▲高知競馬場(撮影:稲葉訓也)
先週16日の黒船賞当日。高知競馬の公式YouTube生配信にて史上初かもしれない試みが行われました。それは、1レースから最終レースの一発逆転ファイナルレースまで「ほぼ全騎手」のレース後コメントを中継内でお伝えするというもの。
JRAのGIレースでほぼ全騎手のレース後コメントが紹介されることはあっても、全レースとなればなかなか前例がなさそうに思います。今回、レース後コメントの取材・リポートを担当させていただいたので、史上初かもしれない「ちょっと馬ニアックな」舞台裏を振り返ります。
黒船賞、絶好位は逃げ馬の後ろだった
3月とは思えない汗ばむ陽気で迎えた黒船賞当日。コートもジャケットも脱いで、薄手の長袖1枚で過ごせる高知競馬場は、心なしか浮足立っていました。なんといってもこの日は年に一度のダートグレード競走。
しかし、数週間前から異変が起きていました。
「高知の馬場が乾いてるぞ!」
▲馬場が乾いて砂ぼこり舞う黒船賞当日の馬場(提供:高知県競馬組合)
ファンの間でザワついたこの言葉。
高知競馬場の馬場はとても深く、JRAでは砂厚9cmに対し、高知は内ラチ沿いの深いところで14cmを超えることもあり、一度雨が降ると冬場はなかなか乾かず、重や不良馬場が続きます。そのため、黒船賞も10年以上もの間、道悪馬場で行われてきました。
ところが、今年は馬場の乾きが早く、加えて少雨高温だったことから、3月上旬から稍重や良馬場といった乾いた馬場でレースが行われていたのです。そしてついに、黒船賞当日は良馬場。
▲昨年の黒船賞は重馬場だったが…(撮影:武田明彦)
▲今年の黒船賞の直線。砂が舞い上がり乾いているのがわかる(撮影:稲葉訓也)
武豊騎手でさえ「良馬場の黒船賞なんて久しぶりじゃないですか?」と話すくらい。実際、リミットレスビッドが勝った2007年以来の良馬場で、高知のトップジョッキー・赤岡修次騎手は「黒船賞史上、最もタフな馬場」と表現しました。
そこで、1レース前に佐原秀泰騎手に馬場状態について聞いたところ
「パサパサの馬場ですね。昨日はハローを掛けるたびに砂が外に寄って、内が使えるようになっていった印象です。力が互角か、少し劣るのであれば3〜4コーナーは内に行った方が良さそう。絶好位は逃げ馬の直後です」とのこと。
もちろんこのコメントは生配信内で紹介したので、この日一日、これを頭に置いて予想を組み立てた方も多かったかもしれません。
そして始まった黒船賞。イグナイターはこれまで逃げ、もしくは逃げ馬の外でレースを運ぶことが多かったのですが、田中学騎手が狙って取りに行ったポジションは逃げるラプタスの後ろでした。
そしていい手応えで4コーナーを回ると、2着ヘリオスに1馬身差で勝利。園田・姫路所属馬がダートグレード競走を制覇したのでした。
▲黒船賞を勝利したイグナイター
▲会心の騎乗で勝利に導いた田中学騎手
JRA馬にとっては慣れない“タフすぎる馬場”。そんな中、2着に踏ん張ったヘリオスの強さは改めて感じましたし、サクセスエナジーやラプタスもそう感じました。
▲大きくガッツポーズする田中学騎手(撮影:稲葉訓也)
レース後コメントから次走注目馬
JRA馬でさえ、タフな馬場に苦戦したとなれば、地元馬でも苦戦する馬が出てくるのは当然で、黒船賞以降、地元馬同士のレースでも多くの騎手が「今日のタフな馬場が合いませんでした」と敗因に挙げていました。
こういった馬は、道悪馬場で好走する可能性を秘めていますから、しっかりチェックしておきたいところ。
一方で、「全レース・ほぼ全騎手コメント」を聞いたからこそ、ちょっと興味深い話も。それは8Rで10番人気ミッキーバラードで3着に来て、3連単80万円超えの立役者となった西森将司騎手の話。
「内のいい所を取れました」と、みんなが狙う内を取れて馬場傾向を味方につけられたと同時に「今回から調教に乗るようになったのですが、最近のレースの着順以上にいいイメージを受けていました」という事実。騎手はリーディング順位だけでなく、その馬との相性も大切になってくると感じます。
ミッキーバラードの場合、調教での乗り手が変わったことで馬に変化があったかもしれませんし、これまで着外続きだった負の印象をあまり持ちすぎずに西森騎手が乗れたこともよかったのかもしれません。
いずれにしても、今回なにか変化を持ってレースに挑んだことは確か。それがいい方に向いたのですから、フロックではない可能性もあります。それであれば、次走も狙ってみるのも面白そうですよね。
今回の「全レース、ほぼ全騎手レース後コメント」企画は高知競馬のジョッキーのみなさんに多大なるご協力をいただきました。そこにはきっと、「高知競馬を応援してくださるファンに、少しでも多くの情報を届けたい」という思いもあったことでしょう。
ファンのみなさんが今回のレース後コメントを何らかの役に立てていただけたり、少しでも「へぇ〜、そういうレースだったのか」と思うきっかけになっていれば嬉しいです。
最後にお知らせです。
2018年2月からスタートしたこのコラム。これまでは隔週連載でしたが、来月からは月1回の掲載となります。
「JRAや地方競馬の取材現場で見つけた人馬のドラマや、興味深い話題を伝えたい」と願い続けていたところ、担当編集者さんがコラムという形で叶えてくれたのがこの「ちょっと馬ニアックな世界」でした。2020年春以降はコロナの影響でJRA関連の取材がほとんどできなくなりましたが、変わらず見に来てくださった読者のみなさんには感謝の気持ちでいっぱいです。
掲載頻度は減りますが、引き続き取材現場で見つけた「ちょっと馬ニアックな世界」を伝えていければと思います。
次回は4月5日掲載予定です。