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TUBE前田オーナーが語る愛馬ノブワイルドへの想いー『シービスケット』が手繰り寄せた運命の巡りあい<第1回>

  • 2021年02月28日(日) 18時01分
ノブワイルド

愛馬ノブワイルドの話になると、少年のように目を輝かせて熱く語ってくれたTUBEのボーカリスト・前田亘輝オーナー


日本の夏を象徴するバンド、TUBEのボーカリスト、前田亘輝(のぶてる)氏。じつは、“ノブ”や“サマー”の冠号で愛馬を走らせる、競走馬のオーナーでもある。芸能人オーナーは少なくないが、ひとつ勝つだけでも困難なのが競馬の世界。オーナーとして多くのことを経験させてくれた愛馬ノブワイルドとの邂逅を振り返ってもらうと同時に、競馬への熱い想いを語ってもらった。(取材・文・構成=長谷川雄啓)

『シービスケット』が馬主への道しるべに


 先日現役を引退し、種牡馬になったノブワイルド。重賞5勝をプレゼントしてくれた、前田亘輝氏の代表馬だ。

「まずは自分がわかりやすいように、庭先やセリで手に入れた仔は“ノブ”。区別がつくようにと、繁殖に上げた牝馬から生まれた仔は“サマー”にしようかなと」

 この2月13日には、ノブクィーンを母に持つサマーカナロアが、小倉の未勝利戦で待望の初勝利を挙げている。

 そんな前田亘輝氏と競馬との接点は、アメリカの実在の競走馬の生涯を描いた映画『シービスケット』から。

「どこだったかな、とにかく飛行機のなかで観たんですよ。奥の深い映画でね。ボクはちょうど厄年だったんですが、アドバイスをくれた人のなかに、他の命を大切にしなさいという人がいて。そういわれても猫はアレルギーだし、犬もいざ飼うのは大変そう。『シービスケット』に感動したから、じゃあ、馬主になるかと。帰国して、すぐにJRAに行って『馬主になりたいんですけど』と、いってはみたものの、当然、門前払いみたいな感じでしたね」(笑)

 その後、無事馬主資格を獲得し、馬を購入。自身での馬選びのポイントは、至ってシンプルだという。

「目と顔。ジーッと僕を見てくれる。遠くからでも、ちょっとこうアピールするとか」

 そして名付けの多くは、“冠号+ミュージシャン名”。

「馬を見た時に感じたギタリストや、ロックバンドのイメージで。例えば、ノブワイルドなんか、すごく細かく動いていたので、超速弾きのギタリスト、ザック・ワイルドみたいだなと。ノブジョプリンという牝馬がいるんだけど、こちらは女性シンガーのジャニス・ジョプリンから。ちょっと狂気的に走って欲しいなと思って」(笑)

 初めての所有馬は、05年産の牝馬、TUBEのヒット曲から名付けたコイシテムーチョ。しかし、出走は叶わなかった。続く06年産のノブサマーも、「調教は良かったんだけど、デビュー前に心臓麻痺で…。いや、もう、すぐに辞めようかと思いましたよ。映画みたいには上手くいかないんだなって」

 それでも続けたのには、理由がある。

「やっぱり“人馬”ですから。出会えたジョッキー、調教師の先生、牧場の皆さん…。馬を運ぶ馬運車の運転手さんにも、映画になるぐらいのドラマがある。薄っぺらい部分でしか見ていなかったから、馬についての奥深さを知りたくなったというのかな」

ノブワイルド

前田オーナーが惹かれたというノブワイルドの馬相。(写真は19年オーバルスプリント勝利時、撮影:高橋正和)


運命を変えた小久保師との出逢い


 そんなある日のこと。面白い人がいるからと、知人に紹介されたのが南関東・浦和競馬の調教師、小久保智師だった。

「初めて会ったときの格好が、テンガロンハットにベスト。カウボーイ? マジシャン? って感じ(笑)。でも、とにかく熱かった。ミュージシャンが楽器について語るみたいにね。僕はまだそんなに詳しくないから、チンプンカンプンですよ。ただ、この人と何か一緒にできたらって思ったのは確かだった」

 小久保師も、あの日を振り返る。

「いやぁ、緊張して何を話したかなんて、覚えてませんよ。だって、大スターが目の前にいるんだもの(笑)。こっちは馬の話しかできないじゃないですか」

 ところが、この出会いが前田亘輝オーナーに、ノブワイルドという馬を引き合わせる契機となる。小久保師は語る。

「2013年のサマーセール。ものすごくやんちゃで。体を自由に、ピョンピョン暴れてるのが、すごく印象に残ってて。まだあの歳だと、自分の脚がどこにあるのかを把握しないで暴れてる仔はたくさんいるけれど、ワイルドはちゃんとわかってやんちゃしてるなっていうのがありましたね。何か買っていいよ、といわれていたので、前田オーナーの名前で落としました」

 コウエイベストの2012、後のノブワイルドは、こうして前田亘輝オーナーの所有馬になった。それでも小久保師は、中央からのデビューを勧めた。

「3月か4月かな。牧場に見に行ったら、あまりに動きがいいんで、中央でも活躍できそうだから、どうですかって、いったんですけど」

 その進言を受け、ノブワイルドは、美浦・畠山吉宏厩舎からデビュー。2014年7月、函館芝1200mの2歳新馬戦は、1番人気に推されるも7着に敗退。しかし、2戦目の札幌ダート1000mでは持ったまま2着に大差をつけ、初勝利を飾る。レコードまであとわずかに迫る圧勝劇だった。

 デビューから4戦目の500万下特別・オキザリス賞(現1勝クラス・東京ダート1400m)では、生涯のライバルとなるブルドッグボスと対戦し、2着に。やれると手応えを感じて臨んだ次の東京ダート1600mで、まさかの12着大敗。するとレース後に、骨折が判明したのだ。

ノブワイルド

終生のライバル・ブルドッグボスと初めて対戦した14年オキザリス賞。好敵手同士の名勝負はここから始まった(撮影:下野雄規)

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