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【日本ダービー】牝馬サトノレイナスの参戦に敬意 国枝師、里見オーナー…ホースマンたちの挑戦史

  • 2021年05月23日(日) 18時01分
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▲サトノレイナスで8回目のダービーに挑戦する国枝調教師 (C)netkeiba.com


「当時筆者はウオッカがダービーを勝つということを全くイメージできていなかった」ーーそう振り返ったのは、競馬評論家の須田鷹雄さん。牝馬のダービー挑戦に、「勝てない」という先入観や思い込みがあったと言います。

それを「勝てる」という発想に転換させた、ウオッカの勝利。そして、後に続く者たちの勇気。サトノレイナスの国枝栄調教師、里見治オーナーをはじめ、強い思いでダービーに挑んできた数々のホースマンたち。その挑戦の歴史を振り返ります。

(文=須田鷹雄)

牝馬は「勝てない」という思い込みから、「勝てる」という発想へ


 皆さんも同じだろうが、サトノレイナスがダービーに出走すると聞いて、最初に想起したのはウオッカの2007年だった。ウオッカは阪神ジュベナイルフィリーズで既にGIタイトルを持っていたという点だけはサトノレイナスと違うが、桜花賞2着からのダービーというのも共通している。

 自らの不明を恥じるしかないが、当時筆者はウオッカがダービーを勝つということを全くイメージできていなかった。それは先入観、思い込みによるものだったと認めるしかない。

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▲64年ぶりの牝馬のダービー馬となったウオッカ (撮影:下野雄規)


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▲偉業を遂げた関係者たちは晴れやかな表情 (撮影:下野雄規)


 言い訳のようになるが、牡馬を相手にクラシックに挑んだ牝馬が結果を出せていなかったということはある。筆者はいわゆるミスターシービー世代だが、1983年のダービーには桜花賞馬シャダイソフィアが出走し、17着と敗れていた。他のクラシックではダンスパートナーが菊花賞で1番人気となり5着に敗れるところも見てきた。

 ただそれは後から思えば、ごく少ないサンプルの話であるし、そして個体としてのレベルや適性、状態の問題もあったかと思う。少ない失敗例だけを見て思考停止してしまったのはやはり不明の極みとしか言いようがない。

 そもそも古馬の芝中長距離GI戦線においても、牝馬不遇の時代はあり、その後に牝馬の強い時代がやってきた。グレード制導入後、1996年までに芝2000m以上の全性・牡牝GIを勝った牝馬は外国調教馬のホーリックスだけだった。

 しかし1997年にエアグルーヴが天皇賞・秋を制し、2005年になるとスイープトウショウ(宝塚記念)やヘヴンリーロマンス(天皇賞・秋)が現れた。そこで関係者すべての意識が変わったからこそ、牝馬が強いいまの時代があるのだ。

 勝てない、という思い込みから、勝てる、という発想へ。その変化を担う人馬は偉大だし、後に続く勇気も評価されてよい。3歳馬でいえばレッドリヴェールやファンディーナのようにうまくいかなかった例もあるが、牡牝に限らずどんな属性のグループでも、すべての馬が勝つということはない。逆に、当たり前のことだが出走していない馬が勝つことはない。

 考えてみれば、これだけ古馬の世界で牝馬が活躍しているのに、同じセックスアローワンス2キロを貰っておきながら3歳GIで牝馬が通用しないと考えるのもおかしな話である。ウオッカの時代に比べていまのほうが、牝馬の挑戦は自然なことと受け止められてもいいのではないだろうか。

「ダービーに挑む」という関係者の気持ち


 それに加えて、心情的、情緒的なことで言えば、おそらくは勝ち負けになるオークスを捨ててダービーに挑むという関係者の気持ちを、無下に否定したくはないということもある。

 国枝栄師はこれが8回目のダービー挑戦。里見治オーナーは2016年にサトノダイヤモンドでダービーのハナ差2着を経験している。あのダービーを見たときは、たった数センチの差がこれほど残酷なものかと心に突き刺さったものだ。

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▲マカヒキにハナ差及ばず無念の2着 (撮影:下野雄規)


 人生においてダービーを勝つチャンスはそうそう来るものではない。馬主と調教師の気持ちが重なったのだとすれば、そこになんらかの宿命が存在したとしても不思議ではない。

 ダービーは競馬に携わる者誰もが取りたいタイトルだ。GIはそれぞれに重い価値を持つが、それをさらに超える存在だろう。野平祐二さんは騎手としてダービーをついに勝てず、調教師になったのち「日本ダービー50年史」の中で、こう語った。

「もし私がダービーに勝つことができましたら、その時はもちろん、是非ともこう自己紹介してみようと思っているのです。『私は、日本ダービーを勝ちました調教師の野平祐二です』と……」

 そして翌年実際に、シンボリルドルフでダービーを勝ったのである。いまで言えば、騎手として25回挑んだダービーに勝てず、しかし調教師として目指そうという蛯名正義師もいる。

 ダービーだけに限らない。ノースヒルズの前田幸治オーナーはチャンスのある限り凱旋門賞を目指すだろうし、それぞれのオーナーにはそれぞれの一番勝ちたいレースがある。そこに向かえる馬がいるなら、挑戦するのは当然のことだと思う。

 繰り返しになるが、勝てると思うことがすべての始まりだし、出走していない馬が勝つことはない。サトノレイナスがどんな結果になるのは分からないし、結果が出てからはあれこれ勝手な言葉が飛び交うのかもしれない。

 しかしサトノレイナスがダービー挑戦にふさわしい馬であることは間違いないし、時代も後押ししていることは既に述べた通りだ。

 サトノレイナスに限らずすべての馬をファンは評価しなければならないし、その評価は人によって異なる。本命にする人がいても無印にする人がいてもいいし、筆者もまだどうするかは決めていない。ただそれとはまったく別な価値観として、挑戦を尊重できる人間ではありたいと思う。

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