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サラブレッド生産原価、644万円

  • 2006年03月14日(火) 23時49分
 このほど届いた「JBBA・NEWS」3月号に、「2004年生産費」に関するデータが掲載されている。

 JRAの外郭団体である「中央畜産会」がずっと調査を続けているもので、対象としているのは全国よりピックアップした35牧場の計70頭。そのうち、北海道が30牧場を占め、日高はさらに26牧場56頭のサンプリングである。

 この調査結果によれば、1頭当たりのサラブレッド生産費は、全国平均で595万3141円。北海道ではこの数字が630万2322円と上昇し、さらに日高では644万5651円と全国平均を8.3%も上回る結果となっている。

 そのサラブレッド1頭当たりの生産費のうち、もっとも割合の高いのは種付け料である。全国平均では218万3923円、北海道で242万2267円、そして日高では252万520円と全国平均を大きく上回っている。生産原価に占める割合は全国平均で40.9%、それが日高ではさらに上昇し、43.5%にも達する。

 以下、日高における生産原価の内訳を見てみよう。飼料費30万5932円、採草放牧地管理費11万4200円、敷料費3万8301円、光熱水料動力費8万60円、獣医師料医薬品費16万1399円、土地改良・水利費5440円、賃貸料料金6万8996円、育成馬預託料7万7799円、登録料1万8000円、物件税・公課諸負担8万5912円、繁殖牝馬償却費50万3345円、建物費(償却・修繕)19万203円、管理用具費(償却・修繕・補充)30万6511円、生産管理費9036円、労働費131万2021円、とここまでが費用とされている。

 硬い用語の羅列で分かりにくいと思われるが、ざっと私なりの理解で解説させていただくと…。飼料費→餌のこと(これはお分かりですね)。採草放牧地管理費→採草地や放牧地の更新時にかかる種苗、肥料などの費用。敷料費→寝ワラのこと。光熱水料動力費→電気、水道、ガス、車両の燃料費など。獣医師料医薬品費→そのままです。土地改良・水利費→飼料生産のための土地改良事業に対する負担金など。賃貸料料金→放牧地や採草地、または施設(建物など)の賃貸料。育成馬預託料→市場上場などのためにコンサイナーなどへ預託する費用。登録料→サラブレッドの血統登録費用。物件税・公課諸負担→固定資産税や業界団体等への賦課金など。繁殖牝馬償却費→そのままの意味である。繁殖牝馬は牧場にとってはあくまで「資産」であり、減価償却の対象となる。建物費→厩舎や倉庫、事務所なども入るだろうか。管理用具費→車両、農機具から馬具、消耗品など。生産管理費→パソコン、文具など。労働費→人件費のこと。

 まだ項目が他にあり、さらに複雑な解説を要するので後は省略するが、だいたいの費用内訳はご理解いただけたことと思う。これらの項目ごとに数字を積算して行くと、計算上はとんでもない生産原価が弾き出されてしまう。644万円余というのは、日高の中小牧場にとっては相当な高額である。正直なところ「そこまで費用がかかっているのか」とやや疑問に感じないわけでもないが、調査対象牧場数と頭数があまりにも少ないため、末端の我々のような生産牧場の数字とはどうしてもズレが生じてくるのだろう。何軒かの知人がこの調査対象牧場になっており、データを提供している。それらの牧場はどこもかなり経営内容の良い牧場である。調査に協力してもらえる牧場をピックアップして行くと、不可避的に良好な経営の牧場ばかりが対象になってくるのかも知れない。無作為抽出をしても、調査に非協力的な牧場ならばどうしようもないのだろうから。

 それはさておき、相変わらず生産原価に占める種付け料の割合がいかに高いかがご理解いただけたことと思う。生産したサラブレッドは、普通、種付け料の高い方から順に売れて行く。生産名簿を見て問い合わせのあるのは、決まって種付け料の高価な牡馬の産駒である。本来ならばそういう生産馬ばかりに限定した「少数精鋭主義」が理想だが、現実はなかなか厳しい。最近は、大枚をはたいて配合した高額種牡馬の産駒が牝馬だったりするとフリーリターン制度を“悪用”して生後間もなく「間引き」してしまう例もあるという。(そしてまた同じ種牡馬を配合する)

 こうしたことは相変わらず牡牝の価格差の著しいことに起因しているのだが、生産者のモラルが問われかねないのと同時に、それだけ日高の生産者が追い詰められていることを如実に物語るエピソードだとも言えよう。

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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