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V字回復の高知で三冠目指す馬の調教とは!?

  • 2021年08月24日(火) 18時00分
V字回復が目覚ましい高知競馬で、久しぶりの三冠馬誕生に期待が寄せられています。挑戦するのは、黒潮皐月賞、高知優駿を快勝したハルノインパクト。距離延長が不安視される中、主戦の西川敏弘騎手は「距離がもつような調教をやってきました」と話します。地方競馬の調教については情報が少ないですが、実際ハルノインパクトはどのようにして短距離選手から長距離対応型になったのでしょうか。

2009年グランシング以来の高知三冠がかかる今週末29日の黒潮菊花賞を前に「ちょっと馬ニアックな世界」を覗いてみましょう。

ある日の調教の様子


 8月5日、早朝6時前。

 高知競馬場の1〜2コーナー奥にある宮路洋一厩舎からハルノインパクトと西川敏弘騎手が出てきました。同厩舎の他の馬とともに、厩舎地区を歩き、コースへと向かっていきます。

馬ニアックな世界

▲厩舎周りを歩き、コースに向かうハルノインパクトと西川敏弘騎手


 高知競馬場は、普段レースで使用しているコースの内側にもう一つ、調教用のコースがあります。この日、ハルノインパクトは内側の調教コースに入るとダクで体をほぐしたのち、軽くキャンター。

馬ニアックな世界

▲朝日に照らされ、内側の調教コースを走るハルノインパクト。手前にはレースでお馴染みのゴール板が見えます


 その後、向正面から約1周走って終了。前走から1週間半後とあって、まだ強い調教を開始する前で、JRAの専門紙でよく見る「ラスト1F12.9秒」のような追い切りタイムを出すほどの速さではありませんでした。

馬ニアックな世界

▲ハルノインパクト調教の様子


 JRAでも追い切りタイムを出すのは、多くて週に2回。では、それ以外の日は何をしているのかというと、このようなタイムを記すほどではない速さで走り、体力を維持・強化しています。

 たとえば野球部員が毎日試合をして鍛えているわけではなく、普段は筋トレや打撃フォームのチェック、バッティング練習などを行い、月に何度か試合を行う、というイメージでしょうか。

距離によって体と心臓の使い方が変わる!?


 ハルノインパクトの場合、「いかに距離延長に対応できるか」がこの春以降の課題でした。

 父は1600mの東京新聞杯を勝ったヴァンセンヌ、その母は1200mのGI2勝のフラワーパークという短距離血統。そこで西川騎手は「短距離選手から長距離選手に変える」イメージで調教に乗り始めました。

「高知優駿や黒潮菊花賞は1900mなので、一瞬の脚を使う走りじゃなくて、じわーっと体力をつけていくような調教をしました。短距離と長距離では体と心臓の使い方が違うと僕は思っています。短距離は急に動かして、心臓にも急に負担がかかるので、調教でもはじめからハイスピードを出した方がいいと思うんですけど、長距離レースだと長く息を使わないといけないから、長く距離を乗っています。

 だんだん乗る距離を延ばしていって、『どのくらいで疲れるかな?』というのを見て休ませながら乗っていると、馬もそれに慣れてきましたね。ハルノインパクトは無理をすると体に出るタイプなので、2カ月も3か月もかけて強くしていくイメージでやっていました」

 その甲斐あって、初の1900mとなった高知優駿は全国からの遠征馬を相手に優勝し、黒潮皐月賞(1400m)に続き二冠目を手にしたのでした。

馬ニアックな世界

▲▼全国の強豪相手に高知優駿を制覇(提供:高知県競馬組合)


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 ところがこの大一番の後、かなり疲れがあったと言います。

「高知優駿は目一杯の仕上げで臨んだからレース後に疲れがだいぶあって、ずーっと良くなるのを待っていました。1カ月後に魚梁瀬杉特別を使ったんですけど、乗り込みも足りなくて、デキは高知優駿の半分くらい。レース前日になっていい雰囲気になったので『もしかしたらやれるかも!?』と一瞬は思いましたが、そんなに甘くはなかったですね」

 厩舎でのケアもあり、同レースでは一旦は先頭に立ちましたが、2歳時からライバルのブラックマンバに差され敗戦。それでも2着に踏ん張り、「一瞬の動きはやっぱり良かった」と西川騎手も感じたのですから、地力の高さを改めて見せました。

 そしてレース後の疲れが取れると、冒頭のように調教を再開。今週末の黒潮菊花賞で高知三冠を目指します。

「レースの2〜3週前に3周乗って翌日休ませる、という強い調教を1週間くらいやって仕上げて、レース直前の1週間は楽をさせて体を回復させるようにしています。だから、レース直前はパワーがあり余っていて、調教からの帰り道が怖いくらいです(苦笑)。怪我だけはさせないように気を付けています」

 約2週間後には名古屋で西日本ダービーがありますが、「オーナーも『三冠を狙えたら狙ってみたい』ということですし、間隔がなくて夏場で疲れが出るので、西日本ダービーは無理して行かないことにしました」(宮路調教師)と、黒潮菊花賞に専念。

 前哨戦こそ2着に敗れてしまいましたが、「次は大丈夫でしょう。できれば、雨馬場でやりたいですね」と西川騎手が言うと、宮路調教師は「あとはジョッキーに任せています。順調にいって、なんとか勝たせてやりたいですね」とニッコリ笑いました。

 黒潮菊花賞は8月29日、日曜日。長距離仕様の調教をしてきた成果が存分に発揮できますように。

馬ニアックな世界

▲高知三冠を目指すハルノインパクト

競馬リポーター。競馬番組のほか、UMAJOセミナー講師やイベントMCも務める。『優駿』『週刊競馬ブック』『Club JRA-Net CAFEブログ』などを執筆。小学5年生からJRAと地方競馬の二刀流。神戸市出身、ホームグラウンドは阪神・園田・栗東。特技は寝ることと馬名しりとり。

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