単勝オッズ5.3倍(4番人気)のイルーシヴパンサーが東京新聞杯を制する(撮影:下野雄規)
netkeibaにある膨大な競走成績を人工知能によって機械学習するAiエスケープを開発したAIマスター・Mと、レースデータの分析を専門とする競馬評論家・伊吹雅也による今週末のメインレース展望。コンピュータの“脳”が導き出した注目馬の期待度を、人間の“脳”がさまざまな角度からチェックする。
(文・構成=伊吹雅也)
単勝7番人気以下の馬は2009年を最後に3着以内なし
AIマスターM(以下、M) 先週は東京新聞杯が行われ、単勝オッズ5.3倍(4番人気)のイルーシヴパンサーが優勝を果たしました。
伊吹 完勝でしたね。4コーナー13番手のポジションから末脚を伸ばし、ゴールの手前で完全に抜け出す強い内容。上がり3ハロンタイムは33秒1で、2位のカラテ(33秒9)を大きく引き離す断然のトップです。
M そのカラテ(3着)は昨年の勝ち馬ですし、2着のファインルージュも昨年の3歳牝馬クラシック戦線で健闘してきた馬。非常に価値のある勝利と言えるのではないでしょうか。
伊吹 おっしゃる通りですね。前走のノベンバーSが9頭立ての少頭数だったこともあり、正直なところ私はまだ半信半疑だったのですが、想像以上に力をつけています。認識を改めなければなりませんね。
M イルーシヴパンサーはこれで4連勝。今後の古馬マイル戦線においても相当な注目を集めそうです。
伊吹 もともとスプリングS4着などの実績もある馬ですが、田辺裕信騎手とタッグを組むようになってからレースぶりに安定感が増しました。今回と同じ東京芝1600mで施行される安田記念はもちろん、その前哨戦でも人気を集めるでしょう。ただ、こういう脚質なので、今後も展開が向かずに期待を裏切ってしまうようなパターンは警戒しておきたいところ。ポテンシャルの高さやまだまだ伸びしろがありそうな点を踏まえたうえで、各レースの傾向なども考慮しつつ、慎重に付き合っていきたいと思います。
M 今週の日曜阪神メインレースは、今年で115回目を迎える伝統の一戦、京都記念。昨年は単勝オッズ1.8倍(1番人気)のラヴズオンリーユーが優勝を果たしました。
伊吹 前評判通りの横綱相撲だったと言って良いのではないでしょうか。道中は4番手のポジションでレースを進め、向正面から3〜4コーナーで先頭に接近し、先に抜け出したステイフーリッシュ(2着)をゴール前の直線半ばで難なくかわしました。この後にクイーンエリザベス2世カップ・ブリーダーズカップフィリー&メアターフ・香港カップを制したわけですが、このレースを観て「前年までのラヴズオンリーユーとは印象が違う」「2021年は何か大仕事をやってのけるかも」と感じた競馬ファンは、私の他にもたくさんいたはずです。
M 別定競走のGIIということもあり、堅く収まりがちな印象があります。
伊吹 実際、その通りなんですよ。過去10年の単勝人気順別成績をご覧ください。
M 思った以上に衝撃的な数字が出てきましたね。単勝7番人気以下の馬がまったく馬券に絡んでいないとは……。
伊吹 単勝7番人気以下だったにもかかわらず3着以内となったのは2009年3着のヴィクトリー(単勝9番人気)が最後、単勝7番人気以下だったにもかかわらず優勝を果たしたのは2003年1着のマイソールサウンド(単勝8番人気)が最後です。単勝6番人気の馬が2012年以降[4-0-1-5](3着内率50.0%)なので、堅い決着ばかりとも言えないのですが、超人気薄の馬が上位に食い込む可能性は低いと見るべきでしょう。
M そんな京都記念でAiエスケープが指名した特別登録時点の注目馬は、ディアマンミノルです。
伊吹 話の流れからは強調しづらい馬ですね……。2021年の函館記念と京都大賞典で4着に健闘していますが、重賞ではまだ馬券に絡んだことがありませんし、前走の万葉Sも5着どまり。13頭しか特別登録を行っていない今年のメンバー構成でも、単勝6番人気以内の支持を集められるかどうかは微妙なところだと思います。
M ただ、2021年御堂筋S1着、2021年京都大賞典4着と、阪神のレースには実績がある馬です。Aiエスケープもこのあたりを高く評価しているのではないでしょうか。
伊吹 そういうことなのかもしれませんね。重賞で4〜5着に食い込めるくらいの実力はある馬ですし、配当的な妙味はありそうだという点を踏まえたうえで、好走馬の傾向とこの馬のプロフィールを見比べていきましょう。
M ディアマンミノルは明け5歳。高齢馬よりは高く評価して良いと思うのですが、馬齢別成績はどうなっていますか?
伊吹 ご明察の通り、若い馬が優勢です。過去10年の馬齢別成績を見ても、5歳以下の馬と6歳以上の馬には大きな差があります。
M 2021年は6歳のステイフーリッシュが2着に、7歳のダンビュライトが3着に食い込んだものの、基本的には5歳以下の馬を重視したいところですね。
伊吹 ちなみに、馬齢が6歳以上、かつ“JRA、かつ2000m以下、かつGIのレース”において3着以内となった経験がない馬は2012年以降[1-0-0-44](3着内率2.2%)でした。中距離以下のビッグレースで好走したことがあるような馬でない限り、6歳以上の馬は評価を下げるべきだと思います。
M 実績に関してはいかがでしょう。
伊吹 正直なところ、レースの傾向からはまったく強調できません。2016年以降の3着以内馬18頭中17頭は、既にGIで好走したことのある馬でしたからね。
M ここまで実績馬が強いとは……。堅く収まりがちなのも当然ですね。ディアマンミノルが出走したGI競走は2020年の菊花賞だけで、この時は13着に敗れています。
伊吹 一応補足しておくと、特別登録を行った馬のうち“JRA、かつGIのレース”において3着以内となった経験があるのはマカヒキ・ユーバーレーベンの2頭だけ。例年と比べれば、ディアマンミノルのような馬にもチャンスがありそうなメンバー構成です。
M 少なくとも1頭は“JRA、かつGIのレース”において3着以内となった経験のない馬が馬券に絡むわけですからね。
伊吹 ただ、実績面における不安要素はもうひとつあります。同じく2016年以降の3着以内馬17頭は“前年以降、かつJRA、かつGI・GIIのレース”において3着以内となった経験がある馬でした。
M 前年のGI・GIIや年明けのGIIで好走していない馬は、ほとんど上位に食い込めていないんですね。
伊吹 先程おっしゃっていた通り、ディアマンミノルは2021年の京都大賞典で4着に食い込んでいますから、極端に評価を下げる必要はないような気もします。とはいえ、GIIIで3着以内となった経験すらないことを考えると、高く評価するわけにはいきません。Aiエスケープの見立てを信用するにしても、オッズや実績馬との力関係を慎重に考えたうえで、馬券上の位置付けを決めるべきでしょう。