ジョッキー時代の勝負服を着た福元弘二さん(写真は本人提供)
行き場をなくした馬たちのために…
『ソフト競馬』を最初に取材したのが、今から5年前の2017年春だった。最初は「ソフト競馬」とは何ぞや? という状態だったのだが、取材&執筆をし、さらには競走馬引退後に引き取ったキリシマノホシとともに自らが出走したことで、その仕組みをだいたい理解することができた。
ソフト競馬を運営しているのは、高崎競馬の元騎手、福元弘二さん。高崎競馬が廃止されたのちは、乗馬クラブで勤務経験もしていた。現在は会社勤めをしながら、「ソフト競馬」を運営し、引退馬支援に繋がるよう尽力している。爆発的な広がりを見せているわけではないが、『ソフト競馬』は地道に歩みを進めており、固定ファンも獲得している。
『日本ソフト競馬協会』として立ち上げてから、今年で9年目に入った。ソフト競馬を始めた経緯について福元さんに尋ねた。
「僕が所属していた高崎競馬場が廃止になって、その時にたくさんの馬が行き場をなくしてしまった(多くが屠畜に行ったと思われる)のを見て、引退した馬たちに何か自分にもできることはないかと感じました。ただその時はどうしたらいいのかが思いつきませんでした」
騎手を辞め、乗馬クラブに勤務した。クラブには、競馬を引退した元競走馬がたくさん在籍していた。
「僕が元騎手だったので、クラブで競馬に関連したイベントを行おうという話が持ち上がりました」
安全第一に施行できるイベントをいろいろ考えているうちに、現在のソフト競馬の原型ができた。
「最初は馬術の競技会のように、人馬が集まって行おうとしました」
だが場所を借りたり、馬の輸送にもお金がかかる。そこで考えついたのが、動画だった。
「動画ならほとんどお金もかかりませんし、どこにいても参加できます」
日本全国にいる元競走馬(現在は元競走馬以外も出走可能)たちが出走でき、ソフト競馬が引退馬支援に繋がるようにとアイデアを盛り込んでいる。
『ソフト競馬』の気になるルールや仕組みだが、
「これが言葉や文章で説明するのが、ちょっと難しいんですよ」
と福元さんは苦笑する。
「とりあえず動画を見ていただくのが1番かと思います」
確かに前回取材した時も、ルールを文章で説明したのだが、書きながら理解してもらえるだろうかと不安になったものだ。だがとりあえず、今回も簡単に説明してみる。
【1】レース参加者が、スタートからゴールまで、規定タイムより遅いタイムの騎乗動画を投稿
【2】同じレースの中で規定タイムに近い方から数えて3番目のタイムの人馬が優勝(以前は2番目の人馬だったが、ルール改正)
これだけではやはりわかりづらいので、福元さんが言う通り、過去のソフト競馬で行われたレース動画を紹介したい。
2021年1月30日に公開された、【お馬の祭典】<第4回第二有馬記念>
出走馬が豪華で、ダービー馬のウイニングチケットとタニノギムレット、そしてハルウララ、セントライト記念4着のハヤテ(競走馬名グランスクセー)、皐月賞にも出走経験のある暁(競走馬名サトノロマネ)、当時32歳のアラブの元競走馬ジョージのほか、元ばんえい競馬の競走馬やポニーなど多彩なメンバーが揃っている。そしてこの「第二有馬記念」のように、ソフト競馬のレース名はJRAの実際にある競走名のパロディーとなっている。
1993年のダービー馬、ウイニングチケットも参加!(撮影:下野雄規)
またレース名の後には、距離ではなくタイムが記載されている。第二有馬記念の場合は、25.00秒(有馬記念が2500mなので、それに合わせて25.00秒)。勝ち負けするには、前述した通り各陣営が設定したコースをこの25秒より遅いタイムでゴールしなければならない。そして25秒に1番近い人から数えて3番目の人馬が優勝となる。時間のある方はまず、豪華メンバー揃いの第二有馬記念を見ていただいて、ルールや仕組みを理解してもらえばと思う。
パドック解説やレースなど、「ソフト」の名の通り、ゆるくのんびりほのぼのした雰囲気が何ともいい味を出していて、癒し効果のある競馬に仕上がっているし、引退した元競走馬たちが人々に愛され、元気に過ごす様子も垣間見ることができる。
次回はソフト競馬がどのように引退馬支援に繋がるかなどを中心にお伝えする予定だ。
(つづく)
▽ 日本ソフト競馬協会 ツイッター
https://twitter.com/softkeiba▽ 日本ソフト競馬協会 YouTube
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