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キセキはなんで「奇跡」じゃなくて「神業」なの? 香港表記のカラクリに迫る!

  • 2021年12月05日(日) 18時03分
海外競馬通信

競馬ファンの間でもたびたび話題になる香港表記のカラクリを合田直弘さんが解説します!(撮影:高橋正和)


馬名の漢字表記はどのように決まる!?


 新型コロナウイルスのパンデミックという困難を乗り越えつつ、今年も世界各国で国際競走が開催されてきたが、1年のクライマックスとなるのが、12月12日にシャティン競馬場で行われる香港国際競走だ。

 芝1200mの香港スプリント、芝1600mの香港マイル、芝2000mの香港カップ、芝2400mの香港ヴァーズという4競走に、欧州や日本を中心とした海外勢が参戦。これを地元の強豪が迎え撃ち、白熱した戦いが繰り広げられる。

 それぞれの開催国ならではのユニークな特性が垣間見られるのが、国際競走の面白みであり醍醐味でもあるのだが、シャティンで国際競走が開催されるたびに話題になるのが、出走馬名の漢字表記である。

 香港で国際競走が開催される時、あるいは、香港で海外のレースの馬券が発売される時、出走馬名はアルファベット表記とともに、漢字でも表示されるのが慣例だ。

 中には、そのものズバリの表記もあれば、時には、なぜこの漢字をあてたのかと首を傾げることもあり。そこのところを面白がっているのは、世界の中でも同じ漢字文化を持つ日本人だけであろうが、何か規定があるのであれば探ってほしいとのご指示をnetkeiba編集部よりいただき、香港ジョッキークラブ広報のラリー・ヤン氏と、漢字表記に実際に携っておられるユージニア・ウォン氏に、お話を伺うことになった。

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エイシンヒカリはズバリ! 榮進之光であった(撮影:高橋正和)


 ラリー・ヤン氏によると、香港ジョッキークラブが文書や資料を公に発表する場合、出走馬名に限らず、英語と中国語の2種類を用意することがほとんどであり、それに対応するため、香港ジョッキークラブの組織内には、Language Service Team(=言語サービスチーム)が存在する。

 現在、その言語サービスチームのリーダーを務めているのが、広報セクションでマネージャーの職責にあるユージニア・ウォン氏である。

 彼らの業務をごく一般論で言えば、英語が意味するところを、そのまま中国語に翻訳する(その逆もある)のが基本なのだが、こと馬名に関して言えば、それほどシンプルな作業ではないとのこと。英語馬名が持つ意味の深いところを探ったり、その馬が持つ背景(毛色、血統など)、あるいは、その馬の馬主さんが持つ背景を吟味し、その上で、見映えがよく、スタイリッシュに聞こえる漢字表記をデザインしているそうだ。

 日本調教馬で、馬名の意図するところが不明瞭であった場合、JRAに問い合わせをすることもあるとのことだ。

 さらに原則として、過去に存在した馬名との重複は出来るだけ避ける、地元の競馬ファンから見てわかりやすいこと、不快であったり不吉であったりする表現は避けること、などが決められているようだ。

 それでは、どのような経緯で漢字馬名が決まったのか、いくつかの実名を挙げて解説してもらった。

同じ漢字でも、日本語と中国語ではニュアンスの違いも


 香港で活躍した日本調教馬と言えば、真っ先に名前が挙がるのがロードカナロア(Lord Kanaloa=龍王)だ。Lordは「支配者」「神」を意味するが、Kanaloaもまた、ハワイ神話で「海の神」を意味する。ちなみに外見は、イカの姿をしているのがカナロアだそうだ。そこから、シンプルに「龍王」の二文字をあてたという。

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龍王、かっこよすぎる二文字。(撮影:高橋正和)


 日本から生まれた歴史的名馬ディープインパクト(Deep Impact=大震撼)。深い印象を与える、というのが、もともとの意味だが、中国語の感覚では、「深い」よりも「大きい」が相応しく、「大震撼」としたそうだ。

 今年9歳で急逝したドゥラメンテ(Duramente=大鳴大放)は、音楽用語で、「荒々しく、はっきりと」を意味するイタリア語だ。そのDurementeを英語に置き替えるなら、“The straight-forward and free expression”となるそうで、これを漢字で表記すると、「大鳴大放」になる。

 シンボリクリスエス(Symboli Kris S=吉兆)。Krisを翻訳すると「吉」になり、「兆」はサインやシンボルを意味する。この二文字を組み合わせれば、良いことの兆しを意味するおめでたい単語となるため、「吉兆」とした。

 キズナ(Kizuna=高情厚意)。キズナ=絆が持つ本質的な特徴を具現化し、「強い信頼関係」を意味する言葉に置き換えたのが、「高情厚意」とのこと。ちなみに、「絆」という文字を使用すると、中国語では少し違ったニュアンスで受け取られかねないとのことだ。現在でこそ、「心の繋がり」という意味で「絆」を捉える人は増えたが、本来は、「逃れられない束縛」という意味に近いのが「絆」だそうである。

 キセキ(Kiseki=神業)。奇跡とはすなわち、神のみがなしうる業であるゆえ、「神業」とした。実を言えば、同馬の前に既に「奇跡」という馬が香港にいたそうで、これとの重複を避けるために、同じような事象を意味する「神業」と決めたとのこと。

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奇跡とは、神のみがなしうる業!(撮影:高橋正和)


 ユーキャンスマイル(You Can Smile=笑一笑)。「笑ってごらん」という意味で、英語だと“Give a Smile”。これを漢字に置き換えると、「笑一笑」となるそうだ。

 今年の香港国際競走は、日本調教馬の漢字表記もお楽しみいただきたい。

(取材・文=合田直弘)

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