先週、札幌にいる父のすい臓癌が肝臓に転移していることが明らかになった。肝転移となると余命は年ではなく月の単位となり、父の場合、このままだと年内、抗がん剤を服用すれば来春の雪解けまで延びるかどうか、というところらしい。
何もしないよりは、少しでも可能性のあるほうに賭けようと、抗がん剤治療を再開することにした。幸い、というべきか、コロナ対策で電話受診となり、父がいる横で私が主治医と話す形になった。なので、父本人は、癌が転移したことは知っているが、余命に関しては何も知らずにいる。これまでどおり、家で介護サービスを受けながら暮らすことになる。
私から、ケアマネージャー、ヘルパー、往診、訪問看護、そして通所介護の担当者にその旨伝えた。すると、私が帰京したあと、ヘルパーステーションの代表から連絡があった。買い物カートが壊れたので、私が札幌にいる間に新調しておくよう頼むつもりだったという。あとどれだけ使えるかわからないが、通販会社から実家に届けるよう手配した。
主治医から、元気なうちに、会いたい人に会ったり、行きたいところに行ったりしておくほうがいいと言われた。まさかそんな宣告を受けることになるとは予想していなかったので、力が抜けた。
1月にすい臓の半分を摘出する手術を受けたあと、コロナの感染予防のため、抵抗力が落ちないようにと抗がん剤服用を休む時期がつづいた。その後、CT検査の結果も問題ないし、腫瘍マーカーも低いし、できる治療はすべてしたのでこれで終了にしましょうと主治医に言われてから2カ月半しか経っていない。今年で84歳という年齢を考え、手術をしないで抗がん剤を飲みつづけるという選択肢も昨年のうちに提示されており、そちらを選ぶべきだったのか……など、いろいろ考えたが、現実を受け入れるしかない。
電話受診を終え帰京した翌日、ラジオNIKKEI「鈴木淑子の地球は競馬でまわってる」に出演するため、虎ノ門のラジオNIKKEIのスタジオを訪ねた。同番組に出演するのは2017年9月以来ちょうど3年ぶりで、そのときは同年亡くなった山野浩一さんのことや、自分自身について話した。今回は、7月に上梓した競馬ミステリーシリーズ第4弾『ノン・サラブレッド』についてと、競馬ミステリーシリーズ全体や、これまでつづけてきたノンフィクションの取材・執筆などについて話した。
声をかけてくれたのはアナウンサーの佐藤泉さんだった。スタジオには佐藤さんと淑子さんのほか、収録は別々になったが、同じ番組に出る中野雷太アナや、酒井純ディレクターらもいた。コロナ禍に見舞われてから、これだけたくさんの関係者に会ったのは初めてだったし、アクリル板越しとはいえ、久しぶりに淑子さんと話ができて嬉しかった。
番組で話したように、私は巨人ファンなので、競馬ミステリーの登場人物にも、ときおり巨人の選手やスタッフの名前を使っている。『ダービーパラドックス』を書いていたころ、一番好きな小林誠司捕手のライバルとして、若手の宇佐見真吾捕手が浮上していた。なので、主人公の競馬記者と重要な生産者の名は、2人の姓名を入れ替えて、小林真吾と宇佐見誠司とした。そして、小林の先輩記者を沢村にした。
ところが、である。宇佐見捕手は昨年6月にトレードで日本ハムに移籍し、つい先日、沢村投手がロッテにトレードされた。そして今、小林捕手がトレードに出されるのではないかと、ネットのニュースなどで噂になっている。
オイオイという感じであるが、コバちゃんがトレードに出されたら、しばらく巨人ファンはお休みにして、コバちゃんの移籍先を応援するかもしれない。
私が出演した「鈴木淑子の地球は競馬でまわってる」の後編が、今週金曜日、9月18日の午後8時半から9時までオンエアされる。このコラムを読める環境にある人なら、ラジオがなくても、radikoというアプリで聴くことができる。もしよければ、どうぞ。
本稿がアップされる前日、9月16日は、日本中央競馬会が設立された「競馬の日」である。
今、紀伊國屋書店で「この日何の日365日文庫」というフェアが持ち回りで行われている。例えば、6月3日の「ウェストン記念日」なら、英国国教会の宣教師で、日本アルプスを初めて踏破したウォルター・ウェストンが書いた『日本アルプス』というように、365冊が紹介されている。
その「競馬の日」の本が、何と『ダービーパラドックス』なのである。
手前味噌ばかりになってしまったが、お許しいただきたい。
少しずつ、風が秋の気配を感じさせるようになってきた。
静かなハイシーズンの幕開けだが、熱い戦いに期待したい。