右)とのワンツー(提供:よこてんさん)


 ナグラーダの3戦目は6月7日、盛岡競馬場のC2十四組で、この時も1番人気に推されながら2着。4戦目は6月21日、水沢競馬場のC2十三組で、この時は2番人気で2着と、初勝利はまたしてもお預けとなった。それでも1度は競走馬を引退した馬が、オーナーや上田さんをはじめとする馬と歴史と未来の会の関係者はもちろんのこと、ナグラーダの挑戦を知って応援する人々を十分楽しませてくれたのは間違いない。再デビュー後、4戦を無事消化したナグラーダは、馬っこパーク・いわてで夏休みに入った。

(つづく)



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北海道旭川市出身。少女マンガ「ロリィの青春」で乗馬に憧れ、テンポイント骨折のニュースを偶然目にして競馬の世界に引き込まれる。大学卒業後、流転の末に1998年優駿エッセイ賞で次席に入賞。これを機にライター業に転身。以来スポーツ紙、競馬雑誌、クラブ法人会報誌等で執筆。netkeiba.comでは、美浦トレセンニュース等を担当。念願叶って以前から関心があった引退馬の余生について、当コラムで連載中。

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