テーオーケインズはJRAGI初勝利(c)netkeiba.com
netkeibaにある膨大な競走成績を人工知能によって機械学習するAiエスケープを開発したAIマスター・Mと、レースデータの分析を専門とする競馬評論家・伊吹雅也による今週末のメインレース展望。コンピュータの“脳”が導き出した注目馬の期待度を、人間の“脳”がさまざまな角度からチェックする。
(文・構成=伊吹雅也)
上位人気グループの馬はそれなりに信頼できる
AIマスターM(以下、M) 先週はチャンピオンズCが行われ、単勝オッズ3.3倍(1番人気)のテーオーケインズが優勝を果たしました。
伊吹 いや〜、まさかこのメンバー構成であれほどのワンサイドゲームになるとは……。2着のチュウワウィザードに6馬身差をつけたうえ、上がり3ハロンタイム(35.5秒)も断然のトップ。4コーナー11番手のチュウワウィザードが36.2秒で2位、4コーナー13番手のサンライズノヴァ(5着)が36.3秒で3位だったことを考えても、驚異的なパフォーマンスと言えます。4コーナー6番手のポジションからあんな脚を使われたら、他の馬はなす術がありません。
M 今年の帝王賞を勝っているものの、テーオーケインズは今回がJRAGI初出走でした。
伊吹 正直なところ、私はそのあたりを不安視していたんですよね。馬場やメンバー構成が微妙に異なることもあって、JRAのダート重賞でも地方のダートグレード競走でもパフォーマンスに大きな変化がないタイプというのは、意外と貴重な存在。あまりにもお見事だった帝王賞の勝ちっぷりを観て「もしかしたらフェブラリーSやチャンピオンズCは合わないのかも……」と考えたのですが、まったくの杞憂でした。
M テーオーケインズはシニスターミニスターの産駒。これがJRAGI初勝利ですね。
伊吹 そもそも、JRAGIへの出走も今回がまだ16例目でした。インカンテーションが2015年のフェブラリーSで2着に、2018年のフェブラリーSで3着に健闘したものの、他にJRAGIで3着以内となった産駒はいません。
M 初年度産駒がデビューしたのは2011年。地方の重賞を勝った産駒は既にたくさんいて、2019年にはヤマニンアンプリメがJBCレディスクラシックを制しました。一方、JRA重賞を勝ったのはインカンテーション、キングズガード、ゴールドクイーン、テーオーケインズの4頭だけです。
伊吹 JRAの重賞で活躍した産駒がそれほど多くないこともあってか、シニスターミニスター産駒はとにかく過小評価されがちで、単複の回収率が総じて高め。先週終了時点におけるJRA通算でも、単勝回収率は110%に、複勝回収率は93%に達しています。出走数が3459回もある中でこれだけの高水準をキープしているのは驚異的です。
M もし単勝を100円ずつ買い続けていたら、それだけで3万円くらい儲かっていた計算ですからね。
伊吹 テーオーケインズの活躍で注目度は多少上がるかもしれませんが、こうした傾向がガラッと変わる可能性はそれほど高くないでしょう。まだまだ元気に種付けを続けている種牡馬ですし、今後も上手に付き合っていきたいと思います。
M 今週の日曜阪神メインレースは、2歳牝馬チャンピオン決定戦の阪神JF。昨年は単勝オッズ3.2倍(1番人気)のソダシが優勝を果たしました。
伊吹 見応えのあるレースでしたね。ソダシは4コーナーを4番手で通過しましたが、逃げ粘るヨカヨカ(5着)や先に抜け出しを図ったメイケイエール(4着)の抵抗もあって、先頭に立ったのはゴール直前。そこからさらにサトノレイナス(2着)やユーバーレーベン(3着)が突っ込んできたものの、しぶとく粘り切っています。能力の高さはもちろん、スターホースらしい勝負強さも見せつけた一戦と言えるでしょう。
M 2着のサトノレイナスは単勝オッズ4.4倍の2番人気。4着どまりだったとはいえ、メイケイエールも単勝オッズ4.7倍の3番人気に推されていました。基本的には堅く収まりがちなレースだと思うのですが、いかがでしょう。
伊吹 1番人気馬の好走率が極端に高いわけではないものの、確かに人気薄の馬が上位に食い込んだ例は多くありません。
M 単勝6番人気くらいまでの馬が中心と言えそうです。
伊吹 過去10年の優勝馬10頭はいずれも単勝5番人気以内。単勝の配当がもっとも高かったのも、レッドリヴェールが勝った2013年の1460円でした。無理に伏兵を嫌う必要はありませんが、こうした傾向があることは意識しておくべきでしょう。
M そんな阪神JFでAiエスケープが指名した特別登録時点の注目馬は、ラブリイユアアイズです。
伊吹 絶妙なラインの馬を挙げてきましたね。オープン特別のクローバー賞を勝っているうえ、前走の京王杯2歳Sでも3着に健闘。上位人気に推されてもおかしくない実績の持ち主ですが、他の前哨戦で好走した馬たちにも注目が集まるでしょうし、人気の盲点になる可能性があります。
M それこそ、単勝6番人気前後にとどまるようならば妙味ある存在ですね。
伊吹 おっしゃる通りです。Aiエスケープが高く評価しているという前提に基づいたうえで、好走馬の傾向とこの馬の戦歴を見比べていきましょう。
M ラブリイユアアイズはキャリア3戦。より多くレース経験を積んでいる馬や、その逆に1戦1勝で臨むような馬たちと比べ、どのように評価すべきなのでしょうか。
伊吹 これはもう、素直に強調材料のひとつと見て良いと思います。2013年以降の過去8年に限ると、3着以内に好走を果たした馬の大半は出走数が2〜3戦でした。
M キャリアが浅過ぎるのも、豊富過ぎるのも良くないんですね。
伊吹 キャリア4戦以上で3着以内となったのは2015年2着のウインファビラスのみ。この馬には新潟2歳Sで2着となった実績がありましたし、今年も基本的にはキャリア2〜3戦の馬を重視すべきでしょう。
M ラブリイユアアイズは1500m以下のレースしか使ったことがなく、1600mのレースは今回が初挑戦となります。この点についてはどうお考えですか?
伊吹 こちらはちょっと不安ですね。1マイル以上のレースを勝ったことがない馬はあまり上位に食い込めていません。
M おおっ、ハッキリと明暗が分かれていますね。
伊吹 ちなみに“JRA、かつ1500m超のレース”において1着となった経験がない、かつ“JRA、かつ出走頭数が15頭以上、かつ重賞のレース”において1着となった経験がない馬は、2013年以降[0-0-0-64] (3着内率0.0%)でした。2019年1着のレシステンシアがそうだったように、多頭数の重賞を制しているような馬であれば心配はいらないのですが、ラブリイユアアイズくらいの実績だと割り引きが必要です。
M なるほど。他に何か押さえておくべき傾向はありますか?
伊吹 そうですね。同じく2013年以降の過去8年に限ると、関東圏のレースに実績のある馬は堅実でした。
M これはちょっと意外ですね。阪神競馬場が舞台であるにもかかわらず、関東圏の前哨戦で好走してきた馬の方が信頼できるとは。
伊吹 番組の構造上、この時期に施行される1勝クラス以上のレースは、関東圏の方がハイレベルなメンバー構成になりやすいようです。
M ラブリイユアアイズは厳密に言うとこの条件をクリアしていません。しかし……。
伊吹 そう、GIIの京王杯2歳Sで3着に食い込んだ実績ならあるわけですよ。距離適性のことを考えると強気には推せませんが、上位争いに食い込んでくる可能性は低くなさそう。Aiエスケープも高く評価しているわけですし、オッズ次第では魅力的な存在と言えるのではないでしょうか。