これでコンビで重賞2連勝のレイハリアと亀田温心騎手(撮影:高橋正和)
netkeibaにある膨大な競走成績を人工知能によって機械学習するAiエスケープを開発したAIマスター・Mと、レースデータの分析を専門とする競馬評論家・伊吹雅也による今週末のメインレース展望。コンピュータの“脳”が導き出した注目馬の期待度を、人間の“脳”がさまざまな角度からチェックする。
(文・構成=伊吹雅也)
ハンデキャップ競走らしい波乱含みのレース
AIマスターM(以下、M) 先週はキーンランドCが行われ、単勝オッズ4.9倍(3番人気)のレイハリアが優勝を果たしました。
伊吹 まずスタートが素晴らしかったですし、その後のレース運びも完璧でしたね。メイケイエールやカイザーメランジェが上がってきても動じることなく一旦先に行かせ、ゴール前の直線半ばで先行勢との競り合いに決着をつけると、そのまま後続の追撃も完封。レイハリア自身の能力はもちろん、手綱を取った亀田温心騎手の技術も称えられるべきでしょう。
M レイハリアと亀田温心騎手のコンビはこれで重賞2連勝。2019年デビューのジョッキーでJRA重賞2勝目をマークしたのは、団野大成騎手に続き2人目です。
伊吹 岩田望来騎手、菅原明良騎手らを含め、この世代は今年に入ってからも活躍が目立っていますね。
M 亀田温心騎手は先週終了時点の2021年JRAリーディングジョッキーランキングで37位。2020年も29位に食い込んでいました。
伊吹 先週終了時点における特別競走の通算勝利数を見ると、岩田望来騎手が25勝、菅原明良騎手が24勝、団野大成騎手が19勝なのに対し、亀田温心騎手はまだ9勝。他の同期に比べてやや地味な印象を持っていた方も少なくないと思います。ただ、今回の騎乗でその認識はだいぶ改まったはず。今後も目が離せません。
M レイハリアの方は未勝利から4連勝となりました。
伊吹 こちらも今後が楽しみですね。正直なところ、近年の傾向を考えるとスプリンターズS向きとは言い難いタイプなのですが、これだけ勢いに乗っているわけですし、無事参戦してきたら押さえないわけにはいかないでしょう。
M 今週の日曜新潟メインレースは、サマー2000シリーズ最終戦の新潟記念。昨年は単勝オッズ5.0倍(2番人気)のブラヴァスが優勝を果たしました。
伊吹 4コーナー9番手のポジションから勝ち切ったものの、上がり3ハロンタイムは出走メンバー中4位どまりだったんですよね。
M 逃げ粘るジナンボーをゴール直前で捕らえましたが、後方からはサトノガーネットやサンレイポケットが迫っていました。
伊吹 豪快に差し切ったと言うよりは、しぶとく伸びて競り勝った形です。
M ハンデキャップ競走ですし、荒れる年も少なくない印象ですが、2018年のブラストワンピース、2019年のユーキャンスマイルと、ここ3年はいずれも単勝2番人気以内の馬が制しています。
伊吹 過去10年の単勝人気順別成績を見ると、3着以内に好走した単勝1番人気馬は4頭だけでした。
M 2〜3番人気馬や4〜6番人気馬も好走率はそれほど高くありませんね。
伊吹 一方、単勝7番人気以下だったにもかかわらず3着以内となった馬は13頭もいます。単勝14番人気以下の馬は2011年以降[0-0-0-35](3着内率0.0%)ですが、波乱含みの一戦と言って良いでしょう。
M そんな新潟記念でAiエスケープが指名した特別登録時点の注目馬は、トーセンスーリヤです。
伊吹 おっと。今回は人気の中心になりそうな馬を挙げてきましたね。
M 前走の函館記念を快勝しているうえ、2020年には今回と同じコースで行われた新潟大賞典を勝っています。
伊吹 単勝1番人気になるかどうかはともかく、上位人気グループの一角には入ってくるでしょう。
M 連軸候補と見ている方も多いはずですが、素直に信頼しても良さそうですか?
伊吹 そうですね。レースの傾向と照らし合わせてみると、まずそれなりに馬格がある点は強調材料と言えます。
M 馬格のない馬は苦戦しているんですね。
伊吹 トーセンスーリヤは前走の馬体重が482kg。大型馬とは言えませんが、合格ラインは超えていますね。
M 脚質はどうでしょう。トーセンスーリヤは先行力の高い馬ですが、今回の舞台はゴール前の直線が長い新潟芝2000m外です。
伊吹 大きく評価を下げる必要はないと思いますよ。極端に先行不利・差し有利というレースではありませんし、2016年以降の過去5年に限ると、前走の上がり3ハロンタイム順位が5位くらいまでの馬は信頼できる印象でした。
M 函館記念でマークした上がり3ハロンタイムは出走メンバー中5位。ギリギリではありますが、こちらもクリアしています。
伊吹 そもそもコース適性の高さは証明済みですしね。この舞台がマイナスに働くということはないでしょう。
M なるほど。今のところ特に死角はなさそうですが、伊吹さんから見て何か不安要素はありますか?
伊吹 そうですね。ひとつ引っ掛かるのは、既に6歳である点。近年は高齢馬が苦戦していました。
M 2016年以降は6歳以上の馬がほとんど上位に食い込めていませんね。
伊吹 2015年1着のパッションダンスは当時7歳でしたが、その後は連対例が途絶えています。
M とはいえ、前走で重賞を勝ったばかりですし、衰えの心配はなさそうですが……。
伊吹 確かにその通りですね。実際、馬齢が6歳以上だった2016年以降の出走馬42頭中、単勝オッズ8.0倍未満の支持を集めていた馬は2頭だけでした。Aiエスケープが注目馬として挙げているくらいで、近年の高齢馬とはだいぶ事情が異なりますから、馬齢だけを根拠に評価を大きく下げるのは無理筋かもしれません。
M これなら期待できそうですね。
伊吹 ただ、私は押さえくらいの評価にとどめようと思っています。今年は前出の条件を綺麗にクリアしている馬が結構多いんですよ。そういった馬たちを相手にどこまで健闘できるか――といったところでしょう。