高知競馬年末の大一番・高知県知事賞で2年連続2着など、長らく高知の重賞戦線を賑わせてきたチャオ。真っ白な馬体と愛らしい瞳からファンも多く、重賞未勝利ながら引退後は高知競馬場で誘導馬になりました。高知時代のオーナーがとても大切にされていて実現した誘導馬への転身。全盛期は調教でかなり元気がよかったというセン馬が、約半年かけてどんな風に誘導馬になったのか、「ちょっと馬ニアックな世界」を覗いてみましょう。
ご褒美の角砂糖が大好物なチャオ
チャオが競走馬としてデビューしたのは、2014年3月の中山競馬場でした。ダート1800mの新馬戦でデビュー勝ちを決めるなどJRAで3勝を挙げたのち、2017年6月に高知で移籍初戦を迎えました。
2戦目で高知初勝利を挙げると、その後重賞で上位争いを演じることも多く、特にチャオの代名詞ともなったのが年末の大一番・高知県知事賞。渋く末脚を伸ばすチャオにとって、2400mの長距離戦は向いていたのでしょう。2017年と18年は2着。その後も引退するまで毎年、高知県知事賞には出走を続けました。
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▲重賞でも好走したチャオ。写真は2019年トレノ賞
そして今年2月28日のレースをもって引退。パドックに登場すると、ファンから「可愛い」と熱い視線が送られるほど人気のあった同馬を、湯浅健司オーナーは「高知で誘導馬にしたい」と考えていらしたようです。その思いは工藤真司調教師も同じで、高知県競馬組合を通して、高知市内の乗馬クラブに相談がありました。乗馬クラブの担当者はこう話します。
「引退レースを走った2日後くらいに、誘導馬になれそうかどうかを判断するために高知競馬場に行ってチャオに乗りました。やんちゃだと聞いていたんですけど、誘導馬になれそうだなと感じて、乗馬クラブに連れてきました」
そうして誘導馬になるための特訓がスタートしました。
「乗馬クラブでは競馬場ほど周りの馬はピリピリしていないので多少は落ち着きますが、引退して日も浅いですし本質的な部分はすぐに変わるわけではないので、『なるべく我慢できるように』ということをずっと教えています」
速く走ることが求められる競走馬とは対照的に、誘導馬はどんな状況でも落ち着いて「歩くこと」が求められます。チャオにもそれを日々教えていきました。
「1週間くらいで基本的なことはできるようになりました。賢い馬で、一度やったことは翌日にもちょっと覚えていました。『前日よりダメだったな』という日が全くなくて、やりやすい馬です。工藤先生のところで大事にされていたからでしょう」
乗り手の指示通りきちんと我慢ができると、毎回ご褒美に角砂糖をもらったチャオ。すると、すっかり大好物になったようで、今では「乗り終わったらもらえると思っていて、催促してきます」と、おちゃめな一面を見せます。
馬房に帰ると一人が好きで、『来るな』という雰囲気を出し、撫でられるのもそんなに好きではない様子。それでも、現役時代は湯浅オーナーがあまり触れなかったのが、乗馬クラブに来てからは撫でることもできるようになったそうです。7月下旬になると実地訓練がスタート。乗馬クラブを飛び出して、古巣の高知競馬場へ行き、能検で誘導の練習を重ねたのです。
能検とは、能力検査と言ってデビュー前の馬や長期休養明けの馬などがレースに出走できるレベルにあるかどうかを判断するために行う模擬レースのこと。実際のレースのように返し馬をするため、他の馬につられて走らないように我慢する練習ができるのです。
「初めて能検に連れて行った時は、心臓がドックドックして興奮していました。発汗もすごくて、競馬場を『走るところだ!』と覚えていたんだと思います。それが、2回目に連れて行った時はだいぶマシになって、何回か能検での練習を重ねて実際のデビューが決まりました」
他厩舎の調教師も厩務員もジョッキーも「チャオ、がんばっているね」
待望の誘導馬デビューは、9月11日の高知競馬1R。ゼッケンには初心者マークを付け、背中にはこの半年、一緒に練習をしてきた担当者が跨りました。
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▲パドック脇にある誘導馬の待機所を出て、お仕事に向かうチャオ。ゼッケンには大きな初心者マークが(撮影は9月20日)
「先輩誘導馬のジョウリュウオーの後ろからついて行き、思ったよりも落ち着いていました。2Rではチャオが先頭で誘導しました。その時に走っていく出走馬について行こうとして、クルッと反転しそうにはなりましたけど、なんとか大丈夫でした」
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▲デビュー2日目の9月20日も2Rでは先頭で誘導したチャオ
誘導馬デビュー2日目となった9月20日、チャオの様子を撮影しながら見守っていると
「チャオ、がんばっているみたいですね」
と、他厩舎の厩務員から声をかけられました。別の調教師も気にかけていたり、ジョッキーたちの間で話題に上ったり、高知競馬全体が「誘導馬チャオ」を温かく見守っていました。
現役時代の主戦の一人、岡村卓弥騎手は「調教では帰り道に暴れることもありましたが、大人しく誘導していますね」と目じりを下げ、もう一人の主戦・多田羅誠也騎手は「走り出さへんかなと心配しながら見ていました」と、チャオの様子が気になって仕方ない様子。
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▲チャオが誘導する横を本馬場入場する岡村卓弥騎手。チャオが現役時代は主戦騎手の一人でした
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▲誘導馬の待機所でじっとこちらを見つめるチャオ。くつろぎながらエサを食べるジョウリュウオーとは対照的に、ちょっと緊張した雰囲気
みんなの注目の的となっているチャオ本人は、これまでとは反対の立場でパドックに入場する出走馬を見つめたり、一緒になって返し馬をしてしまわないよう我慢したり、一つ一つ誘導馬のお仕事を覚えていっています。
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▲出走馬たちがパドックに向かって歩いていく姿が遠くに見えると、ちょっと不思議そうな顔でじーっと見つめるチャオ
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▲誘導の待機中、先輩のジョウリュウオー(右)と
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▲しっかり誘導のお仕事をしての帰り道
「のちのちは1頭で誘導できるようにしたいと思っています。とにかく、じっとできるかどうかだけ。競走馬の時とチャオの雰囲気も変わってきているので、ファンの皆さんにはそこを見てほしいですね」
と乗馬クラブの担当者。インターネット中継越しに、そして高知競馬場への入場が再開されたら現地で、誘導馬として奮闘中のチャオを温かく見守っていただけたらと思います。
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▲誘導馬として一歩を踏み出したばかりのチャオ。日々、がんばってます!