2頭の牝馬に共通する興味深い一面
ちょっとあっけない結果の印象は残ったが、GIIの定量戦でGIホースは3頭だけの組み合わせ。GI馬3頭の「1着、2着、3着」だった。
予測されたように伏兵トーラスジェミニ(父キングズベスト)が先手を主張すると、レースの流れは落ち着いて、前後半の1000mは「60秒3-59秒1」=1分59秒4。
楽々と2番手につけた断然人気のラッキーライラック(父オルフェーヴル)に、これ以上はない展開(流れ)と映った。逃げた馬の前半1000m通過は、ダノンキングリーが先頭だった大阪杯の「60秒4」と酷似のペース。あのときスパートを待ったラッキーライラックは、馬場は異なるものの最後の3ハロンを「33秒9」で力強く伸びて抜け出している。
ところが、今回は4コーナーで早めに気力注入の叱咤のムチが入ったが、加速することができずに自身の上がりは「35秒5-12秒3」。伸びなかったというより、GI3勝のラッキーライラックとすれば失速にも近い内容だった。
「いい感じで行っているように見えたが、負けるときはこんな感じ(松永幹夫調教師)」。「きょうは思ったより伸びなかった(M.デムーロ騎手)」というレース後のコメントがあったが、着順や着差は別にして、直線失速の印象は宝塚記念と同じだった。ここまでのGI3勝は注目馬ではあっても、すべて1番人気ではなく、人馬ともに挑戦者の気迫に満ちていたときであり、ラッキーライラックは全6勝中の5勝(チューリップ賞以外)が1番人気ではないという珍しいチャンピオン牝馬になった。
また、すんなり2番手から抜け出した勝ち星もない。倒すべきライバルを前方に見据えたときの方がいいのだろうか。今回、体調は決して悪くなかった。とくに凡走したわけでもないが、もっときびしい状況に置かれたレースの方が闘志に火がつくのかもしれない。

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勝った同じ5歳牝馬ノームコア(父ハービンジャー)は、落ち着き払ってふっくらみせる素晴らしい状態だった。道中はもっとラッキーライラックを射程内に入れた方がいいのではないかと思えるほど悠然と追走していたが、4コーナー手前から楽々と進出すると、直線は並ぶまもなく一気に先頭を奪っての完勝。これで「紫苑S、ヴィクトリアマイル、富士S、札幌記念」。1600m-2000mの重賞を4つ制したことになるが、この馬もすべて1番人気ではない。鮮やかな勝利を決める牝馬にはこういう一面があるのだろう。ノームコアは、ラッキーライラックとの対戦成績2戦2勝となった。
この秋は、1歳下の同じ芦毛の半妹クロノジェネシス(父バゴ)とともにビッグレースに挑戦することになる。姉妹対決もありえる。妹のクロノジェネシスはGI、GIIを3勝(秋華賞、京都記念、宝塚記念)しているが、もちろんこちらも1番人気での勝利ではない。
2着に突っ込んだ6歳ペルシアンナイトもハービンジャー産駒だった。もう約2年半も善戦止まりのレースが続いていたため、6番人気にとどまったが、今回はいつにも増して気配抜群だった。このスローにも近い流れを後方からの追走は苦しい展開だったが、4コーナー手前から接近して上がり34秒5は勝ったノームコア、後方から差を詰めたイェッツト(父カンパニー)と並んで最速タイ。3歳春には皐月賞2000mをクビ差2着。秋にはマイルチャンピオンシップを制したGIホースらしい底力を示した。上がりの速い実質マイル戦のようなレースは合っていた。こなせる距離の幅は広いが、ここまでマイルチャンピオンシップを「1着、2着、3着」。この秋は4年連続の出走があるだろう。
定量のGIIで、GI馬3頭に完敗した馬が多かった中で、5歳牝馬ポンデザール(父ハーツクライ)の4着と、5歳牡馬イェッツトの善戦は立派。ポンデザールは一段と力強い馬体に変わっている。宝塚記念のサトノクラウンの半妹。もっと良くなるだろう。
一方、イェッツトは5、6歳になって本格化し、引退前の8歳秋に毎日王冠→天皇賞(秋)→マイルチャンピオンSを3連勝した遅咲きカンパニーの産駒。父方もタフなら、ヒシアマゾン、アドマイヤムーンが代表する牝系もタフな一族。このあとに注目したい。