安田記念のレプリカゼッケンをつけて…(提供:竹内里紗さん)
もはや犬か猫? 去勢して大人しくなりました(笑)
種牡馬を引退したエアジハードが、十勝軽種馬農業協同組合種馬場から新ひだか町の小国スティーブルに移動してきたのは、2019年の7月だった。
「環境に慣れるまでは、うるさくて結構大変でした。以前ブリーダーズスタリオンステーションから十勝へと移動した際も、慣れるまでは放牧地を走り回っていたと聞いています」
また隣の牧場の離乳明けの当歳に刺激されることもあった。
「15-15の調教をした馬よりも、毎日汗をかいて厩舎に帰ってきていました」
竹内さんはエアジハードを去勢することを念頭に置いていたが、年齢的なこと等で反対する人もいたこともあってしばらく保留になっていた。だが翌年の春、小国スティーブルに育成のため入厩してきた若い牝馬たちに反応したのか、エアジハードは危険を感じるほどうるさくなってきた。
「育成牧場なので牝馬は出入りしますし、これは危ないということになって、去勢をするという判断になりました」
手術は無事に終わり、体もさほど細くならず、心配された去勢によるダメージもほとんどなかった。
「犬か猫かよくわからないくらい大人しくなりました(笑)」
と竹内さんが言うように、牝馬を見て興奮することもなく、気性もすっかり穏やかになった。
気性もすっかり穏やかに…(提供:竹内里紗さん)
そして、冬はサンタになりました!(提供:竹内里紗さん)
エアジハードの世話は、竹内さんがすべて行っている。
「育成の若馬とエアジハードとでは餌の内容が違うはずだとは思いましたが、私自身そこまで餌についてわからなかったので、最初は以前いた十勝の種馬場のNさんに教えてもらいました。例えばビートパルプはこれくらい、大豆はこれくらいあげなさいと、教えられた通りに実行していましたが、2年たった今は馬の様子を見ながら、餌の量を増やしたり減らしたり調整ができるようになってきました」
一時期下痢が続いたことがあり、試行錯誤もした。ある時、ボロ(馬糞)を観察するとエン麦が消化されずにそのまま排出されていることに気付いた。
「エン麦を抜いてみたら、下痢も収まりました」
日々、馬と向き合うことで、学ぶことがたくさんある。高齢馬の飼養管理については、調べてみてもまだ情報が少ない。だからこそ、このような経験、積み重ねは、今後の糧になっていくように思う。
放牧は3時間くらいで「帰りたい」と…
改めてエアジハードがどのような馬かを尋ねてみた。
「ブリーダーズにいた頃からそうだったようですが、元々人間は好きだったみたいで。とっても懐っこいんです。人間に悪さもしないですし、本当に元種牡馬だったの? というくらい大人しいですね。人の話もよくわかりますし、頭も良いです」
たくさんのたんぽぽのなかで、竹内さんと(提供:竹内里紗さん)
毎日すべての世話をしている竹内さんの動きや行動をよく観察して、エアジハード自身も空気を読んで行動しているという。
「この人の言うことをきいておけば大丈夫というのがわかっているみたいです」
例えば、牧場スタッフが放牧地のそばを通ってもエアジハードは特に反応はしない。だが竹内さんが仕事上の用事で放牧地の近くを通ると「あっ、帰れる!」とばかりに、出入口の方に鳴いて走ってくる。そのたびに竹内さんは「まだだよー」とエアジハードに声かけをしている。想像するだけで、微笑ましい光景だ。
放牧は基本的に午前中のみだ。
「時期にもよりますけど、今は朝5時から放牧してお昼12頃に収牧しています。なるべく長く放牧してあげたいという気持ちもあるのですが、エアジが持たないんですよね(笑)。最初の頃は3時間くらいしか無理で、帰りたい、帰りたいと延々とグルグル歩き回って、その場所の草がなくなってしまうくらいでした(笑)。なので、その日の状況を見て、無理だなと思ったら早めに馬房に入れています。午後は馬房で横になったりして、まったりと過ごしていますね」
スヤスヤ…zZZ 気持ちよさそうな寝顔(提供:竹内里紗さん)
コロナ禍以前は、たくさんのファンが会いにも訪れており、人参、りんごも送られてくる。だが残念ながら、新型コロナウイルス感染拡大のため、現在は見学を中止している。
「見学再開になったら、多くの人にまたエアジに会いに来てほしいですね」と竹内さんは話す。
26歳になったエアジハードは今、愛情をたっぷり注がれながら穏やかな日々を過ごしている。圧倒的1番人気のグラスワンダーを破って見事優勝した栄光の安田記念から、22年の歳月が流れた。
(了)
▽ エアジハードのインスタグラム
https://instagram.com/airjihad