ビッグレッドファームの撮影に参加したところ…
3月16日(水)。生産地ではこの日が今年のPOG取材初日となった。ノーザンファームとビッグレッドファームの二か所で合同撮影会となり、私は某媒体からの依頼でビッグレッドファームの撮影に参加することになった。
新ひだか町静内真歌のビッグレッドファームは、静内温泉を抜け、奥のつづら折りになった坂道をぐるぐると上がった先にいきなり現れる。ふと、故岡田繁幸氏の命日が数日後(3月19日)にやってくることを思い出しながら、残雪の残る広々した敷地内をゆっくり事務所前まで移動する。時刻は午前7時半。合同撮影の開始予定時刻は8時である。
空一面に灰色の濃い雲がかかっている。風は弱いが、光量が少し足りない。車を止めて少し待っていると、次々に他媒体のカメラマンや編集者、ライターたちが三々五々、集まってきた。
事務所に顔を出す。ちょうど、朝のミーティングの最中である。一日の作業内容をここで確認し、その後、それぞれが持ち場に散って行くのだ。何年ぶりかでここを訪れた。ミーティングスペースの奥の薪ストーブがまだ健在なことにうれしさを感じた。薪ストーブの独特の匂いと暖気が伝わってきた。
気温はほぼ0度前後であろう。聞いたところによれば、今日の参加媒体数は5社という。POG取材の場合は、ライターとカメラマンの2人1組が基本だ。最近は、コロナ禍でもあり、みんなが集まって撮影後に事務所で調教責任者などからコメントをもらう取材形式はほぼなくなり、撮影と各馬のコメント取りは同時進行になるケースが多い。さもなくば、事前に育成牧場から各馬のコメントを記したプリントが配布され、それを参考に補足で少し話を伺う、というような形になってきている。
囲み取材の様子
5社から派遣されてきたカメラマンたちはみんな顔見知りばかりだ。競馬マスコミの世界でもなかなか新陳代謝が進んでおらず、この10年というもの、POG取材の顔ぶれはほとんど変化がない。
今回のビッグレッドファームでは、予め撮影リストが一覧表になって用意されており、真歌で15頭、その後の泊津(コスモヴューファーム)が8頭、明和(種馬場や事務所などのある本拠地)が14頭という内訳である。計37頭。午前から午後にかけて一日仕事になる。
取材を受け入れる育成牧場側にとっては、入念に手入れをして蹄油を塗り、且つ、タテガミを右側に揃えて傾けガムテープなどで固定したりと、普段の作業とはまた違った準備に手間が取られる。煩わしいことと思うが、今やこの季節の定期行事のようにもなっており、取材を受け入れてもらっている育成牧場はどこも非常に協力的である。
最初の馬が登場する。手の空いたライターや編集者が、手に持ったボードに馬名を書き込み、私たちの方に向けてくれる。それを数枚撮り、被写体に向き直して、立ち写真の撮影になる。ポーズの善し悪しをカメラマンの誰かが細かく馬の持ち手に伝え、補助として前に控える牧場スタッフに、肢の位置を微調整してもらったりもする。
馬の立ち写真の基本姿勢は、広く知られているように左前肢が前で右前肢が後ろ、そして右後肢が前で左後肢が後ろと決まっている。ただ、持ち手は馬と向き合う形になるので左右の呼称は逆になる。したがってかなりの修練が必要だ。新人ではこと立ち写真に関しては難しく、相当慣れていなければ撮影の際には役に立たない。
のみならず、馬の精神状態にも左右されるし、天候にも影響を受ける。晴れていても強風などの時は、馬が落ち着かず、じっとしてくれない場合が多い。
幸い、この日のビッグレッドファームは、ほぼ曇り空で経過したものの、微風で、撮影は順調に進んだ。詳細なリストに関しては後々刊行されるPOG本をご参照頂くのがベストだが、ビッグレッドファームの場合は、ゴールドシップ、ダノンバラードの産駒がほぼ半数近くに達しており、この2頭の種牡馬の期待の大きさがうかがえた。
母マイネテレジアの産駒もゴールドシップを父に持つ牡馬で、栗東・清水久詞厩舎の予定となっている。周知の通り、昨年のオークス馬ユーバーレーベンの全弟だ。
マイネテレジアの2020
「背中の感触やフットワークはクラシックでの活躍を期待させるレベル」と榎並健史主任のコメントも力強い。
37頭を撮り終えたのは午後3時近くになったが、こうした取材が今週と来週にかけて、日高各地で続けられる。