競馬場に伝わる「都市伝説」、聞いたことありますか?九州の地方競馬場で育った子どもたちは「ボロ(馬糞)を踏んだらかけっこで速くなる」と運動会前には馬場を走り、甲信越の地方競馬場で育ったJRAジョッキーは「蹄の削りカスがいいと聞いて、朝顔にあげていた」と懐かし気に振り返ります。
子どもの頃、朝から晩まで全力で遊んだ夏休みを思い出しながら、都市伝説にまつわる「ちょっと馬ニアックな世界」を覗いてみましょう。
裸足で馬場を駆けまわった小学生時代
2016年のエリザベス女王杯を制覇したクイーンズリングなどを管理する吉村圭司調教師は、熊本県にあった地方競馬の荒尾競馬場(2011年廃止)で生まれ育ちました。
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▲熊本県の荒尾競馬場で生まれ育った吉村圭司調教師
父が荒尾の調教師。競馬場にある厩舎はすぐ脇に2階建ての住居が隣接する構造で、寝ても覚めても馬を近くに感じられる環境でした。
競馬場で育つ子どもたちの間で、運動会の季節になるとある都市伝説が流れるようになったといいます。
「ボロ(馬糞)を踏んだらかけっこが速くなるって言ってね。小学校の運動会が近づくと、夕方に裸足で馬場を走ったりしましたよ」懐かしそうに吉村調教師は笑います。
「爪の垢を煎じて飲む」という慣用句は、すぐれた人を模範とし、その人にあやかるようにするという意味があります。それと似たような感じで、速く走る競走馬のボロを踏むと、それにあやかって少しはその速さに近づける、といったところでしょうか?
向正面の奥には有明海が広がる荒尾競馬場。夕焼けの中、裸足で駆け回る子どもたちの声が響いていたことでしょう。
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風光明媚な競馬場として有名だった荒尾競馬場
荒尾競馬場から山を越えて約150km離れた大分県にあった中津競馬場(2001年廃止)で育った小田部雪元騎手も「私も聞いたことがあります!『ボロ踏んどいたら足が速くなるぞ』なんて大人から声をかけられました」小田部元騎手は父が中津の調教師で、1994年にデビュー。
重賞を制覇するなどレースで活躍したほか、人気番組「さんまのナンでもダービー」に出演したり、トレーディングカードが発売されるなど「元祖アイドルジョッキー」として人気を博しました。(私も憧れの眼差しで、掲載された雑誌などを見ていた一人)
「馬場ではさすがに走らなかったと思いますけどね」と、荒尾と多少の違いはあるものの、同じ都市伝説が流れていたようです。
馬の蹄は栄養価が高い!?
では、他の地域ではどうだったのでしょう?
ハクサンムーンとの名コンビが人気だった酒井学騎手はJRAで活躍していますが、父は地方競馬の新潟県競馬の厩務員。新潟県では三条競馬場とJRA新潟競馬場を間借りする形で2002年まで競馬を開催していました。
「新潟競馬場の裏側が場外馬券場になっているんですけど、その裏側に地方競馬の厩舎があって、そこに住んでいました」と酒井騎手。
JRAの開催だと新潟は東主場もしくはローカル場扱いで、基本的に美浦所属のジョッキーが多く乗りに行っていますが「コロナの前は同級生が見に来てくれたり、『学、がんばれよー!』と声をかけていただくこともありました」と、大切な故郷です。
九州地方に伝わる都市伝説が新潟でもあったか聞いてみると「ボロを踏んだら…というのは初めて聞きました」とのこと。
九州と甲信越で地理的に離れているからか、あるいはごくピンポイントの世代にだけ流れていた都市伝説なのかは定かではありませんが、代わりにこんなことを教えてくれました。
「小学生の頃に夏休みになると、学校から朝顔の鉢植えを持って帰ってくるじゃないですか。僕らがよくやっていたのは、馬の蹄は栄養価が高いっていうので、鉢植えのところに削蹄したツメを入れて肥料代わりにしていました。厩務員をしていた父親の厩舎に行って、馬が削蹄していると、その削りカスをもらって鉢植えに乗せて育てていました」
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▲削蹄の様子。削りカスは栄養価が高い!?
なんと!新たな都市伝説…というか、実際に効果のありそうな話。
馬ふん堆肥がホームセンターなどで売られているのは見たことがありますが、蹄の肥料ってあるのでしょうか?
気になってネット検索してみると、牛の角や蹄を蒸気で熱し、乾燥後粉砕した「蹄角粉」と言われる肥料があるようです。
素人にとって初めて聞く肥料。農業に携わる友人数名にこの肥料について聞いてみたところ、彼らも「初めて聞いた」と。もしかしたら、珍しい肥料なのかもしれません。
「昔の肥料は、人間の生活の中で不要になった有機物を使うことが多かったです」とは、有機栽培に携わる友人の言葉。
ここでご紹介した都市伝説の真偽のほどは分かりませんが、いずれも馬と人が寄り添って生きてきたことを表しているなぁ、と感じるエピソードでした。