先週のスプリンターズステークスでピクシーナイトが勝利を挙げ、曾祖父グラスワンダー、祖父スクリーンヒーロー、父モーリスにつづく「父系4代JRA・GI制覇」という偉業を達成した。「父仔4代JRA・GI制覇」としてもいいのだが、細かいことを言うと、「曾祖父スペシャルウィーク、祖母シーザリオ、父エピファネイア、仔デアリングタクト、エフフォーリア」も、父仔4代でJRA・GIを勝っていると言えなくもないので、「父系」とするほうが無難だろう。
こうした表現を私が多用するようになったのは、メジロマックイーンが、祖父メジロアサマ、父メジロティターンにつづく、史上初の「天皇賞父系3代制覇」を達成したころからだった。今は「父系」と記したが、最初は「父子」と書いており、それを馬の場合は「父仔」としたほうがいいのではないかとスポーツ誌の校正者に指摘され、以来、ずっと「父仔3代制覇」と書いてきた。
マックイーンがそれを達成したのは1991年。ということは、実に30年ぶりに、私は表記をアップデートさせたわけだ。
30年前は、「父仔」か「父系」かを気にするまでもなかった。3代もつづけてGIを勝つ父仔がそう現れるわけがない、と思い込んでいたからだ。
そうした認識をピクシーナイトというスーパーホースが改めさせてくれたわけだが、今振りかえると、前述したメジロ父仔につづいて「父仔3代GI制覇」を達成したのは、「祖父アンバーシャダイ、父メジロライアン、仔メジロドーベル」だった。メジロドーベルがGI初制覇を果たしたのは1996年の阪神3歳牝馬S。翌々年の98年天皇賞・春をメジロライアン産駒のメジロブライトが勝ち、この「父仔3代GI制覇」のリストに加わった。
では、「父系3代JRA・GI制覇」を達成したラインは、ほかにどれだけあるのか。netkeiba.comの公式ツイッターでも独自調査で交流GIも含めたリストを公開していたが、数が多くなるので、ここでは平地のJRA・GIと、海外の国際G1のみとする。なお、3代目、つまり「仔」には牝馬も加え、3代制覇を初めて達成した年をカッコで記す。
「祖父サクラユタカオー、父サクラバクシンオー、仔ショウナンカンプ(2002年)、グランプリボス、ビッグアーサー」
「祖父サクラユタカオー、父エアジハード、仔ショウワモダン(2010年)」
「祖父シンボリルドルフ、父トウカイテイオー、仔トウカイポイント(2002年)、ヤマニンシュクル」
「祖父グラスワンダー、父スクリーンヒーロー、仔モーリス(2015年)、ゴールドアクター」
「祖父ネオユニヴァース、父ヴィクトワールピサ、仔ジュエラー(2016年)」
「祖父キングカメハメハ、父ルーラーシップ、仔キセキ(2017年)、メールドグラース」
「祖父キングカメハメハ、父ロードカナロア、仔アーモンドアイ(2018年)、ステルヴィオ、サートゥルナーリア、ダノンスマッシュ」
「祖父ステイゴールド、父オルフェーヴル、仔エポカドーロ(2018年)、ラッキーライラック」
「祖父シンボリクリスエス、父エピファネイア、仔デアリングタクト(2020年)、エフフォーリア」
「祖父ディープインパクト、父リアルインパクト、仔ラウダシオン(2020年)」
「祖父ハーツクライ、父ジャスタウェイ、仔ダノンザキッド(2020年)」
「祖父ステイゴールド、父ゴールドシップ、仔ユーバーレーベン(2021年)」
2000年代に入ってから、特に、2015年以降に増えていることがわかる。
母系はどうかというと、こちらは意外と少ない。
「母系4代GI級制覇」を達成しているのは、「曾祖母ダイナカール、祖母エアグルーヴ、母アドマイヤグルーヴ、仔ドゥラメンテ」のみ。ダイナカールがオークスを勝った1983年はグレード制が導入される前年だったので「GI級」とした。
これを「親仔4代GI級制覇」とすると、前述した「曾祖父スペシャルウィーク」からつながるラインと、「曾祖母アグネスレディー、祖母アグネスフローラ、父アグネスタキオン、仔ロジック、ダイワスカーレット、キャプテントゥーレ、ディープスカイ、リトルアマポーラ、レーヴディソール」がある。
「母系3代GI級制覇」を達成したのは、上述したダイナカールとアグネスレディーの牝系だけだ。
こうしたデータからどんなことが見えてくるのか。
父系に関しては、そもそも種牡馬というのは、一部の例外を除き、GIを勝った馬がなるものだから、父系で何代もGI制覇がつづいて当然と言える。が、それが国内で4代つづいたことに価値がある。
グラスワンダー(米国産、半沢有限会社所有、美浦・尾形充弘厩舎)、スクリーンヒーロー(社台ファーム生産、吉田照哉氏所有、美浦・鹿戸雄一厩舎)、モーリス(戸川牧場生産、吉田和美氏所有、美浦・堀宣行厩舎)、そしてピクシーナイト(ノーザンファーム生産、シルクレーシング所有、栗東・音無秀孝厩舎)は、生産者も馬主も厩舎もすべて異なる。これはすなわち、日本の競馬界全体のレベルが上がったがゆえに成し得た、と見ていいだろう。
母系のほうは、これだけ牝馬が強くなった今でも、何代もつづけてGIを勝つことの難しさを示している。畑は、焦らず、じっくり時間をかけて耕すしかない、ということか。
本稿がアップされる木曜日、スポーツ誌「ナンバー」の競馬特集号が発売される。
テーマは「名牝」で、私はシラユキヒメとユーバーレーベン、レイパパレのページを担当した。手に取っていただけると嬉しい。
なお、北海道などの一部地域では発売が数日遅れるようだ。