サブライムアンセムが勝利(c)netkeiba.com
netkeibaにある膨大な競走成績を人工知能によって機械学習するAiエスケープを開発したAIマスター・Mと、レースデータの分析を専門とする競馬評論家・伊吹雅也による今週末のメインレース展望。コンピュータの“脳”が導き出した注目馬の期待度を、人間の“脳”がさまざまな角度からチェックする。
(文・構成=伊吹雅也)
大きく崩れてしまった単勝1番人気馬はいない
AIマスターM(以下、M) 先週はフィリーズRが行われ、単勝オッズ7.9倍(2番人気)のサブライムアンセムが優勝を果たしました。
伊吹 道中は後方に構える形となりましたが、単勝オッズ1.7倍(1番人気)の支持を集めていたナムラクレアのすぐ後ろという、非常に動きやすいポジションを確保。しかも、ナムラクレアが3〜4コーナーで外へ持ち出したのに対し、サブライムアンセムはインにつけたまま4コーナーを通過したんですよね。結果的に2着のナムラクレアとはアタマ差でしたから、コース取りの差が明暗を分けた可能性もありそう。池添謙一騎手の手綱捌きも、それに応えたサブライムアンセムも本当にお見事でした。
M サブライムアンセムは前走で未勝利を勝ち上がったばかり。その前走は2位入線からの繰り上がりでしたから、「初めての1位入線が重賞」というとても珍しい記録を打ち立てたことになります。
伊吹 2013年のルール変更によって降着自体が減っていますし、1勝馬の身で重賞を勝つのも簡単ではありませんから、少なくともJRAでは今後もそうそうお目にかかれないでしょうね。
M サブライムアンセムは桜花賞への優先出走権を獲得しましたが、本番についてはどう見ていますか?
伊吹 前回お話ししたレースの傾向から強調できる存在だったこともあり、私はナムラクレアとセットで連軸に指名していました。つまり、サブライムアンセムはいかにもフィリーズRが合っていそうなタイプだったということ。2001〜2021年の桜花賞は前走でフィリーズRを使っていた馬が[3-1-3-107](3着内率6.1%)ですし、現時点ではあまり食指が伸びません。ただ、この傾向は競馬ファンの大半が知っているので、過剰に人気を集めることはないはず。想定されるオッズも踏まえたうえで、レースの直前にもう一度しっかり取捨を検討したいと思います。
M 今週の日曜中山メインレースは、皐月賞トライアルのスプリングS。昨年は単勝オッズ7.1倍(3番人気)のヴィクティファルスが優勝を果たしました。2020年には単勝オッズ16.6倍(6番人気)のガロアクリークが、2019年には単勝オッズ27.1倍(10番人気)のエメラルファイトが1着となるなど、近年は伏兵の台頭が目立っています。
伊吹 上位人気馬の成績も、決して悪くはないんですけどね。
M 勝ち切った馬が少ないとはいえ、単勝1番人気馬はほとんど崩れていません。
伊吹 過去10年に限ると、馬券に絡めなかった単勝1番人気馬は2017年のサトノアレスだけ。そのサトノアレスですら、勝ち馬と0.3秒差、3着馬とは3/4馬身差の4着でした。単勝8番人気以下の馬は2012年以降[1-0-2-60](3着内率4.8%)ですし、無理に高額配当を狙う必要はないでしょう。
M そんなスプリングSでAiエスケープが指名した特別登録時点の注目馬は、ドーブネです。
伊吹 買い目作りのポイントになりそうな、絶妙なポジションの馬を挙げてきましたね。人気の中心とまではいかないと思いますが、上位人気グループの一角を占める可能性はありそう。
M 7頭立てだったとはいえ、既にオープン特別のききょうSを勝った実績があります。前走の朝日杯FSは7着どまりだったものの、デビュー前の千葉サラブレッドセールで5億1711万円の値が付いた馬ですし、今回もそれほど人気は落ちないはずです。
伊吹 今後もしばらくは注目を集めることになりそうですね。それでは、Aiエスケープの評価を踏まえつつ、私なりの尺度で好走確率を見積もっていきたいと思います。
M まず、前走で7着に敗れている点はどう見るべきでしょうか。
伊吹 残念ながら、不安要素と判断せざるを得ません。過去10年の3着以内馬30頭は、いずれも前走の着順が4着以内でした。
M はっきりと明暗が分かれていますね。
伊吹 前走の着順が5着以下だった32頭のうち、過半数の18頭は前走がJRAの重賞だった馬。人気を裏切ってしまった例もありましたし、ドーブネがこの傾向を覆す可能性はそれほど高くないと見るべきでしょう。
M なるほど。ただ、ドーブネは既にオープン特別を勝っている馬。実績面はそれなりに高く評価できるのではないでしょうか。
伊吹 確かに実績上位ではあるのですが、これまでにマークした2勝が札幌と中京である点は気掛かりです。
M 中山・京都・阪神、つまり東京を除く中央場所のレースで好走したことのある馬が優勢、と。
伊吹 「左回りやローカル場のレースを主戦場としてきた馬は信頼できない」と解釈しても良いでしょう。朝日杯FS、すなわち阪神のGIで7着となった点をどう見るかは微妙なところですが、私はあまり高く評価していません。
M 他に何か注目しておくべきポイントはありますか?
伊吹 2018年以降の過去4年に限ると、生産者がノーザンファームの馬は[2-1-3-5](3着内率54.5%)と非常に堅実です。一方、生産者がノーザンファーム以外だったにもかかわらず3着以内となった6頭のうち5頭は、前走のコースが“JRA、かつ右回り”、かつ前走の上がり3ハロンタイム順位が3位以内でした。
M ドーブネは社台ファームの生産馬ですし、前走の上がり3ハロンタイム順位も6位にとどまっています。
伊吹 今年もノーザンファーム生産馬やこのコース向きの前走好走馬がたくさんいますから、そういった馬たちよりは低く評価せざるを得ません。
M 今回は完全に見解が割れましたね。
伊吹 特別登録を行った馬のうち、今回挙げたすべての条件に引っ掛かっているのは、トーセンヴァンノ・ドーブネの2頭だけ。「よりにもよってその馬を挙げてくるか」というのが正直なところです(笑)。私は連軸を任せる予定の馬が人気になってしまいそうなので、さすがにドーブネを押さえる余裕はなさそう。ただ、Aiエスケープがこれだけ高く評価しているわけですし、レースを観る際はこの馬の走りにも注目しておこうと思います。