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野球実況のレジェンド・深澤弘さんが“競馬”に残したもの

  • 2021年09月11日(土) 12時00分

「大橋巨泉さんを呼んできたのはオレだよ」


 ニッポン放送「ショウアップナイター」の実況アナウンサーとして活躍された深澤弘さんが亡くなりました。

 私がプロ野球中継を聴き始めた頃の同局の実況アナウンサーと言えば、深澤さんの他、竹野圭之助さん、枇杷阪明さん、高嶋秀武さんといった方々。中でも深澤さんの実況には“ガツン”と来るものがありました。

 実際、深澤さんの喋りはものすごくパワフル。私が文化放送に在籍していた頃、神宮球場の放送席はニッポン放送と文化放送が隣り合わせで、深澤さんが実況を担当されているときは、その声が“ウチ”の放送席にもガンガン聞こえてきたものです。

 実は私、フリーになった直後に、深澤さんと競馬中継の仕事をしたことがあります。

 それは、ニッポン放送が大井競馬場で制作していた場内限定ミニFMでのこと。当時の中央スタンドにしつらえられた放送席で、深澤さんが司会、私がレース実況という役割でご一緒したのです。1990年、ハイセイコー産駒のアウトランセイコーが勝った東京ダービーなどを喋った思い出があります。

 また、ご本人からは、「ニッポン放送の競馬中継に大橋巨泉さんを呼んできたのはオレだよ」というお話も伺いました。

 1976(昭和51)年4月、ニッポン放送はまさに“鳴り物入り”で「土曜競馬ニッポン」、「日曜競馬ニッポン」という競馬番組を始めます。

 巨泉さんはその核となる人物。放送開始当初、番組には“大橋巨泉プロデュース”というキャッチコピーが付けられ、ご本人はメイン解説者も務められました。

 それ以前の巨泉さんは、ラジオ関東(現・ラジオ日本)の「日曜競馬実況中継」に出演されていました。深澤さんは「あんまり好きじゃなかった」という巨泉さんに日参して口説き落とし、ニッポン放送に引っ張ってきたそうです。

 深澤さんのおかげで、ニッポン放送の競馬中継と、「巨泉でバッチリ」という看板予想コラムを掲げる『競馬エイト』との“タッグ”が成立したと言えるのかもしれません。

 そんな同番組の創設を人生の転機とされた方がいます。小倉智昭さんです。

 深澤さんは同番組でのレース実況も命じられたそうですが、「それだけは無理」と固辞。代わりに白羽の矢を立てられたのが、当時、東京12チャンネル(現・テレビ東京)の「土曜競馬中継」(現・ウイニング競馬)で実況、司会を担当されていた小倉さんでした。

 これを機に小倉さんはフリーに転身。「土曜競馬中継」の実況は、土居壮(どいつよし)さんがほぼ1人で務めることになります。

 その土居さんの後が久保田光彦さんで、久保田さんの後が私。そういう流れを作ったのは小倉さんの退社で、本を正せばニッポン放送の競馬番組創設から始まった話とも言えます。深澤さんは喋りだけではなく、“影響力”もハンパじゃなかったということですね。謹んでご冥福をお祈りいたします。

テレビ東京「ウイニング競馬」の実況を担当するフリーアナウンサー。中央だけでなく、地方、ばんえい、さらに海外にも精通する競馬通。著書には「矢野吉彦の世界競馬案内」など。

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