▲無敗で朝日杯FSへと向かう、セリフォスと三上賢助手 (撮影:武田明彦)
デビューから無敗の3連勝で新潟2歳S、デイリー杯2歳Sを制覇したセリフォス。この世代の牡馬で“唯一の重賞2勝馬”の威厳を胸に、GI・朝日杯FSへと向かいます。
高い素質を持つ一方、まだ幼い気性が見え隠れしますが、ジョッキーや調教助手、担当者などが一丸となって取り組んでいます。また、そこには様々な人間ドラマも織り交ざっているよう。セリフォスを担当する、中内田充正厩舎の三上賢調教助手に伺いました。
(取材・構成=大恵陽子)
※このインタビューは電話取材で行いました
育成段階から「完成度が高い」と高評価
――初めてトレセンに入厩した時から担当されているとのことですが、第一印象はどうでしたか?
三上 ダイワメジャー! という感じでした。目つきや仕草、正面から見たゴリゴリした体つきがお父さんに似ているなと思いました。
うちの厩舎は入厩してゲート試験に合格すると、成長を促すために放牧に出すパターンが多いんですけど、セリフォスは最初に入厩してからずっと在厩でデビューまで向かいました。牧場での育成段階でも「完成度が高い」という評価だったようです。
―― 一方で、新馬戦の1週前追い切りではハプニングがあったとか?
三上 難しくて、おまけに2歳。まだ“ベイビー”なんです。川田騎手がnetkeibaのコラムで書いていましたけど、新馬戦の1週前追い切りの向正面でCコースの出口に飛び込みそうになりました。
幼い気性のまま調教でそういう動きをさせるのも嫌ですし、気が散漫な面もあったので、集中力を出させるために早い段階でメンコ着けました。メンコはすごくハマった感じがしますね。こうしたことがありながらも、「グンって加速した時の体の使い方が2歳馬では違う」という話を川田騎手はしていました。
――高い素質と紙一重の幼さも持ち合わせていたんですね。中京で迎えたデビュー戦はどうご覧になっていましたか?
三上 スタートはそんなに速くありませんでした。触診した獣医さん曰く、首さしから腰までの良さは2歳離れしているけど、腰から後ろはまだ緩さがあるようです。スタートはゼロ発進なので、トモの蹴りがまだ甘く、持ち前のバネで走っている感じなのかなと思います。
そういう中でも、川田騎手に追い切りに乗ってもらって好感触でしたし、競馬場での雰囲気も良かったので、良血馬が揃っていましたが勝ってくれてよかったです。
▲川田騎手の手綱でデビュー勝ち (C)netkeiba.com
――新馬戦後はリフレッシュ放牧へ?
三上 走りきった感じもあったので、一度放牧に出ました。夏の暑い時期に帰ってきましたが、セリフォスがすごいのはカイバを残したことが今まで一度もないんです。新潟2歳Sでも真夏に競馬をして帰ってきても全部食べました。
――それは心強い。新潟2歳Sでは装鞍所でテンションが高かったというコメントを見ましたが、実際にはどうだったんですか?
三上 前日に輸送して、到着後は落ち着いてカイバも食べてくれていました。レース当日の早朝に運動に出すんですけど、装鞍所まで曳き運動でスクーリングさせた時は、暴れたそうにはしていたんですけど結構我慢していたんですよ。
それが、装鞍が終わってパドックに出るまでの10分くらいの間に豹変して、飛んだり走り出したりしたんです。何かに怖がったのか、何がスイッチになったのかいまだに分からないままですが、臨場していた調教助手に一緒に曳いてもらいました。ところが、パドックに出ると、めちゃくちゃ大人しくなったんです。
――たしかに、パドック映像では行儀よく歩くセリフォスが映っていました。
三上 3周目くらいで「もう1人で大丈夫そう」と、1人で曳きました。これは恐らくですけど、パドックは外側にラチや花壇などがあるので、走っていけないということを認識していたのではないかなと思います。
――パドックに出るまでにそんな出来事があったのでしたら、無事に返し馬に行けた時点でホッとしたのではないですか?
三上 川田騎手が跨って「どう?」と聞いてきたので、装鞍所からパドックまでの出来事を伝えると、「じゃあ、返し馬で後ろの馬にこすられるのも嫌ですし、最後に出しましょうか」と返ってきました。せっかく1枠1番だったのに(笑)。
まぁ、それは冗談として、ジョッキーが乗るといい感じに集中力が出て、それ以上暴れることはなかったですし、全幅の信頼を寄せるジョッキーですから。
――装鞍所からいろんな出来事がありながらも、重賞を勝ったお気持ちはどうでしたか?
三上 ずっと攻め馬に乗ってくれている調教助手の片山君と、川田騎手とのタッグで重賞を獲れたということがすごく嬉しかったです。レースに大きいも小さいもなくて、未勝利を勝ってもお腹いっぱい嬉しいですけど、涙が出ました。
マスクのヒモが切れるほど、大興奮したデイリー杯2歳S
――苦楽を共にしてきた人たちとの勝利はまた格別でしょうね。さて、セリフォスはその後、デイリー杯2歳Sに向かうわけですが、装鞍所でのテンションは大丈夫でしたか?
三上 とにかく、馬にケガをさせることだけは嫌だったので、午前中のレースを使ったスタッフに残ってもらいました。一緒に曳いてもらって、大丈夫でした。
――デイリー杯2歳Sは後方からの競馬となりました。
三上 少頭数だったのでスタートを五分に出たように見えましたが、おそらくフルゲートなら立ち遅れの部類じゃないかと思います。ゲートから帰るバスの中では民放の競馬中継が映っていて、内からルメール騎手(ソネットフレーズ)が来ていて、アングル的には交わされたと思ったんです。
そしたら、周りの人が「あれ!? 勝ってるんちゃう?」と言ってくれて、バスを降りてターフビジョンを見たら勝っていました。興奮して、マスクのヒモが切れました(笑)。
――興奮が伝わってきます。ここでもセリフォスを取り巻く人間ドラマがあったそうで?
三上 オープニングスタッフで拾ってくれた中内田充正調教師と初めて重賞で口取り写真を撮れたことが嬉しかったです。また、騎乗した藤岡佑介騎手はデビューした頃から知っているんです。彼は作田誠二厩舎(2020年解散)からデビューして、僕は当時武宏平厩舎(2014年解散)にいました。調教師同士が義理の兄弟で、武厩舎の馬にも結構乗ってもらったんです。
▲デビュー当時から知る藤岡佑介騎手とのコンビでの重賞勝利 (C)netkeiba.com
――そういえば、武厩舎で三上助手が担当していたブルーショットガンにも何度も騎乗していましたね。
三上 そうです。彼がデビューした年に函館スプリントSにも乗ってもらいました。ブルーショットガンが阪神競馬場で誘導馬引退のイベントをやった時には(藤岡)佑介も出てきてくれました。僕は当時、すでに中内田厩舎所属だったのですが、中内田調教師も「昼から休んで行っておいで」と送り出してくれて、久しぶりにブルーショットガンを引くことができました。
さっきから同じことばかり言っていますけど、涙が出ました。元々、松永幹夫調教師と横山典弘騎手が好きでこの世界に入ったんですけど、ブルーショットガンは松永調教師がジョッキー最後の日に重賞(2006年阪急杯)を勝った馬でした。
――競馬の世界はいろんな人や馬との縁でつながっている、と感じます。今回はクリスチャン・デムーロ騎手を新たに鞍上に迎えての一戦となりますが、セリフォスのいまの状態はどうですか?
三上 いい感じできていると思います。前走後も片山君がつきっきりで乗ってくれていて、「今日はこうする」「明日はこうしよう」というのに、僕が合わせてケアをしています。
――細かくコミュニケーションが取れているんですね。
三上 開業の時に中内田調教師も「プロ集団を作りたい」と話していて、目指すところはそこだと思っています。まだまだですけど、みんなと話し合いをしながら調教を進めています。僕は厩舎の中では「何でもしよるな、このオッサン」という役割でいいかなと思っています。
――その背中を見て、若い人たちの意識も変わっていくのでしょうね。さて、GI・朝日杯FSが近づいてきました。いまのお気持ちはいかがですか?
三上 メンバーも強くなりますし、フルゲートになる点が不安ですが、この世代の牡馬で重賞2勝はセリフォスだけですからね。まだレース運びに粗削りな面はありますが、まずは装鞍所でテンションが上がりすぎずにレースへ向かえたらいいかなと思います。応援よろしくお願いします。
(文中敬称略)