単勝オッズ3.0倍(1番人気)のオーソリティが優勝(C)netkeiba.com、撮影:下野雄規
netkeibaにある膨大な競走成績を人工知能によって機械学習するAiエスケープを開発したAIマスター・Mと、レースデータの分析を専門とする競馬評論家・伊吹雅也による今週末のメインレース展望。コンピュータの“脳”が導き出した注目馬の期待度を、人間の“脳”がさまざまな角度からチェックする。
(文・構成=伊吹雅也)
超人気薄の台頭は期待しづらいレース
AIマスターM(以下、M) 先週はアルゼンチン共和国杯が行われ、単勝オッズ3.0倍(1番人気)のオーソリティが優勝を果たしました。
伊吹 「恐れ入りました」としか言い様がありません。人気の中心だったとはいえ、今回は約半年の休養明け。前走の天皇賞(春)で10着に敗れていたこともあり、やや懐疑的に見ていたのですが、まったく危なげのない完勝でした。
M 2年連続の優勝ですね。
伊吹 当時3歳だったこともあって、2020年は負担重量が54kg。今年は57.5kgを背負っての勝利ですから、高く評価して良いと思います。ちなみに、昨年も今年も4コーナー通過順は3番手。それぞれゴール前では完全に抜け出していましたし、まるでリプレイを見ているかのようでした。
M オーソリティは自身3度目の重賞制覇。アルゼンチン共和国杯の他には2020年の青葉賞を制しています。やはり、東京芝長距離のスペシャリストと見るべきなのでしょうか。
伊吹 2歳時に中山芝2000m内の芙蓉Sを勝っていますが、このレースは6頭立て。現状の戦績を見る限りだと、そう判断せざるを得ませんよね。もっとも、まだGI以外のレースでは4着以下に敗れたことがないわけですし、この条件がベストと決めつけてしまうのは危険。大敗が尾を引くタイプでもなさそうですから、キャリアのどこかで妙味ある配当を演出してくれそうな気がします。
M 大舞台で上位に食い込んでくる可能性もありますしね。
伊吹 当然ながら、陣営もまずはそこを目指してくるはず。もし使えるならば、3週後のジャパンCは絶好のチャンスでしょう。ただ、近年のジャパンCは既に東京や京都のGIで上位に食い込んだことのある馬が優勢。人気も相応に集まるはずですから、もう少し先の、他場のビッグレースでより積極的に狙うのもひとつの手だと思いますよ。
M ちなみに、2着は単勝オッズ7.6倍(4番人気)のマイネルウィルトスでした。
伊吹 Aiエスケープが特別登録時点の注目馬に挙げていましたね。お見事です。私も「穴党の注目を集めそう」「単勝4番人気のラインに近付いてくる可能性も」と評していましたが、ここまで想定通りのオッズになるとは(笑)。期待に違わない走りを見せてくれましたし、こちらも引き続き注目しておくべきでしょう。
M 今週の日曜阪神メインレースは、下半期の最強牝馬決定戦と位置付けられているエリザベス女王杯。昨年は単勝オッズ3.3倍(1番人気)のラッキーライラックが優勝を果たしました。
伊吹 強かったですね。大外枠だったこともあり、序盤は馬群の後方でレースを進めることになったものの、3〜4コーナーで一気に先団まで押し上げ、ゴール前の直線で抜け出しそのまま後続の追撃を完封。あんな競馬をされてしまったら、他の馬は為す術がありません。
M 単勝1番人気の支持に応えて優勝を果たしたのは2011年のスノーフェアリー以来。単勝オッズ4倍未満で優勝を果たしたのも2013年のメイショウマンボ以来でした。昨年の結果はともかく、どちらかと言えば波乱含みのレースだと思うのですが、いかがでしょう。
伊吹 私も何となくそんなイメージを持っていたのですが、改めて振り返ってみると、人気薄の馬が上位に食い込んだ例はそれほど多くないんですよね。
M 単勝7番人気以下の馬は3着内率4.4%。連対例が5回あるとはいえ、思いのほかインパクトのない水準にとどまっています。
伊吹 ちなみに、単勝8番人気以下の馬は2011年以降[0-3-0-101](3着内率2.9%)とさらに苦戦していました。超人気薄の一発に賭けるのではなく、人気の盲点になっている馬からそれなりの配当を狙うようなイメージで予想に臨むべきでしょう。
M そんなエリザベス女王杯でAiエスケープが指名した特別登録時点の注目馬は、ウインキートスです。
伊吹 ちょうど良い塩梅の伏兵を挙げてくれましたね。アカイトリノムスメ、ウインマリリン、レイパパレの3頭にはちょっと差を付けられそうですが、単勝8番人気以下ということはないはず。買い目作りのポイントになりそうな一頭ですし、Aiエスケープが高く評価しているという事実を踏まえたうえで、好走馬の傾向と見比べていきましょう。
M ウインキートスは今年の目黒記念を勝っていますが、GIは今回が初挑戦です。実績面についてはどう評価していますか?
伊吹 まったく心配はいらないと思います。このエリザベス女王杯は、格の高いレースで優勝を争ったことのある馬が強いレースです。
M なるほど。GIやGIIを勝つか、勝ち馬にタイム差なしまで迫った経験のある馬を重視すべきなんですね。
伊吹 ちなみに“前年以降、かつJRA、かつGI・GIIのレース”において“着順が1着、もしくは1位入線馬とのタイム差が0.0秒”となった経験のない馬は、2016年以降の過去5年に限ると[0-0-0-52](3着内率0.0%)でした。
M おおっ、そこまでハッキリ明暗が分かれているとは。
伊吹 GIIIやオープン特別、条件クラスのレースしか勝ったことがない馬よりは、ウインキートスのような馬を高く評価すべきでしょう。
M 臨戦過程についてはどうでしょう。前走のオールカマーは勝ったウインマリリンから0.3秒差の2着でした。
伊吹 こちらも問題ないと思います。好走馬の大半は、前走で格の高いレースを使っていた馬です。
M 前走がGIやGIIのレースでなかった馬はほとんど上位に食い込めていません。
伊吹 極端に前走1着馬が強いレースではありませんし、実績や臨戦過程に関しては、ウインマリリンらと同等に評価して良いでしょう。
M 今年はこれらの条件に引っ掛かっている馬が多いので、チャンスは十分にありそうですね。他に注目しておきたいポイントはありますか?
伊吹 あとは、基本的に前走で先行していた馬が優勢という点をどう見るかですね。2016年以降の過去5年に限ると、前走の4コーナーを4番手以下で通過した馬はやや苦戦しています。
M 昨年の1〜3着馬はいずれも馬群の後方でレースを進めていましたが……。
伊吹 その通り。ただ、3頭とも前走の4コーナー通過順は3番手以内だったんですよ。京都芝2200m外で施行されていた時期も先行有利だったうえ、今年の舞台はゴール前の直線が短い阪神芝2200m内。昨年のような展開でもこの傾向は崩れなかったわけですし、末脚を活かすような競馬しかできないタイプは強調できません。
M ウインキートスはどう評価すべきでしょうね。一応、前走の4コーナー通過順は5番手です。
伊吹 まぁ、もともと先行力の高い馬ですから、この点だけを根拠に嫌うのは無理筋でしょう。そもそも、前走の4コーナー通過順が4番手以下、かつ前走の条件がGI・GII、かつ前走の着順が3着以内だった馬は2016年以降[2-0-4-16]( 3着内率27.3%)とまずまず健闘しています。Aiエスケープと同じく、私も相応に重いシルシを打つつもりです。