▲角居調教師の最後の有馬記念、浜中騎手が思いを明かします (撮影:下野雄規)
三冠馬3頭が顔をそろえたジャパンCで、展開のカギを握ったのが浜中騎手とキセキのコンビ。結果は8着でしたが、世紀の一戦をより印象深いものにしました。次の有馬記念ではどんな戦法を考えているのか? 浜中騎手を直撃すると、キセキの独特な個性が見えてきました。
とはいえ、過去にGIを勝っている底力のある馬。勇退が迫っている角居勝彦調教師のラスト有馬ともあって、浜中騎手の思いもひとしお。実は“有馬記念の申し子”であることも判明し…!?
(取材・文=不破由妃子)
三冠馬に勝つために…大逃げを選択したジャパンC
──有馬記念には、ファン投票6位のキセキとのコンビで出走。ジャパンCでの大逃げが記憶に新しいコンビですが、まずは初騎乗となった京都大賞典(2着)から振り返っていただけますか?
浜中 レース前は、とにかく難しそう…というイメージでした。折り合い面もそうですが、阪神大賞典(7着・川田将雅騎手)ではスタートを出なかったりもしたので。
レース前に(武)豊さんにも話を聞いたんです。そうしたら、「スタートは出ない可能性があるから、位置取りは気にせず、折り合いだけ気をつけて乗っていったらいいと思う。折り合えれば、途中から上がっていける脚はあるから」と。そのアドバイスを参考に乗ったのが京都大賞典でした。
──結果的に最後方からの競馬に。レース前の「難しそう…」というイメージに変化は?
浜中 やっぱり難しかった(苦笑)。僕が感じた一番の課題は折り合いで、リズムを取るのが難しいんです。返し馬も「とにかくすごいよ」って聞いていたんですが、本当に特徴的で。
──「唸るような手応え」で行きますよね。
浜中 はい。まるで戦車のよう(笑)。それに、鼻づらが胸に付くほど鶴首になって、「普通、こんな格好になる!?」っていう格好で走っていくんです(笑)。パワーのコントロールが本当に難しいです。京都大賞典で思い知りました。
──コンビ2戦目となったジャパンCでは、一転して大逃げを選択。
浜中 スタートがよければハナに行こうと思っていました。勝ちを意識するなら、三冠馬3頭より後ろにいたら、はっきり言って勝負にならない。とにかくセーフティリードを取る競馬がしたいと思っていました。でも、本当はね、あと1秒くらいペースを落としたかったんですけど。
──1000m通過タイムは、57秒9。さすがに速かった。
浜中 僕も「速いなぁ」と思ってましたよ。でも、1コーナーに入った時点でガツンとスイッチが入ってしまったので、こうなったら抑えても一緒だなと思って。とはいえ、どこかでフッと抜けるんだろうなと思ってたんですよ。でも、キセキはとことん行きよった(苦笑)。
──なるほど(笑)。とことん行った結果、最後の直線に入っても、後続は遥か後方。ちょっとワクワクしました。
浜中 直線に入るときに、チラッとターフビジョンを見たんです。そうしたら、思った以上に差が開いていて。馬もさすがに疲れていて、脚が上がりかけているような状態でしたが、あまりにもリードが大きかったので、ほんの一瞬「ひょっとして…!?」と思いました。まぁそのあとは完全に脚が上がってしまいましたけど(苦笑)。
▲「ほんの一瞬“ひょっとして…!?”と思いました」と浜中騎手 (撮影:下野雄規)
恩義のある角居調教師のために!
──結果は8着でしたが、あの世紀の一戦を、より印象深いものにしてくれた大逃げだったように思います。
浜中 注目度の高いレースでしたから、僕としても「ここで一泡吹かせたい」という気持ちが強かったです。あそこまでペースが速くなってしまったのは計算外でしたけど、一発を狙うのであれば、ある程度のペースで行こうとは思っていましたし。
ジャパンCは、理想の型に嵌められればと思っていたけど、理想には至らなかったので…なので有馬記念では、よりキセキの気分を損なわないように型にとらわれず乗れればと思っています。
──何パターンもプランを用意して挑む?
浜中 いや、キセキの場合、考えてもなかなか…(苦笑)。有馬記念はとにかく、いかに気分よく走らせることができるか、それだけを考えて乗っていこうと思っています。
──浜中さんにとっては、2017年のミッキークイーン(11着)以来となる有馬記念。その年の総決算とあって、やはりテンションが上がる一戦ですか?
浜中 上がりますね。僕は1988年12月25日生まれなんですけど、3歳のオグリキャップが有馬記念を勝った日なんです。で、母親いわく、有馬記念を見てから僕を産んだんだって。小さい頃からずっと言われてきたので、なんか余計にテンションが上がります(笑)。
──それは縁がありますね!
浜中 この話、ガチなんですよ。出産時刻と照らし合わせても、本当にその通りの時間で。だから、僕のなかで有馬記念は特別なんです。それに、ジョッキーとしてはやっぱりファン投票で選ばれる馬に乗っていたいという気持ちがあります。そういう意味でも、テンションが上がりますね。
──特別ということでは、キセキを管理する角居調教師にとって、最後の有馬記念になります。やはり意識されますか?
浜中 もちろんです。ダービー(2019年ロジャーバローズ)を勝たせてもらった先生ですからね。デビューした頃からたくさん乗せていただいて、GIでも多くの経験を積ませていただきました。先生も最後の有馬記念ということで、力が入っていると思います。
キセキは難しさもありますが、嵌まれば当然、勝つ可能性のある1頭です。あとは、レース当日、気分よく走ってくれれば……。先生からも馬にお願いしてほしいです(笑)。