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【大阪杯】ファミリーの秘める一面が勝負強さとなって現れた

  • 2021年04月05日(月) 18時00分

重馬場を難なくこなした小柄な牝馬


重賞レース回顧

5戦5勝で挑戦した4歳牝馬レイパパレが圧勝(C)netkeiba.com


 水しぶきの上がる馬場が明暗を分けたとはいえ、5戦5勝で挑戦した4歳牝馬レイパパレ(父ディープインパクト)の圧勝だった。無敗のまま6戦目で古馬のGI制覇は、グレード制導入後もう38年目になるが、史上3頭目の最少タイ記録だった。また、422キロの馬体重の勝ち馬は、古馬のGIでは(牝馬限定戦は別に)、歴代最少馬体重とされる。

 差しの利かない馬場を読み、リズム良く主導権をにぎってマイペース「前後半59秒8-61秒8」=2分01秒6に持ち込んだレイパパレ(川田騎手)は、少しも楽なペースではないのに、最後の直線で進路を芝のいい馬場の中央に出す余裕があった。パワフルではなくとも、小柄な牝馬の方が雨馬場をこなすことがある(自身にかかる負担が少ない)とされるが、それにしても2着モズベッロ(父ディープブリランテ)に4馬身差。3着コントレイル(父ディープインパクト)以下には、それ以上の決定的な差をつけての独走だからすごい。

 重巧者という形容はおそらく正確ではなく、こういう馬場も難なくこなしたという表現があてはまるだろう。下級条件当時すでに、高速の芝1800mを1分45秒3(上がり33秒2-11秒3)で完勝したスピードも切れも備えている。ディープインパクト産駒の活躍馬の多くは、渋馬場は歓迎ではないことが多く、レイパパレも一見、非力そうに見えたが、実はそうではなかった。

 ディープインパクト産駒には、今回対決したコントレイル、グランアレグリアなど、海外からの直近の輸入牝馬を母や祖母に持つケースが多いが、レイパパレの母方は、現代のGI馬にはかなり珍しい日本伝統の牝系フロリースカップ(1904年生まれ。明治40年輸入)を牝祖とするファミリー。近年の活躍馬には、同じ高野友和調教師、川田将雅騎手のコンビで2014年のホープフルS(GII)を制した全兄シャイニングレイはいるが、この分枝に著名馬は少なく、4代母ヤマニサクラ(父タリヤートス)は1970年の天皇賞(春)を制したリキエイカン(父ネヴァービート)の半妹。6代母は、1956年の桜花賞2着、菊花賞2着のトサモアー(父トサミドリ)と紹介されるのが一般的な血統背景になる。日本の生産界が一世紀以上も大切に育て上げてきたファミリーの秘めるタフな一面が、重馬場など平気な勝負強さとなって現れた部分があるのかもしれない。

 同じ路線のグランアレグリア、コントレイル、サリオス…などと良馬場で再び対戦し、さらには同じ4歳牝馬デアリングタクト(父エピファネイア)との対決もあるだろう。レイパパレの逆転の快走は、このあとの中距離路線を大きく盛り上げることになった。

 2着に突っ込んだモズベッロは、相手がコントレイル、グランアレグリアだから見事。昨年の宝塚記念の3着は、クロノジェネシスから6馬身差の2着キセキに、さらに5馬身差なので評価は低かったが、タフなコンディションの阪神の2000mはベストだった。

 レースの前半からモズベッロ(池添騎手)はコントレイルをずっとマークしつつ、いつもよりずっと積極策だった。重馬場は味方しただろうが、決して恵まれての2着ではない。ハデなタイプではないが、GI2着、3着を含み通算[4-4-1-9]。2000-2400mに良績が集中するので、前半戦の最大目標は宝塚記念か。

 コントレイルの最大の敗因は「雨の重馬場」ということになるが、今回の完敗は大きなショックでもある。無敗の三冠馬の先輩ディープインパクトも、シンボリルドルフも、海外を含めて前者は2度、後者は3度負けているが、故障がらみではなくこういう形の完敗はなかった。もちろん、たちまち巻き返してくれるだろうが、タフな馬場で他馬をパワーで圧倒しないことには、欧州のビッグレース向きとはいえなくなったからだ。

 4着グランアレグリアの最大の敗因も、滑るような「雨の重馬場」。ただ、道中の行きっぷり、直線の残り1ハロンまでのレース内容から、距離2000mは十分に守備範囲であることは確認できた。なにも今回の一戦でアーモンドアイと並び立つような名牝への道が閉ざされたわけはない。ただ、勝ったレイパパレは無類の重馬場巧者だから…とはいえず、自分より若い4歳牝馬だった。グランアレグリアはプライドを取り戻すレースが必要になる。

 3番人気で5着に沈んだサリオス(父ハーツクライ)は、大型馬のわりに大跳びのフットワークではないから、渋馬場はそう大きな死角ではないのではないか、と思われた。しかし、積極策でレイパパレを追走して失速してしまった。レイパパレとは逆に、パワー十分と映る大型馬は「雨の重馬場を苦にするケースが少なくない」パターンだった。今回は、レイパパレより116キロも重い身体を自分で運ばなければならなかった。

 逆転の生じた波乱のレースだった。でも今回、人気の中心となって負けた3頭も、まだみんな「4-5」歳のここまでキャリア10戦前後以下の馬ばかり。展望できる大きな未来がある。巻き返してくれるはずだ。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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