1勝クラスを勝ち上がったばかりで優勝したアンドヴァラナウト(C)netkeiba.com
netkeibaにある膨大な競走成績を人工知能によって機械学習するAiエスケープを開発したAIマスター・Mと、レースデータの分析を専門とする競馬評論家・伊吹雅也による今週末のメインレース展望。コンピュータの“脳”が導き出した注目馬の期待度を、人間の“脳”がさまざまな角度からチェックする。
(文・構成=伊吹雅也)
大半の年は6番人気以内の馬が上位を占めている
AIマスターM(以下、M) 先週はローズSが行われ、単勝オッズ5.8倍(4番人気)のアンドヴァラナウトが優勝を果たしました。
伊吹 “フルゲート”の18頭立てだったうえ、3歳牝馬クラシック戦線で善戦してきた実績馬も多数。正直なところ懐疑的に見ていたのですが、終わってみれば完勝でしたね。
M 1勝クラスのレースを勝ち上がったばかりで、秋華賞への優先出走権を狙っての出走だったはず。陣営にとっても会心の勝利だったんじゃないでしょうか。
伊吹 もともと、前走の勝ちっぷりは高く評価されていましたよね。ただ、一発勝負のトライアル競走で結果を残さなければならない立場でしたから、通常のレースとは異なるプレッシャーもあったでしょう。お見事と言うほかありません。
M 母のグルヴェイグは2012年マーメイドSの勝ち馬。2代母のエアグルーヴ、3代母のダイナカールはいずれもオークス馬です。
伊吹 古くからの競馬ファンにはおなじみの名牝系ですね。しかも、母の父がディープインパクト、母の母の父がトニービン、母の母の母の父がノーザンテーストと、一時代を築いたトップサイアーたちが血統表に名を連ねています。
M アンドヴァラナウトも父がキングカメハメハ。気の早い話ですが、繁殖牝馬としても楽しみな一頭です。
伊吹 既に4代続けてJRAの重賞を勝っているわけですからね。もちろん、競走馬としてもまだまだ活躍が期待できそう。長い付き合いになるでしょうし、この馬が繋いでいく物語をしっかり見守っていきたいと思います。
M 今週の日曜中山メインレースは、天皇賞(秋)などの前哨戦と位置付けられているオールカマー。昨年は単勝オッズ9.1倍(5番人気)のセンテリュオが優勝を果たしました。
伊吹 2着がカレンブーケドールで、2頭しか出走していなかった牝馬のワンツーフィニッシュでしたね。
M センテリュオは重賞初制覇。陣営にとっても念願のタイトル獲得だったのではないかと思います。
伊吹 2019年のエリザベス女王杯で4着に食い込むなど、能力の高さは証明済みでしたからね。少頭数もプラスに働いたと思いますが、この馬の持ち味を存分に活かして掴んだ勝利と言えるでしょう。
M 別定のGII競走ということもあり、大きな波乱は起きづらい印象もありますが、近年の傾向はどうですか?
伊吹 過去10年の単勝人気順別成績を見ると、1〜3番人気馬はいずれも3着内率が60.0%でした。
M やはり、上位人気馬はそれなりに信頼できるようですね。一方、単勝7番人気以下の馬は3着内率が5.4%にとどまっています。
伊吹 単勝7番人気以下だったにもかかわらず3着以内となったのは、現在のところ2015年3着のミトラが最後です。ちなみに、好走例は2013〜2015年の3年間に固まっていて、2009〜2012年もそれぞれ単勝6番人気以内の馬が1〜3着を占めました。
M 極端な人気薄を狙うのは無理筋かもしれませんね。
伊吹 あえて予想を人気サイドに寄せる必要はないと思いますが、ある程度はこの傾向も踏まえたうえで買い目を検討すべきでしょう。
M そんなオールカマーでAiエスケープが指名した特別登録時点の注目馬は、レイパパレです。
伊吹 これは予想できなかった(笑)。もう少し穴っぽいところを挙げてくるかと思ったのですが……。
M GIで連対経験のあるウインマリリン、グローリーヴェイズ、ランブリングアレーあたりも注目を集めそうですが、おそらく1番人気はこの馬でしょう。
伊吹 まぁ、初黒星を喫した前走が今回と同じ2200m戦でしたし、「どこまで信頼して良いのだろう……」と悩んでいる方は案外多いはず。馬券を組み立てるうえでポイントになる一頭なのは間違いありません。
M 今回はその宝塚記念以来の実戦となります。レースの傾向から見ると、休み明けの馬はどう扱うべきなのでしょうか。
伊吹 高く評価して良いと思いますよ。このオールカマーは、むしろ休養明けの馬を積極的に狙うべきレースです。
M 前走から中5週以下の馬はほとんど上位に食い込めていませんね。
伊吹 ちなみに、2017年以降の3着以内馬12頭は、いずれも前走との間隔が中7週以上でした。札幌記念など、8月以降のレースを使った馬は過信禁物と見るべきでしょう。
M レイパパレのように、上半期のビッグレースから直行してきた馬を重視した方が良さそうですね。
伊吹 実績馬が強いレースでもありますからね。2017年以降の3着以内馬12頭は、いずれもJRAのGIで7着以内となったことがあった馬。過去10年まで集計対象を広げても、該当馬の3着内率は4割近くに達していました。
M おおっ、これはわかりやすい。大舞台で善戦できるくらいの能力が要求される、非常にレベルの高いレースと言えそうです。
伊吹 底力というか、ビッグレース向きの資質が問われる一戦と解釈しても良いでしょう。いずれにしても、オープン特別や条件クラスのレース、GIIやGIIIのレースを主戦場としてきた馬は強調できません。
M 当然ながら、レイパパレはこの条件もクリアしています。既に逆らえなさそうな雰囲気ですが、何か不安要素はないのでしょうか?
伊吹 ……うーん、ちょっと見当たりませんね。そもそも2017年以降のオールカマーは、いわゆる“社台グループ”の生産馬が圧倒的に優勢なんですよ。出走馬の半分以上を占めているとはいえ、まったく付け入る隙がありません。
M なるほど。これらの傾向を見ると、レイパパレの牙城を崩すのは難しそうです。
伊吹 Aiエスケープも「レイパパレより高く評価できる馬がいない」という理由でこの馬を挙げるに至ったのではないでしょうか。正直なところ、私も同意見です。2番手以下の序列を厳しくジャッジすることで、なんとか妙味ある配当を引っ掛けられるよう努力したいと思います。