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元競走馬が1頭でも多く生き残れるように…天真爛漫なトリビューンとの日々(2)

  • 2021年03月02日(火) 18時00分
第二のストーリー

西野さんの愛馬となったトリビューン(提供:西野美穂さん)


練習を積み重ね、一心同体で競技会へ


 西野美穂さんの愛馬トリビューンは、2011年2月16日に北海道日高町のダーレー・ジャパン・ファームで生まれた。父はコマンズ、母トリプルピルエット、その父がサンデーサイレンスという血統だ。馬主はシェイク・モハメド殿下。栗東の野中賢二厩舎の管理馬として、2014年1月の新馬戦でデビュー(5着)し、8戦目の未勝利戦で初勝利を挙げた。その後、1年3か月の長期休養を挟み、2015年11月の500万条件戦で復帰(10着)するも、結果的にこのレースがトリビューンの最後のレースとなった。

 トリビューンは、ダーレー・ジャパンで行っているリホーミングプログラムから、西野さんが通う奈良県の新庄乗馬クラブへとやって来た。リホーミングプログラムとは、ダーレーの引退した競走馬たちが牧場に里帰りして、故障があればそれを治療するなど数か月間ゆったりと過ごして競走生活の疲れを癒したのち、それぞれの馬の個性に合ったセカンドキャリアへと繋ぐというものだ。

「ダーレーでリホーミングプログラムに携わっているのが、大学馬術部時代の2つ上の先輩の澤井靖子さんで、その方の伝手でトリビューンが新庄乗馬クラブに来ました」
         
 競走馬引退は2015年12月、故障が原因だった。ダーレー・ジャパン・ファームでの治療および休養期間を経て、第二の馬生がスタートした。

「ヒョロヒョロしている馬だなというのが第一印象でした」

 そして前回紹介したように、最初から天真爛漫な馬だった。   

「人が本当に大好きで、なになになーに? みたいな感じで、こちらが要望していることを聞こうとする姿勢が印象的でした」

 その可愛さが決め手となって、西野さんは自分の愛馬として面倒をみることにした。

第二のストーリー

出会った当初から天真爛漫だったトリビューン(提供:西野美穂さん)



 西野さんは、新庄乗馬クラブの経営者夫婦と相談をして、全日本障害馬術大会(以後、全日本)出場を目標に定めてプランを立てた。トリビューンは乗馬、そして障害馬としての調教を受けた。

 2017年に競技会デビューを果たすが、馬場に入るとテンションは高めで、集中力に欠ける面を見せていた。それは3年以上たった今も残っているという。そのあたりがレースで走るために調教されたサラブレッドを乗用馬としてリトレーニングすることの難しさとも言える。だが競走馬を引退した後に命を繋いでいくための選択肢は、繁殖用を除けば、ほぼ乗馬の道しかないというのが現状だ。

 障害用に調教された優秀な外国産馬を購入するのと、元競走馬をリトレーニングして競技会デビューまで持っていくのとは、費用面はほとんど変わらないのではないかと西野さんは話す。ならば、外国産馬を海外から輸入した方が手っ取り早い。それをあえて愛馬トリビューンを全日本に出場できるまでに調教するのは、元競走馬が1頭でも多く生き残っていってほしいという願いがあるからだ。

 幸いトリビューンは、飛ぶのが大好きだった。練習や競技会で障害の手前で止まってしまう馬をよく見かけるが、トリビューンにはそれが一度もない。騎乗者の障害への誘導の仕方が適切だったのもあるが、障害に対して前向きに向かっていくというトリビューンの気性も大きく影響しているように思う。テンションが高めだったり、集中力が続かない面があるにせよ、障害馬としての高い資質をトリビューンは持っているといえよう。

「大学卒業後に渡ったオーストラリアでは毎週末競技会があって、そこである程度馬が淘汰されて選りすぐられた馬が残っていくんですよね。オーストラリアのようにタフに競技会に使っていかないと、日本国内でも渡り合えないだろうなと思って、お金もかかりましたけど多くの競技会にトリビューンを出場させました。まあ必ずしもこちらの思い通りにはならなかったですけど(笑)。それでもまあ結構強い馬の部類にはなってきたかなと思います」

第二のストーリー

障害を飛越するふたり(提供:西野美穂さん)


 
 たくさん経験を積み、場の雰囲気に慣れさせることももちろん大切だが、認定の競技会で全日本に出場するためのポイントも稼がなければならない。

「中障害飛越競技D(110cm)という全日本の中では1番低い障害のクラスなので、その分、激戦なんですよね」

 競技会にはクラブの経営者でありインストラクターの岡村実さんと、西野さんが騎乗して出場している。

「出番の前には、何で出るって言ったんやろなと思ったりもするのですが(笑)、終わった後はああ楽しかったっていう感じですね。これはうまくいってもいかなくても、やはり楽しかったと昔も今も思えるので、きっと試合が好きなのでしょう」

 馬と人との共同作業ともいえる乗馬だが、競技会に出場するたびにトリビューンとの距離が近くなっていると西野さんは感じているそうだ。 

 乗るだけではない。普段から馬に話しかけてコミュニケーションを図ってもいる。 

「よく厩舎でブツブツ言っています(笑)。自分では普通だと思っているのですけど、周りから見るとおもしろいみたいですね(笑)」

第二のストーリー

西野さんとトリビューンのコミュニケーション!(提供:西野美穂さん)


 こうして紡ぎ、積み重ねてきた馬と人との信頼関係や努力が、昨年ついに花開いた。

(つづく)



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北海道旭川市出身。少女マンガ「ロリィの青春」で乗馬に憧れ、テンポイント骨折のニュースを偶然目にして競馬の世界に引き込まれる。大学卒業後、流転の末に1998年優駿エッセイ賞で次席に入賞。これを機にライター業に転身。以来スポーツ紙、競馬雑誌、クラブ法人会報誌等で執筆。netkeiba.comでは、美浦トレセンニュース等を担当。念願叶って以前から関心があった引退馬の余生について、当コラムで連載中。

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