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【安田記念】“珍名馬イズム”継ぐ小田切光オーナー カラテで目指すは世界舞台!

  • 2021年06月02日(水) 18時02分
GIドキュメント

安田記念に挑戦するカラテ(撮影:下野雄規)


「逃げる、逃げる!オマワリサン」、「モチが粘っている」―― 名(迷?)実況を残したこれら珍名馬の馬主は小田切有一オーナーと光オーナー親子です。

父・有一オーナーは古くは1985年オークスをノアノハコブネで制し、種牡馬としてハナズゴールやメイクアップを送り出したオレハマッテルゼでは2006年高松宮記念を制覇するなど、面白い馬名だけでなく、大レースでの活躍も残しました。そんな有一オーナーの理念は「競馬ファンがいるから、競馬に携わることができる。だから、ファンに楽しんでいただくために面白い名前を付ける」というもの。その思いを継ぐのが息子の光オーナーで、今年2月にはカラテで東京新聞杯を勝ち、JRA重賞初制覇となりました。

カラテはツメの不安により4月のダービー卿チャレンジトロフィーを回避したものの、すでに調教を再開し、今年の安田記念へ挑戦します。小田切光オーナーにカラテの現在の様子と、親子の珍名馬にまつわる歴史やクスッと笑ってしまうエピソードを教えていただきました。

(取材・構成:大恵陽子)

※このインタビューは電話取材で行いました

「膨れて」「詰まって」「粘る」モチ


──お父様の小田切有一オーナーはエガオヲミセテ、ロバノパンヤ、ビックリシタナモーなど記憶に残る名前の馬を数多く所有されています。お父様とは競馬や馬名についてどんな話をされるんですか?

小田切 私が馬主になる前、父から「競馬ファンの方々がいるから、我々が馬を走らせて競馬に携わることができる。だから、ファンが喜んだり楽しめるようなことをしていくために面白い名前を付けている」とずっと教わっていました。私もその教えに倣って、なるべく楽しめる名前を付けようとがんばっています。父の名前には全然及ばないですけどね。

──JRA時代は父・有一オーナー、地方・佐賀に移籍後は光オーナーの名義で走っていたオマワリサンが「逃げる、逃げる!オマワリサン」と実況されるのが好きでした。

小田切 あれはすごかったですよね。父の馬名では、モチが結構気に入っているんですよ。「粘る」とか、4コーナーで「膨れる」とか、ゴール前では「詰まる」とか、どれだけ言葉で遊べるんだって(笑)。

──モチの言葉遊びは無限大ですね(笑)。

小田切 3歳にゲツメンチャクリクという馬がいて、勝ったら「着陸成功しました」ってみんなにメールを送りたいんですけどまだ未勝利で、周りの馬主さんからレース後に「着陸失敗したね」ってメールが届くんです(苦笑)。着陸成功までもう少しで、なんとか3歳で未勝利を脱出したいです。

──珍名馬に注目しているファンは初心者からベテランまで幅広いように感じます。

小田切 今では面白い名前を付けられる方がたくさんいらっしゃいますが、そういう流れをつくった父はすごいなと思います。昔、ラグビーボールという馬がいて、ダービーも1番人気(4着)になりましたが、名前を付けた時は周りから「馬にそんな名前を付けるなんておかしいだろう」と、ものすごく言われたらしいです。そういう時代を切り拓いてきたという意味ではすごく尊敬できる馬主だなと思います。

日本馬だとすぐに分かる名前を――カラテに込めた思い


──今年2月、東京新聞杯を制覇したカラテはどのようにして名前を決められたんですか?

小田切 いつか「カラテ」という名前を付けたいなとずっと温めていたんですけど、なかなかタイミングが合いませんでした。たまたま牡馬が手に入って、カラテという名前を付けられるなと思って付けました。ただ、カラテの理由は畏れ多くて……。

──ぜひ教えていただきたいです。

小田切 本当に畏れ多いんですけど、もし海外に挑戦できるようになった時、日本馬だとすぐ分かる名前を付けたいと思ったんです。先にそういうことを連想していると、名前につられて馬も走ってくれるんじゃないか、と。

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もし海外挑戦した際、日本馬だとすぐわかるように(撮影:下野雄規)


──母レディーノパンチから「パンチ」つながりかと想像していましたが、それ以上の思いがあったんですね。夢は口に出せば叶うと言いますが、まさにカラテが少しずつ夢に近づいていますね。

小田切 ぜひ、どこか大きいレースを勝って海外に挑戦して、名前を付けた経緯を達成したいです。いまオリンピック開催について騒がれていますが、東京オリンピックでは空手が初種目で、タイミングもいいなと東京新聞杯を勝った時点では思っていました。

──たくさんの思いが詰まったカラテを初めて見た時の印象はどうでしたか?

小田切 生まれたばかりの頃に生産者の中地康弘さんの牧場で見せていただいて、「いいな」と思いました。お母さんのレディーノパンチを父が購入した時に私も一緒にいて、いい馬だなと思っていたので、子供が生まれたら全頭欲しいと思っていたんです。お母さんは脚が悪くて未出走でしたが、「いつか走る子が出るんじゃないか」と思い続けていました。

「生意気な発言を、息子のワガママのように聞いてくれた」高橋祥泰調教師


──カラテのデビュー戦は13着で、初勝利まで8戦を要しました。少しずつレースぶりも良くはなっていましたが、どんな思いでレースを見守っていたのでしょうか?

小田切 カラテがデビューした日から全レース、頑張ってくれると信じてレースを見ているので、「これはダメだな〜」と思ったことは一度もありませんでした。その後、ツメの不安で数カ月の休養を何度か挟みながらもこうして活躍してくれて嬉しいです。普通なら諦めてしまうんじゃないかというようなレースを続けながら、高橋祥泰先生には我慢して使っていただきました。

──高橋祥泰調教師もオーナーの思いを汲んでくださったんですね。

小田切 2勝目を挙げるまでは芝1800m〜2200mをずっと使っていたんですが、調教も動くし、レースでもちょっと掛かっていたので、「1600mを使ってみませんか?」と先生に相談すると、「距離が短くなるのはどうか分からないけど、やってみよう」と言っていただいて、八丈島特別に出走しました。そしたら3馬身半もちぎって勝ったんですよね。

──そこからマイル路線を歩み、3連勝で1600mの東京新聞杯で重賞初制覇となったんですね。

小田切 「1600mの馬だったんだ」とよく言われますけど、ずっと2000mや2200mを使ってきたからこそ、スタミナがついたり我慢を覚えたりと、力がついて重賞馬になれたんじゃないかなと思っています。

──結果的に、力がついたいいタイミングでマイルに挑戦できたというわけですね。改めて、東京新聞杯はどんな気持ちで見ていましたか?

小田切 後ろで脚が溜まっていたので「もしかしたら勝つんじゃないかな」と思ったんですけど、直線で進路がなくなって外に出すのに振った時に「負けたな」と思いました。そしたら、あんなすごい脚で、内から外の馬を差し返して着差以上の強さを感じました。

 コロナの影響でテレビ観戦で、本当は最初に「カラテありがとう」って言わなきゃいけなかったんですけど、「高橋先生、ありがとう」、「菅原騎手、ありがとう」、そして関係者や馬を作って売ってくれた父にもありがとうという気持ちが溢れ出てきました。

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様々な関係者の思いがカラテを重賞制覇に(撮影:下野雄規)


──携わる方々へ抱く思いが強かったんですね。

小田切 高橋先生は来年2月に引退で、重賞もたくさん勝たれているすごい方です。お会いしたのは私が馬主になってまだ数年しか経っていない頃で、「距離はこうしてほしい」とか「騎手はこういう方を乗せてほしい」とか生意気なことばっかり言っていたんですが、それを息子のワガママのようにいつも聞いてくださり、いろんなことを勉強させていただきました。

 高橋先生に出会えたことで、馬に携わる楽しさを教えてもらえた感謝の気持ちがずっとあったので、GIIIではありますけど恩返しができたのかなと思います。だから、あと1つ大きいところをプレゼントできたらなって気持ちでいっぱいです。

──菅原明良騎手の気迫のガッツポーズもカラテという名前と相まって素敵でした。

小田切 あれは良かったですね!何回も見返しました。2勝目を挙げた時に菅原騎手に乗ってもらって、その時から「重賞に行けることがあったら、絶対菅原騎手に乗ってもらおう」と決めていたんです。もし海外に行けるようなラッキーなことがあったら、その時も菅原騎手にお願いしたいです。

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菅原明良騎手の気迫のガッツポーズ!(撮影:下野雄規)


──4月にはダービー卿チャレンジトロフィーに向かう予定でしたが、ツメの不安により回避しました。その後の状態はいかがですか?

小田切 接着装蹄に変えたところ、痛がらなくなって歩様も良くなったので、調教を再開しました。

──それは何よりです。最後にカラテや珍名馬のファンのみなさんにメッセージをいただけますか。

小田切 去年の秋からTwitterを始めたんですけど、カラテへの応援メッセージをたくさんいただきます。菅原騎手の重賞初制覇もですし、カラテ自身が勝てなかった時期もありながら、我慢の時を経て3連勝で開花したことに感動したとメッセージをいただきます。

 ファンが多くて、カラテがちょっと遠い存在になってしまいましたが、私としてはすごく嬉しいことです。馬主や調教師、騎手など馬に携わる人たちは「競馬ファンがいるから競馬ができる」と思っています。

◆小田切光オーナーより、安田記念に出走するカラテについてメッセージ

「今年の安田記念は凄いメンバーが揃っていますが、ここでどんな競馬をしてくれるか楽しみです。カラテくんの応援をよろしくお願いします!」

(※文中敬称略)

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