父や祖父と同じ成長曲線を辿る可能性がきわめて高い

2022年はさらに強いチャンピオンになるであろうエフフォーリア(C)netkeiba.com、撮影:下野雄規
天皇賞(秋)で、コントレイル(GI通算5勝)、グランアレグリア(GI通算6勝)を下した3歳牡馬エフフォーリア(父エピファネイア)の実力は、まさに本物だった。
予測されたようにレースの流れは厳しく、「前半1200m1分12秒0-(6秒3)-後半1200m1分13秒7」=2分32秒0の決着。この時計は速い。カギはエフフォーリア自身のリズムを崩さない折り合いと、スパートのタイミングだったが、初めて中団より後方に位置した横山武史騎手は自信にあふれていた。完ぺきに近いレースでゴール前突き放している。
天皇賞(秋)のようなハデなガッツポーズを見せなかった横山武史騎手は、スタンド前に引き揚げてきてもカメラに向かって手を挙げることもなく、ヘルメットを脱ぐとファンに向かって頭を下げた。前日の油断騎乗で騎乗停止を受けたことに対する謝罪だった。謝罪から入ったインタビューの姿勢も師匠の鈴木伸尋調教師の教えそのものだった。
レース前、鹿戸調教師の「信じて乗ってこい」の信頼の言葉が、一段と気を引き締め、闘志をかき立てたのだった。
父エピファネイアは、4歳になってジャパンCを圧勝している。その父シンボリクリスエスは3歳時にエフフォーリアと同じように天皇賞(秋)と有馬記念を制したあと、4歳時にはさらに強くなって天皇賞(秋)と、有馬記念を当時のレコードで勝っている。
まだ7戦【6-1-0-0】のエフフォーリアは、父や祖父と同じ成長曲線を辿る可能性がきわめて高い。2022年はさらに強いチャンピオンになるだろう。
横山武史騎手の勝利騎手インタビューの最後は、「馬だけじゃなく、人間(自分)もしっかり成長していけるようがんばります」だった。
紛れの生じにくい厳しいレースになった結果、上位5着までに入ったのはみんな5番人気までに支持された5頭だった。
インから2着に伸びたディープボンド(父キズナ)は、一度はエフフォーリアに並びかける快走だった。これで天皇賞(春)に続いてGI2度目の2着であり、来年5歳になる牡馬とすれば【4-3-1-7】はまだまだ上昇が期待できる戦歴。父以上の成長力を発揮したい。底力を問われるビッグレースで勝機をつかめるはずだ。
ディープボンドと同じように凱旋門賞帰りのクロノジェネシス(父バゴ)が3着。グランプリ(宝塚記念、有馬記念)4連勝はならなかったが、引退式を前に力を出し切っての快走だった。昨年と違って冬毛が目立ったが、闘志も能力の陰りもない。ペースも相手も異なるが、昨年は2分35秒0。3着の今年は2分32秒2。「勝ち馬が強かった」とC.ルメール騎手が勝者を称えたように、今年の方が相手は強力だった。真っ暗になるまで引退式を見届けたファンの列で、船橋法典に向かう道はいっぱいだった。
最近10年間では最多の4頭が出走していた3歳馬が、勝ったエフフォーリアに次いで4着、5着に好走した。3歳馬が古馬相手の重賞11勝は、グレード制導入後、1997年の12頭に次ぐ2位タイの勝利数であり、この世代がもっと成長する2022年は充実する。
4着ステラヴェローチェ(父バゴ)は、日本ダービーをエフフォーリアと同じ上がり3ハロン33秒4で0秒2差だった能力を発揮。持ち味を全開するための位置取りの差もあってまたまたエフフォーリアに屈したが、上がりは勝ち馬と同じ最速タイの35秒9。
同じバゴ産駒で、母方に同じようにサンデーサイレンスの血を持つクロノジェネシスが本物になったのは4歳になるあたりから。強力現3歳世代の1頭として成長したい。
3歳タイトルホルダー(父ドゥラメンテ)は、中山2500mではどうみても不利な大外16番枠(史上3着以内馬0頭)。そのうえ、パンサラッサ(父ロードカナロア)が飛ばすことになる展開も難題だった。途中から格好の目標になりながら進出しなければならない。
テン乗りだった横山和生騎手には苦しい条件ばかりだったが、タイトルホルダーは一段とスケールアップしていた。あの形になっての2分32秒5(0秒5差)は中身の濃い好走であり、タイトルホルダーはステラヴェローチェとともに、同期のエフフォーリアを差なく追撃する力関係となった。
引退レースとなった7歳キセキ(父ルーラーシップ)は、父も中山2500mの有馬記念はもうひとつだったように、ベストの条件ではなかった。それでも見せ場を作って元気いっぱいの善戦。GIで再三快走したタフな血を伝え、種牡馬として成功するはずだ。