スマートフォン版へ

馬への愛が半端じゃない! 馬好きな呉服屋さん(1)

  • 2021年02月02日(火) 18時00分
第二のストーリー

馬好きな呉服屋、我妻さんが引き取ったエースティターン(提供:我妻登鷹さん)


縁あって引退馬のオーナーに


 その人を最初に知ったのはTwitterだった。「馬好きな呉服屋の我妻とエピ」というアカウント名の印象が強く残った。昨年11月にその我妻登鷹さんから、私が関わっている引退馬牧場・ノーザンレイクを見学させてほしいというダイレクトメッセージが届き、その数日後には始まったばかりの牧場にわざわざ足を運んでくれた。

 いざ話をしてみると本当に馬愛が強く、大ファンのオジュウチョウサンについてや、アカウント名にもなっているポニーの愛馬エピのことなどを熱く語った。結婚相手は午年の人! と決めていたそうで、見事願い通りの女性と結婚できたと聞き、ものすごい引き寄せ力にも驚いた。その日は日差しも少なく風が冷たい寒い日だったが、我妻さんは全くそれを感じていないかのようだった。

第二のストーリー

午年の奥様と愛馬と、結婚の記念写真(提供:我妻登鷹さん)


 我妻さんは、ポニー以外に引退競走馬も所有している。エースティターンという馬だ。競走馬時代のオーナー・渋谷陽さんは我妻さんの知人で「引退した競走馬の面倒を最後までみたい」という話もしていたという。

「渋谷さんは僕のことを御曹司と呼ぶんですけど…」

 渋谷さんのTwitterにも、御曹司という呼称で我妻さんはたびたび登場していた。

「体は大きいけど足の遅い馬がいるのだけど、馬への愛情が半端ではない御曹司なら(引退後に)譲っても良いと言われた馬がいました。渋谷さんも馬への愛情のある方ですから…。でも冗談だろうと思っていたんです」

 そしてある日、渋谷さんから引退が決まった旨、連絡が来た。渋谷さんは本気だったのだ。我妻さんはすぐに引き取りますと返答していた。それがエースティターンだった。

 預託先は千葉県にある馬事学院。エピを預託している牧場から車で30分圏内と場所も都合が良く、代表の野口佳槻さんとは以前から知り合いだった。

 馬愛が半端ではないだけあって、我妻さんは馬事学院の馬運車に同乗して、大井競馬場までエースティターンを迎えに行った。

「朝、神奈川県の自宅から千葉県の馬事学院まで行って、そこから馬運車に乗り換えて馬事学院の生徒と一緒に大井競馬場に行きました」

 競馬場ではエースティターンを馬運車に積み込み、再び馬事学院へと戻ってきた。こうしてエースティターンの第二の馬生が始まった。

第二のストーリー

迎えに行ったときの馬運車の中の様子(提供:我妻登鷹さん)


2頭の小さい、大切な家族


 我妻さんは、IWAKIYAという1897(明治30)年創業の老舗呉服店の5代目にあたる。渋谷オーナーに御曹司と呼ばれるのも、これが理由と思われる。我妻さんと馬との出会いは小学校の頃に遡る。主に横浜など神奈川県に店舗を展開しているが、近年は東京にも進出し、2017年に蒲田店、2020年に銀座店(乗馬倶楽部銀座内)がオープンしている。

「親戚がJRAの馬主だった関係で、浦河の牧場に1週間ほど滞在したことがありました。そこに当歳馬たちがたくさんいて、その馬たちに一目惚れしました」

 当歳馬はサラブレッドだったが、まだ仔馬で小さかったこともあり、それ以来小型の馬が大好きになった。高校生の頃、雑誌でポニーという小型の種類の馬の存在を知った我妻さんは

「30歳になって独身だったら、ポニーを飼おうと決めていました」

 当時独身だった我妻さんは、30歳の誕生日を迎えた次の月にエピを迎え入れた。

「小学校の頃から知っていた地方競馬の調教師にポニーが飼いたいと相談したら、千葉県の育成牧場を預託先に紹介してくれました」

 さらに預託先となる育成牧場から茨城県の牧場に繋いでもらって、エピの購入に至った。

第二のストーリー

我妻さんとポニーのエピ(提供:我妻登鷹さん)


「自分のハイエースにエピを乗せて(笑)、千葉の預託先の牧場に連れて行きました」

 わりと自由がきく牧場で、エピにも広い放牧地が貸与されている。

「朝放牧に出して夕方収牧してもらっていて、環境も良いですし、多分放牧地も100mトラック分くらいの広さがあります。僕が行った時には自由に洗い場も使わせてもらっていて、非常に恵まれていますね。出会った人に助けて頂いているという感じですね」

 やがて我妻さんは、クロエという2頭目のポニーを所有することとなった。クロエはエピを預託している牧場の社長が孫へのプレゼントとして、エピと同じ牧場から購入した馬だったが、残念ながら孫はまるで馬に興味を示さなかった。

「僕がエピを溺愛しているのを見て、牧場の社長がこの馬も一緒に面倒みてよと、エピと同じ馬房に入ることになりました」

 そこから自然の流れでクロエも我妻さんの愛馬となった。実はこのクロエは、偶然にもエピの産みの親でもあった。さすが親子だけあって2頭並ぶと見分けがつかないほどそっくりだ。

第二のストーリー

左がエピ、右がクロエ(提供:我妻登鷹さん)


「クロエはエピを産んでわりとすぐに売られたらしいんですよね。その後を追うようにその子供のエピが、同じ牧場に来るというのも偶然ですよね。エピがお母さんと再会ができたのは、とても良かったのかなと思っています。久々に会うのでどうかなと思ったのですが、お互い相性が良くて全く嫌がらなかったですね」

 我妻さんは愛馬たちに会いに、神奈川県から千葉県まで週に2回は車で通い、熱心に世話をしているのだった。

(つづく)



▽ IWAKIYA HP
https://www.iwakiya.net/

▽ 乗馬倶楽部銀座内にオープンした きもの銀座いわきや
https://www.iwakiya.net/information/view/260

このコラムをお気に入り登録する

このコラムをお気に入り登録する

お気に入り登録済み

北海道旭川市出身。少女マンガ「ロリィの青春」で乗馬に憧れ、テンポイント骨折のニュースを偶然目にして競馬の世界に引き込まれる。大学卒業後、流転の末に1998年優駿エッセイ賞で次席に入賞。これを機にライター業に転身。以来スポーツ紙、競馬雑誌、クラブ法人会報誌等で執筆。netkeiba.comでは、美浦トレセンニュース等を担当。念願叶って以前から関心があった引退馬の余生について、当コラムで連載中。

バックナンバー

新着コラム

アクセスランキング

注目数ランキング