福永騎手の涙は彼の感激だけでなく…

ジャパンCで有終の美を飾った無敗の三冠馬コントレイル(C)netkeiba.com、撮影:下野雄規
無敗の3冠馬に輝いたあと連敗し、必勝態勢だった前走の天皇賞(秋)で3連敗となったコントレイル(父ディープインパクト)は、種牡馬入りを前に、絶対に負けられない一戦だった。456キロの馬体は、2歳の秋と同じ。細く映るくらい研ぎ澄まされた究極の最少馬体重タイだった。
今回を含めまだ11戦の戦歴。デビュー前から順調に成長した丈夫な馬ではなく、2歳時の3戦はともかく、3冠を達成した3歳時は5戦、早々と引退を決定した4歳の今年はわずか3戦だけ。狙いのレース以外は出走しない(無理はできない)馬だった。
男泣きした福永祐一騎手が「本当は3000mの菊花賞を走れる馬じゃない」。だから、「無敗の3冠は本当にすごいんです」と振り返ったように、本当は1600~2000m級がベストの、典型的な中距離のスピードタイプが本質だろう。
父ディープインパクトや、祖父サンデーサイレンス、さらには母の父Unbridled's Songアンブライドルズソングと同じように、こなせる距離の幅の広いさまざまな産駒を送り出すこと必至だが、本当は「もっとすごいスピードを秘めている」という福永騎手の証言は、コントレイルの種牡馬としての確実な成功を約束させる言葉だった。
コントレイルは、矢作調教師も認めるように、さまざまな不安を抱えつつの挑戦がつづいた約2年間だった。福永騎手の涙は、彼の感激だけでなく、絶対に負けられない一戦を制して使命を果たしたコントレイルの安堵の涙だったかもしれない。
レースの流れは前後半の1200m「1分14秒5-1分10秒2」=2分24秒7。新馬戦の1800mで1分47秒2。2歳未勝利戦2000mで2歳コースレコードの1分58秒5、古馬2勝クラスで1分58秒4が記録された日にしては、不思議なほど全体時計を要したが、前半があまりにもスローだったのと、6ハロン過ぎから11秒台のラップが5ハロンも続いたので(58秒0)、息の入れ方がむずかしかったためか。
全体のバランスはスローなので途中からピッチが上がったが、コントレイルのリズムを守り、ライバルの動きを見ながらも早く動かなかったこと。これが、スタミナに一抹の死角があるコントレイルを後半の勝負に導いた福永騎手の絶妙な騎乗だった。
早めにスパートし、2着を確保したオーソリティ(父オルフェーヴル)は、東京の2400~2500mで3勝を記録しているスタミナと、上昇一途の総合力がフルに生きた。入念に乗って一段とパワーアップした身体はデビュー以来最高の520キロ。シーザリオ一族(母ロザリンドは一段と評価を上げる種牡馬エピファネイアの全妹)の勢いを感じさせた。
4歳オーソリティは、父母両系ともに距離延長にまず不安のない血統構成であり、これからの中~長距離路線の中核を担うのはこの馬だろう。
3歳の挑戦者シャフリヤール(父ディープインパクト)には、最少5戦のキャリアでジャパンC制覇の歴史的な記録がかかっていたが、最後の競り合いで4歳コントレイル、オーソリティに屈してしまった。5戦の戦歴で2着した馬には1996年のファビラスラフイン。
6戦のキャリアで勝った馬には、1998年のエルコンドルパサー、2018年のアーモンドアイがいるが、今回のシャフリヤールはキャリア不足と、ちょっと非力に映る未完成な体つきが死角だった。
3冠馬としてジャパンCを制したシンボリルドルフ、今回のコントレイルでさえ3歳時は年長馬に負けている。本物になるのはこれからだろう。
天皇賞(秋)に続き、今回も直線で伸びて4着したサンレイポケット(父ジャングルポケット)は、6歳のいま、すばらしいパワーアップを示している。東京、新潟、中京に良績が集中するあたり、トニービンの父系そのもの。ぜひとも適鞍を探したい。
海外からの出走馬では、フランス調教馬の5歳牝馬グランドグローリーが5着。ジャパンCを狙うには休みなしのローテーションはきついかと思えたが、さすがだった。日本で繁殖入りかとも伝えられる。日本で良く知られるパワーあふれるファミリーだけに(種牡馬Alzaoアルザオ、ラディガなど)、注目しておきたい。
4番人気で沈んだ4歳アリストテレス(父エピファネイア)は、前半1200m通過1分14秒5のスローに持ち込んだのは良かったが、そこからキセキ(父ルーラーシップ)にこられ、そのあと自分のリズムでスパートできなかった。この経験を生かして成長したい。