単勝オッズ64.9倍(10番人気)のアカイイトが優勝(C)netkeiba.com
netkeibaにある膨大な競走成績を人工知能によって機械学習するAiエスケープを開発したAIマスター・Mと、レースデータの分析を専門とする競馬評論家・伊吹雅也による今週末のメインレース展望。コンピュータの“脳”が導き出した注目馬の期待度を、人間の“脳”がさまざまな角度からチェックする。
(文・構成=伊吹雅也)
単勝5番人気以内の馬が1〜3着馬の大半を占めている
AIマスターM(以下、M) 先週はエリザベス女王杯が行われ、単勝オッズ64.9倍(10番人気)のアカイイトが優勝を果たしました。
伊吹 素晴らしい勝ちっぷりでしたね。向正面までは馬群の後方でレースを進めていましたが、3〜4コーナーで大外を周りながら一気にポジションを押し上げ、残り200mの地点では早くも先頭に。その後もセーフティリードを保ったまま押し切りましたし、仮に各馬のオッズを知らない状態だったら、チャンピオンクラスの馬が強い競馬をしているように見えたと思います。
M 2着には単勝オッズ25.1倍(7番人気)のステラリアが、3着には単勝オッズ46.9倍(9番人気)のクラヴェルが入り、3連単は339万3960円の高額配当決着となりました。
伊吹 1着から5着までを重賞未勝利馬が占めましたからね。重賞で3着以内となった経験があったのも、3着のクラヴェルと4着のソフトフルートだけ。重賞未勝利馬が3着以内に好走したのは、マリアライトが勝った2015年以来です。ちなみに、重賞で3着以内となった経験すらなかった馬となると、勝ったのは2012年のレインボーダリア以来、3着以内に食い込んだのは2013年のラキシス以来となります。
M ちょっと懐かしい名前が並びますね。
伊吹 近年のエリザベス女王杯は、GIやGIIを勝っているような実績馬が上位の大半を占めていましたからね。例年とはちょっと毛色の異なる決着だったと言って良さそうです。
M 原因は何でしょう。
伊吹 いろいろと考えられますが、やはり変則開催で施行コースが阪神芝2200m内に替わった点は大きいと思います。ゴール前の直線が短いコースではあるものの、先行力の高さを活かそうとする馬や早めの仕掛けで勝負に出た馬が多いと、今回のような差し馬向きの流れになってしまいがち。昨年と違って、今年は実績馬がこの流れに飲み込まれてしまいました。
M 展開がハマった部分もあるとはいえ、パフォーマンス自体は優秀だったアカイイト。今後についてはどう見ていますか?
伊吹 出世に時間はかかりましたが、まだ4歳ですし、およそ5か月前に3勝クラスを勝ち上がったばかり。更なる上積みがあっても驚けません。牡牝混合の重賞を含め、これからも格の高いレースを積極的に使っていってほしいです。
M 今週の日曜阪神メインレースは、下半期の最強マイラー決定戦であるマイルCS。昨年は単勝オッズ1.6倍(1番人気)のグランアレグリアが優勝を果たしました。
伊吹 2020年の出走レースすべてに言えることですが、本当に手の付けられない強さでしたね。このマイルCSも、ゴール前の直線半ばまで周囲の馬たちが壁になっていたにもかかわらず、ラストの100mほどで難なく抜け出しています。着差以上に余裕のある勝利だったと言って良いでしょう。
M 2着のインディチャンプ、3着のアドマイヤマーズを含め、昨年の上位3頭はいずれもGIウィナーでした。基本的に堅く収まりがちなレースという印象です。
伊吹 確かに、過去10年の単勝人気順別成績を見ても、人気薄の馬はあまり上位に食い込めていません。
M 単勝1番人気の馬も思いのほか苦戦していますが、単勝7番人気以下の馬は3着内率が4.3%と、かなり低い水準にとどまっています。
伊吹 より詳しく見てみると、単勝5番人気以内の馬は2011年以降[9-9-6-26](3着内率48.0%)、単勝6番人気以下の馬は2011年以降[1-1-4-121](3着内率4.7%)でした。まずは上位人気グループの馬に注目すべきでしょう。
M そんなマイルCSでAiエスケープが指名した特別登録時点の注目馬は、グランアレグリアです。
伊吹 おっと、意表を突いてきましたね。上位人気馬が堅実という、ここまでの話の流れには合っていますが……。
M 2021年はこれまでのところ4戦1勝。昨年ほど断然の人気にはならないかもしれません。
伊吹 とはいえ、今年のメンバー構成を考えると、妙味あるオッズにはならないでしょう。Aiエスケープの評価を尊重しつつ、やや厳しめにジャッジしていきたいところです。
M 昨年に比べると勢いが鈍っているとはいえ、今年も既にGIのヴィクトリアMを制しています。実績面は心配無用と見て良いでしょうか。
伊吹 もちろんです。2015年以降の過去6年に限ると“同年6月以降、かつJRA、かつ出走頭数が13頭以上、かつGI・GIIのレース”において3着以内となった経験のある馬は堅実でした。
M 安田記念以降の戦績を素直に評価すべきレースと言えそうですね。
伊吹 その通り。なお、この条件をクリアしていなかった馬のうち、“同年4月以降、かつJRA、かつGI・GII、かつ1800m超のレース”において5着以内となった経験もなかった馬は2015年以降[0-0-0-68](3着内率0.0%)でした。
M なるほど。安田記念以降に行われた多頭数のレースや、大阪杯以降に行われた中長距離のレースで好走した馬を重視したいところです。
伊吹 ヴィクトリアMはこれらの傾向と関係ありませんが、グランアレグリアはどちらの条件も問題なくクリアしています。
M 前走の天皇賞(秋)で3着に敗れている点はどうでしょう。
伊吹 こちらも問題ないと思いますよ。前走の着順が6着以下だったにもかかわらず3着以内となったのは、現在のところ2014年1着のダノンシャークが最後。つまり、2015年以降の3着以内馬18頭は、いずれも前走の着順が5着以内だった馬です。
M ハッキリと明暗が分かれていますね。
伊吹 ちなみに、前走の着順が1着だった馬は2015年以降[2-1-2-16](3着内率23.8%)、2〜5着だった馬は2015年以降[4-5-4-33](3着内率28.3%)。前走を勝ち切っていればなお良い――ということはありません。
M 強調材料と言えるかどうかは微妙なところですが、少なくとも評価を下げる必要はなさそうですね。
伊吹 あとはまだキャリア14戦である点も、ポジティヴに評価して良いと思います。
M 2011年以降の過去10年まで集計対象を広げても、キャリア21戦以上の馬はほとんど上位に食い込めていませんね。
伊吹 2015年以降の過去6年に限ると[0-0-0-40](3着内率0.0%)なので、該当馬は割り引きが必要です。
M レースの傾向からも、逆らうのは得策でないように思えます。
伊吹 今年に入ってからまだ1勝しかできていないのも、大阪杯や天皇賞(秋)といった、別カテゴリのレースに挑戦していたからですもんね。もともと私の評価はAiエスケープと同じ。無理に捻らず、素直に連軸を任せて良いと思います。