▲“一蓮托生”のキセキと清山宏明助手 (2018年当時、撮影:大恵陽子)
泥んこ馬場の2017年菊花賞を制覇し、翌年のジャパンカップでは世界レコードで勝ったアーモンドアイの2着に粘るなど、これまで幾度となくGIで好勝負を演じてきたキセキ。2年前には凱旋門賞にも遠征しましたが、勝ち星からは4年遠ざかっています。
敗戦を繰り返すたび、悔しさともどかしさを募らせているのは担当の清山宏明調教助手。今年2月末に角居勝彦厩舎が解散後は、キセキと一緒に辻野泰之厩舎に移籍しました。
今年の秋初戦は10月10日の京都大賞典。和田竜二騎手との初コンビに期待が寄せられます。「競走馬の枠を超えて、大切な家族」だというキセキの復活を誰よりも願う清山助手に、その思いを伺いました。
(取材・構成=大恵陽子)
※このインタビューは電話取材で行いました。
「気性難」という表現に、悔しさ募らせ…
――2017年菊花賞は台風接近で大雨の中、力強く差してきて勝利。それ以来、勝ち星から遠ざかってはいますけど、あと一歩のいいレースを続けています。
清山 GIで2着4回で、常にいい勝負ができる状態になってくれます。どうしても期待してしまう反面、負ける悔しさやもどかしさは何とも言えないです。
キセキのあり余る闘争心が「気性難」という言葉で表現されることもありましたけど、そのひと言で片付けられてしまうことが悔しかったです。パッと見ると気難しいと感じると思うんですけど、あり余るポテンシャルに、気持ちの激しすぎる面が加わって、乗り手の意図する範囲を超えてしまうことが多々あったのだと捉えています。
――高いポテンシャルを持つがゆえ、レースでどう引き出すかという難しさもあるのでしょうか。
清山 「負けたくない」「走る!」とキセキが思った時は我が強いんですよね。それをジョッキーが収めようと思っても、「そうじゃないんだ」とキセキの意思が逆に強く出てしまいます。能力があるがゆえに、想像以上に収まりきれなくて、理想とするレースの形とどんどん離れていくところもあったのが、敗戦につながったのかなと思います。
普段から一緒にいながら、キセキのポテンシャルを存分に発揮させてあげられない反面、故障もせず、常にいい状態で大きな舞台に連れて行ってくれて、すごい馬だなと思います。
――素人目から見ても、いつも惚れ惚れする馬体で、ファンも多いですね。
清山 インターネットでファンからの励ましの言葉も目にしています。レースに負けた後は「何がいけなかったのか」と考え始めたら止まらなくなってマイナス思考になりそうになりますが、ファンのちょっとした言葉で勇気づけられて、「次、がんばろう!」と前を向くことができます。
それに、レースで一番しんどいのはキセキなので、「こんな気持ちで彼に携わってはいけない」と思わされます。
――角居厩舎からデビューしたキセキは厩舎解散により、今年3月からは辻野厩舎に移籍しました。デビュー時から担当する清山助手も辻野厩舎で引き続き担当されています。キセキと同じ厩舎に行きたいという思いも強かったのではないですか?
清山 そこが一番大きかったですね。ありがたいことに、辻野調教師は調教助手時代に角居調教師のもとで一緒に頑張ってきた方です。助手時代にキセキに携わっていたので、角居先生の思いも色々と知っていると思いますし、僕とキセキの関係を長い間、見てもらっているので、いい話し合いができるように空気づくりもしてくれています。
秋〜暮れはキセキが大好きな季節
――春は宝塚記念で5着ののち、休養に入りました。
清山 毎年、夏休みは生まれ故郷の下河辺牧場に行くんですけど、帰ってきた時は身も心も「温泉気分」で(笑)。
――温泉気分? ほっこりリラックスしているような感じですか!?
清山 そうですね。そこから競走馬として再び目覚めさせて、アスリートとしての筋力も戻すというのを毎年繰り返しています。年齢を重ねてどっしりしてきた面もあって、なかなかスイッチを入れたがらなくて、3歳の時以来となるコースでの併せ馬を先週と今週に行いました。
――今週行われたのが、9月29日の1週前追い切りですね。レースで初コンビを組む和田騎手を背に、好時計を出していました。
清山 周りに馬を置いて刺激を与えながら速いところをやってほしい、とリクエストしました。道中はレースのようになったので、内心シメシメと思っていました。直線もしっかり動いて、非常に中身の濃いハードトレーニングができました。
あとは体のケアを重点的にしながら、レースに向けていい形のスイッチが入ったかどうかを確認していきたいと思います。今日(10月1日)はもう1回ゲート練習もして、レースが近いということを伝えました。
――昨年も秋の始動戦は京都大賞典。今年は阪神に変わりますけど、外回りコースでのびのび走れそうですね。
清山 阪神競馬場は一番レース経験の多いコースです。その次に多いのは東京競馬場で、ゆったり走れる距離と広いコースが彼には一番合っていると思います。
――2018年の取材時に、「最も印象に残っているのは新馬戦。思い出は菊花賞」と話していらっしゃいました。あれから凱旋門賞出走などいろんなことがありましたが、振り返っていかがですか?
(⇒2018年宝塚記念出走馬のコラム「思い出グランプリ」にて)▲新馬戦優勝時のキセキ、鞍上はC.ルメール騎手 (C)netkeiba.com
清山 ベストレースが新馬戦だという思いは変わらないです。あれがキセキの理想的なレースだったと僕は思います。能力をビックリするくらい再認識させてくれたのは2018年のジャパンカップ(2着)ですね。
――アーモンドアイが驚異的な世界レコードタイムで優勝した時ですね。キセキも2着ながら、従来レコードを大きく上回るタイムでした。
清山 キセキが逃げてペースを作りました。それを負かしたアーモンドアイは強くて、成績では雲泥の差をつけられてしまいましたけど、アーモンドアイがあそこまで強いと思わせたのはキセキの走りがあったからだとも思っています。
――清山助手にとって、キセキはどんな存在ですか?
清山 競走馬としての枠を超えて、大切な家族です。GIを初めて勝たせてもらったというのもありますけど、いろんな経験を積んできた中で、さらに多くの経験をさせてもらいました。後にも先にも、担当馬でこういう存在には出会えないと思います。
競走馬である以上、キセキと一緒にいられる時間は限られていますから、その時間を有意義に過ごしたいです。
▲「キセキと一緒にいられる時間を有意義に…」 (C)netkeiba.com
――約5年、一番身近で接してきた清山助手が感じる「こういう時はいつもよりいい走りをする!」というポイントがあれば教えてください。
清山 パドックでソワソワすることもだんだん減ってきました。雄大な馬体できれいに歩きながら、内面から元気な気持ちが感じられれば、大人の雰囲気のキセキがいい形でレースをしてくれるんじゃないかなと思います。
今は品があって堂々と歩きますし、綺麗な目でイケメンなんです。ゆっくり見てもらえるとありがたいです。
――最後に、京都大賞典に向けて意気込みをお願いします。
清山 時間がどれだけ過ぎても、いつも諦めずに応援してくれるファンの方がたくさんいらっしゃるので、その気持ちに応えたいという思いでいつも競馬場に行っています。
キセキは秋から暮れにかけてが大好きな季節だと思います。他の季節と違って、心身ともに充実してきます。そんな大好きな季節のスタートを、まだまだ元気な姿でレースに向かいたいです。
キセキが、みんなの夢を追いかけられる存在にまだまだあるということを京都大賞典から彼自身が証明してくれればと思います。
(文中敬称略)