コロナ禍でしばらく休載となっていたコラム「常石勝義が見つけた 競馬の職人」がリニューアルし、新しく「元JRA騎手 常石勝義の『日々是好日』」としてスタートすることとなりました! 改めまして、よろしくお願いします。
初回となる今回は、角居勝彦元調教師を訪ねて鉢ヶ崎海岸へ。引退後の活動について伺いました。
“ドリちゃん”ことドリームシグナル号との出会い
海岸線で馬に跨って運動中の角居元調教師を見つけました。
常石 こんにちは、角居先生。矢野さんに車に乗せていただきやっと来れたので嬉しいです。
角居 常ちゃん乗ってみるか?
常石 いいんですか? …この馬乗りやすいですね!
▲鉢ヶ崎海岸で馬の運動中
角居 ハミはとれているか?
常石 はい大丈夫です。…これは何ですか?
角居 鞭の代わりのハエたたき。
常石 えー!
角居 いやいや、アブが多くてドリちゃんが嫌がるし、刺されたらかわいそうでしょう。たたきながら追っ払って乗ってるんだよ。
常石 わかりました、僕もそうします。のびのびと乗れて解放感があって、気持ちいいですね。
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コロナ禍でトレセン取材ができなくなり、先生の引退時に厩舎に行きたかったのですがお会いできず、ずっと気になっていました。いっぱいお聞きしたいことがあります。
常石 調教師を引退されてからはどう過ごされているのですか?
角居 2月に引退してから、引退馬の支援に取り組んでいます。
常石 この馬の名前は?
角居 ドリームシグナル号という馬です。金沢競馬場で誘導馬として活躍していましたが、背中を痛めてしまい引退して、タイニーズファームという農園で預かっていただきました。
私がまだ調教師だったので、白井寿昭厩舎にいた村田さんと樺元さんに交代で見てもらっていました。良くしてもらい助かりました。
常石 僕が現役の時、樺元さんは、中尾正厩舎の内田さんと仲が良く厩舎にも来られていたのでよく知っています。とっても細かく丁寧に仕事をされる厩務員さんで信頼されていました。
角居 この馬はもともと西園正都厩舎で活躍し、シンザン記念を勝ち、強い馬だと期待されていたんです。
常石 もう何歳になりますか?
角居 6月4日で16歳になりました。
2月に私が引退してからは私が世話をしています。厩舎と言ってもまだまだ整備も整っておらず、バラック小屋でアブやヤブ蚊も多いので、刺されるのが嫌だからか前カキして外へ出してほしいと要求してきます。対策はしているんですがね。
牧場から30分ほど曳き、散歩で鉢ヶ崎海岸のビーチへ連れてきています。解放感があって喜んでいますね。
▲ドリームシグナル号・角居元調教師とともに
角居 背中を痛めて乗馬では活躍できなくなり残念だったんですが、今では私が跨って運動ができるまで回復しました。目の輝きも変わってきましたね。
馬が元気になると嬉しいです。子供たちを乗せても大丈夫。鐙のところにかごをつけて一緒に海岸線のごみ拾いをしたり、お礼に子供たちを乗せたりと少しずつ活動しています。
綺麗な海岸を一緒に活動できると楽しいです。子供たちも少しずつ慣れてきて馬を触れるようになってきました。地元の子供たちと一緒に活動し、町おこしにつなげていけたらと考えています。
常石 角居先生はいつも馬の将来のこと、余生のことを考えておられるので凄いと思います。
角居 ここでは、引退馬のセカンドキャリアを乗馬などではなく、余生を過ごす馬たちの「終の棲家」にできたらと思っています。始めたばかりで大変ですが、地元の方々の協力やクラウドファンディングなどで賛同していただきながら環境を整えていきたいと考えています。
“馬のいる海岸”として少しでも興味を持ってもらえたら嬉しいですし、清掃活動から自然の財産を生かし馬と人がともに暮らす社会につながっていってほしいと思います。
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角居 常ちゃんも一緒にごみ拾いの活動してみるか?
常石 はい、しっかり働きます。馬にも慣れ、子供たちも嬉しそうですね! ゴミも一生懸命拾ってくれています。ドリちゃんの歩き方もいいですね。
手のひらに乗せて餌をやるとかまれないからね、と教えると懸命にやってくれ、ベロっと舐められるとびっくりする子もいましたが、顔を撫でたりとリフレッシュでき、笑顔がいっぱいで僕も嬉しかったです。ドリちゃんがアブに刺されないように懸命にハエたたきを使っていたら、上手く使えるようになりました(笑)
▲地域の子供たちと一緒に海岸のごみ拾いをする様子
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息子が尊敬し憧れている角居先生と話す様子に、自然体でトレセンにいるような錯覚を覚えました。久しぶりにさわやかなすっきりした笑顔を見たな、と感じるオカン(母)です。
パラリンピック馬術選考のために2・5・6月、ドイツ大会からオランダ大会へと挑んできましたが、夢が届かず悔しい思いで心も折れてしまい、これから何をしていいのか、何をしたいのか考えられずボーっと過ごす日々でした。
角居先生のもとを尋ね、いろいろな思いが吹っ切れた表情へと変わっていく姿を見ることができ、私(母)の心も明るくなります。長時間土砂降りの中を運転してくださった矢野さん、そして3日から16日まで長い期間、修行の場を提供してくださった角居先生に感謝の思いでいっぱいです。
高次脳機能障害という障がいがありますが、障がいとは関係なく、馬に対する思いと今までの経験を活かして“馬大好き人間”として熱中してほしい、オリンピックで活躍した選手のような強い心・技・体にいい刺激を受けて、諦めず頑張っていってほしいです。そしてパラリンピックの馬場馬術に出場した選手へ、一緒に戦ってきた仲間として労いの言葉を送りたいと思います、本当にお疲れ様でした。
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これからも“常ちゃん”の生きるエネルギーを、毎月1日にメッセンジャーとしてお届けしていきたいと思っています、応援してください。
常ちゃんこと常石勝義&オカン
※次回の更新は10/1(金)12時を予定しています。