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【アルゼンチン共和国杯/BC】後続馬を翻弄するルメール騎手の技術&印象的だった川田将雅騎手の表情

  • 2021年11月09日(火) 18時00分
哲三の眼

BCでの川田将雅騎手は「嬉しそうな顔もすごく印象的」(C)netkeiba.com


今週は2つのレースをピックアップしてお届けします。アルゼンチン共和国杯では、1番人気に応えたオーソリティが見事連覇を果たしました。今回は鞍上をつとめたルメール騎手の“目に見えにくい技術”に注目します。

そしてブリーダーズカップ。日本馬が2勝と快挙を達成し、大きな話題となりました。ラヴズオンリーユーとともに戦った川田将雅騎手について、レース後の表情が印象的だったと哲三氏。その姿に、自身の引退打ち上げ時の出来事を思い出したそうです。

(構成=赤見千尋)

後ろの馬たちに全然手出しさせていない


 先週末は好レースが盛りだくさんでしたね。まず振り返りたいのがアルゼンチン共和国杯。1番人気だったオーソリティが連覇を果たしました。鞍上のクリストフ(・ルメール騎手)は今年もさすがの騎乗ぶりで、完璧なレース運びでしたね。

 昨年は8枠18番からの勝利でしたが、それを考えると今年の6枠10番というのはレースがしやすかったのではないでしょうか。昨年54キロだった斤量が今年は57.5キロになったことなど、いろいろなことを計算に入れた上で、好位の3番手をしっかり取り切ったレース運びはさすがです。あの位置に付けた時点である程度勝負が決まったなと思いました。

 道中は前にライバルになりそうな人気馬(アンティシペイト/横山武史騎手騎乗)がいて、やや右前方には先行してそんなに切れるイメージはない馬(ゴースト/鮫島克駿騎手騎乗)がいてという形。コーナーワークでゴーストの存在はいい壁になったのではないかと思います。コーナーを回っている間に自然と前に出て行くことになるので、4コーナーの手前まではその馬を壁にしながら、自然と回ることが出来ました。あの場面で一気にまくってくる馬がいなければ、ある程度勝ち負けになるという計算だったのではないかと。

哲三の眼

オーソリティが連覇を果たした今年のアルゼンチン共和国杯 (撮影:下野雄規)


 前の馬は捕まえられる自信があるとして、後ろから伸びてくる馬をどうするか。今回のクリストフは後ろの馬たちに全然手出しさせていないんですよ。前に行くと「マークされる立場になる」と言われますが、そこを逆手に取って、「前でマークされる立場を上手く使えれば競馬は優位に立てる」ということを体現していました。

 なぜ後続馬が手出し出来なくなったかと言えば、加速や減速というスピード調整を難しくさせているからです。最初の位置の取り方、コーナーワーク、こういう目立たない部分で後続馬を翻弄している。相手に何もさせなかったというのは目に見えにくい技術ですが、さすがクリストフだと感じました。

 オーソリティは有馬記念14着、天皇賞春10着とまだ3歳以降にGIで上位に来たことはないですが、今回の勝ち方はGIでどれくらい頑張りを見せてくれるか楽しみになる内容でした。

馬上での表情を見て思い出したエピソード


 そしてブリーダーズカップは日本馬が2勝と快挙を達成しましたね! ブリーダーズカップフィリー&メアターフを勝ったラヴズオンリーユーの(川田)将雅君は、馬の力を信じ切った乗り方だったと感じます。

 1、2コーナーで内に入れるけれど入らなかったという選択は、終いの脚に自信があったからではないでしょうか。セオリーでは内に入っても良かったとは思いますが、壁になったり狭くなったりするよりは、スムーズに走れることを重視したのかなと。実際壁になっているように見える場面もありましたが、あれくらいは大きな影響はないと思いますし、あの大舞台で冷静に判断出来ていましたね。最後接戦で勝ち切ったというのは、迷いのない騎乗だったからだと思います。

 それから、レース後の将雅君の嬉しそうな顔もすごく印象的でした。あの表情を見て思い出したのが、僕が引退した時の打ち上げです。いろいろな人たちが来てくれた中で、将雅君が泣いていて。将雅君が泣くタイプってあまり思わないじゃないですか。「どうしたん?」て周りから言われて「何か泣けてきて…」って言いながら、その後笑ったんです。今回馬上での表情を見て、その時のことを思い出しました。ブリーダーズカップを勝ってすごいなということと、将雅君の情に厚い人間性を改めて感じました。

哲三の眼

「情に厚い人間性を改めて感じました」と哲三氏 (C)netkeiba.com


 ブリーダーズカップディスタフのマルシュロレーヌもいいレースでした。(オイシン・)マーフィー騎手は映像で確認すると左のアブミが足首の近くまでずっぽりハマっているんです。これまで道悪でもこういう風に見えたことがなかったので、かなり脚を使って追っているのではないかと。右側はしっかり見えないのではっきりとは言えませんが、アメリカのダートだからなのか、ブリーダーズカップという大舞台だからなのか、レース展開どうこうよりもがむしゃらさが見えました。今回の騎乗もさすがでしたね。

 面白いレースをたくさん見ることが出来て、とてもいい週末でした。日曜日は朝から馬券で負けて取り返して、最後はプラスで終われたので尚更良かったです。

(文中敬称略)

1970年9月17日生まれ。1989年に騎手デビューを果たし、以降はJRA・地方問わずに活躍。2014年に引退し、競馬解説者に転身。通算勝利数は954勝、うちGI勝利は11勝(ともに地方含む)。

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