ファン投票1位のエフフォーリアが堂々優勝!(撮影:下野雄規)
今年の有馬記念は、3歳馬エフフォーリアが勝利! 横山武史騎手の見事なエスコートで、GI 3勝目を飾りました。以前より“巧いコンビだな”と思っていたという哲三氏ですが「今回は一段と成長した姿を見せてくれた」といいます。今年最後の哲三の眼!をご覧ください。
(構成=赤見千尋)
この先もたのしみなコンビ
有馬記念は1番人気に応えてエフフォーリアが強い競馬で勝利。横山武史君は自然体な部分と馬の実力とを上手く融合させた素晴らしい騎乗でした。1番人気でGIを勝つというのは騎手冥利に尽きる喜びでしょう。
今回はやや中団辺りからのレースになりましたが、そこは周りの馬たちが出だし速かったという中で、無理をせずに自然とあのポジションにハマったことがまずファインプレーだったと思います。同じように流れに乗っているように見えても、ハミを掛け過ぎていたり、手綱を緩め過ぎたりする騎手がいる中で、本当に自然に流れに乗っていました。そういうところが若くして大レースを勝っている要因の一つではないでしょうか。
序盤は自然と流れに乗ったというところで、それは自分の馬の力を信じているからこそ出来る騎乗だと思います。馬の力を信じ切れないと、追っ付けなくてもいいのに追っ付けてしまったり、レースの中で無駄になってしまうことがあるわけです。
ポジショニングも良かったですし、馬場傾向もしっかり読んで、内ラチから3頭目くらいからがレースしやすそうな馬場だなと感じていましたが、そのラインを崩さずに走れていました。唯一ちょっと内に入っていったのは1、2コーナーで、そこは息を入れたいところです。2コーナーではいつでも外に出せるポジションを取っているところもさすが。前のクロノジェネシスをどういう形で抜かしていくのか、封じ込めていくのか、というパターンの中で、封じ込めにいく選択肢を取りましたが、それが出来たのは最初のコーナーを回って1コーナーにたどり着くまでの進出の仕方が上手くいっているからこそ、早めに動けたのだと思います。
ポジショニングも素晴らしかった武史騎手(撮影:下野雄規)
自分が「こうしたいな」というところでしっかりその流れに乗って、自分の中でおつりがあるというか、もう少し引っ掛かったり、もう少しポジショニングに手間取ったりというところがまったくなかったぶん、思い切って早めに動けたのではないでしょうか。
早めに動くところもライバルの馬に対して得意な形にならないようなコース取りをしつつ、本当に自然に流れに乗っている。そして4コーナー手前の攻防はとても見ごたえがありました。僕は現役時代から駆け引きを研究してきて、ライバルのジョッキーにここに食いついて欲しいなという形を作りつつ、食いついてきたらどうするか、でも本当は食べられないよ、というような駆け引きをしてきました。今回の4コーナーではクリストフ(・ルメール騎手)の前が少し空いていて、突けそうで突けないという形を武史君が作り上げました。クリストフの対処もさすがだなと思いましたが、それでも若干後手に回ってしまいましたから、そういう形を自然の流れの中で作れる武史君は巧いなと。レース後にクロノジェネシスの斉藤崇史先生が、「ちょっと嫌なマークのされ方だった」と仰っていたのはそういうところだと思います。
見た目では簡単に勝っているように見えますが、レースの前にはすごく考えたり悩んだりしたと思います。でもその考えをまとめる力もあるし、考え抜いたいくつかのパターンに実際にはめ込んでいく実行力もありますよね。距離というところは不安もあったと思いますが、馬の良さを邪魔せず、ところどころでエフフォーリアが得をするような進路取り、スピードの乗せ方をしているので、その不安も払拭されました。
有馬記念ですから出走してきた馬たち、それぞれに風格があるのですが、そのメンバーに入ってもエフフォーリアはパドックで1頭だけ風格がずば抜けていました。馬は群れて走る動物で、その中で自然と一番強い馬が群れのボスになるという習性があるわけですが、僕にはエフフォーリアが16頭のボスに見えたんです。
「僕にはエフフォーリアが16頭のボスに見えた」(撮影:下野雄規)
皐月賞の時、初めて生でエフフォーリアと武史君のコンビを見て「巧いな」と思いましたが、人馬ともに若さを感じる部分もありました。でも今回は一段と成長した姿を見せてくれましたね。前日のことは残念でしたが、また一つ大きな経験を積みましたから、この先が楽しみです。
2着ディープボンドの和田(竜二)君もいいレースをしていました。春とはまた違う感じのスタンスで乗っているように感じました。フランス遠征で指名されなかったのはジョッキーとして悔しかったと思いますが、以前にも話したように、GIを勝つほどの馬というのは乗り替わりで他の騎手の結果の出し方を見て勉強することも大事だと思います。今回もう少しで勝てるところまで持ってきたのはさすがでした。
クロノジェネシスは3着でしたが、クリストフは相変わらず巧かったです。ちょっと終いの脚が鈍るかなという馬はまず前に行きますよね。秋の天皇賞のグランアレグリアも1着には繋がらなかったけれど、いい競馬だと僕は思います。
輪乗りをしている時に立ち止まっているクロノジェネシスがTV画面に映ったのですが、さすがだなという風格を見せていました。大好きな馬だったのでもうレースで見られないのは残念ですが、怪我で休養している北村友一君も来ていましたし、いつかクロノジェネシス産駒で、斉藤厩舎で、という想像が膨らんで、北村君のファインプレーを哲三の眼で紹介したいなと思いました。
2017年9月からスタートした哲三の眼。これまでは文章でお伝えして来ましたが、来年からは新しい形に移行して、動画でレースを見ながら解説していきたいと思います。今年も一年ありがとうございました。また来年もよろしくお願いいたします。