米国の名門牧場が規模縮小のため繁殖馬、現役馬などを売却
育んできた秘蔵の血脈を入手できる好機
ケンタッキー州の名門ピン・オーク・スタッドのディスパーザル・セールが、9月12日(日曜日)、ファシグティプトン社が主催してレキシントンで開催される。
一斉放出、あるいは、大量放出を意味するのがディスパーザル・セールで、ピン・オーク・スタッドは閉鎖になるわけではないが、大幅なダウンサイジングを図ることになり、12日のセールには同牧場から、繁殖牝馬12頭、現役馬3頭、当歳馬9頭の、合計24頭が上場を予定している。
過去70年近くにわたって、ケンタッキーでも有数の生産牧場として運営されてきたのが、ピン・オーク・スタッドだ。
天然ガスと石油の発掘で財をなしたジェームス・スミサー・アバークロンビー氏が、娘のジョセフィンさんとともに1952年に開設したのがピン・オーク・スタッドである。
かねてから畜産にも興味を示していたアバークロンビー氏が、テキサス州のゴンザレス・カウンティを流れるグアダループ川沿いに広がる土地を購入し、牛の牧場を開設したのが、1946年のことだった。
馬術競技の選手として活躍した娘のジョセフィンさんが、競走馬の世界に参画したのが1949年で、父を含む複数のパートナーシップで所有するための若駒を1歳馬市場で購入。
競馬と生産の面白さに目覚めた娘の意を汲んで、父ジェームスさんが1952年にケンタッキー州のウッドフォード・カウンティに位置する1348エーカーの土地を購入。牛の飼育やたばこの生産を行う一方で、ここを拠点としてサラブレッドの生産をスタートさせたのが、ピン・オーク・スタッドの始まりだった。
1975年1月に父ジェームスさんが逝去した後は、娘のジョセフィンさんがピン・オークを相続。1980年代に入ると、国道60号線に面した、現在ピン・オーク・スタッドがある土地を購入し、牧場を移転している。
以降、ピン・オーク・スタッドは、1990年にエクリプス賞芝牝馬チャンピオンの座に就いたラフアンドビーメリー、1995年にソヴリン賞カナダ年度代表馬の座に輝いたピークスアンドヴァレイズ、同じく1995年にソヴリン賞芝牡馬チャンピオンの座に就いたヘイスントゥアッドといったチャンピオンを生産・所有した他、生産し売却した馬から、英国と愛国のセントレジャーを制したタッチングウッド、プリークネスS勝ち馬エロキューショニストらが出現している。
12日に行われるディスパーザル・セール上場馬は、ピン・オーク秘蔵の血脈の継承者たちである。
例えば、上場番号2番のオーヴァーハード(牝11)は、ウッドバインのG2ダンススマートリーS(芝9F)など2重賞を制した活躍馬で、現在は、G1ホイットニーS(d9F)など4つのG1を制したマッキンジーの子を受胎している。
上場番号3番は、そのオーヴァーハードが今年産んだ当歳牝馬で、父は2018年の米3冠馬ジャスティファイだ。あるいは、上場番号8番のテルオール(牝9)は、オーヴァーハードの2歳年下の半妹で、現在は2017年の全米年度代表馬ガンランナーの子を受胎している。
上場番号18番のドントリーヴミー(牝9)は、母シーハウシーランズがウッドバインのG1セレーネS(d8.5F)勝ち馬という良血馬で、自身もターフウェイパークのG3バーボネットオークス(AW8F)など2重賞を制した活躍馬だった。そして本馬は現在、2020年の全米年度代表馬オーセンティックの子を受胎している。
上場番号23番のゴールドメダルダンサー(牝11)も、現役時代はオークローンパークのG2アゼリS(d8.5F)を制している他、チャーチルダウンズのG1ラトロワンヌS(d8.5F)でも3着になっている活躍馬。現在は、今年のG1マディソンS(d7F)勝ち馬キマリらを送り出しているトップサイアーのマニングスの子を受胎中だ。
ディスパーザル・セールというのは、売りつくすことを目的としているゆえ、基本的にはリザーヴ価格ゼロで販売されるケースがほとんどである。購買者側にしてみれば、名門牧場が育んできた血脈を、思わぬ廉価で入手できる好機と言えよう。
なお、ピン・オークが生産した今年の1歳馬については、1頭が8月に行われたファシグティプトン・サラトガ1歳セールで既に売却されている他、9月13日から始まるキーンランド・セプテンバー1歳セールにも14頭が上場される予定だ。今後のピン・オーク・スタッドには、引退した繁殖牝馬など、余生を送る14頭のみが留まることになっている。