単勝オッズ27.8倍(8番人気)のナランフレグが勝利(c)netkeiba.com
netkeibaにある膨大な競走成績を人工知能によって機械学習するAiエスケープを開発したAIマスター・Mと、レースデータの分析を専門とする競馬評論家・伊吹雅也による今週末のメインレース展望。コンピュータの“脳”が導き出した注目馬の期待度を、人間の“脳”がさまざまな角度からチェックする。
(文・構成=伊吹雅也)
単勝7番人気以下の馬は苦戦しているが……
AIマスターM(以下、M) 先週は高松宮記念が行われ、単勝オッズ27.8倍(8番人気)のナランフレグが優勝を果たしました。
伊吹 お見事と言うほかありません。道中は馬群の後方を追走し、4コーナーでもまだ14番手。そこから前崩れの展開に乗じて差し切り勝ちを収めたわけですが、決してスムーズだったわけではなく、ゴール前の直線では相当に苦労していましたよね。パトロールビデオを観ればわかる通り、インを突いたナランフレグは残り200mを過ぎたあたりの地点でトゥラヴェスーラ(4着)とレシステンシア(6着)に挟まれ、進路を失いかけています。そこから2頭の間をこじ開けて伸びたのですから、ナランフレグ自身の勝負根性はもちろん、丸田恭介騎手の技術も光ったレースと言えるのではないでしょうか。
M 2着には単勝オッズ12.9倍(5番人気)のロータスランドが、3着には単勝オッズ225.8倍(17番人気)のキルロードが食い込み、3連単278万4560円の高額配当決着となりました。
伊吹 3頭とも、強調材料のある馬ではあったんですけどね。ロータスランドは前回の当コラムで紹介したレースの傾向からも「無理に嫌う必要はなさそう」と判断できた馬ですし、キルロードは中京芝1200mのレースで.非常に優秀な成績を収めているロードカナロア産駒でした。
M キルロード自身も中京芝1200mのレースは1戦1勝。激走を警戒しておくべきだったのかもしれません。
伊吹 さらに言うと、この中京芝1200mは前走で出走メンバー中1位の上がり3ハロンタイムをマークしていた馬の期待値が高め。2週前からの過去3年、すなわち2019年の3月23日から2022年の3月21日に限ると、前走のコースがJRA、かつ前走の上がり3ハロンタイム順位が1位だった馬は、3着内率が33.3%に、複勝回収率が105%に達しています。私が監修を務めた単行本『ウルトラ回収率 2022-2023』(ガイドワークス)でも指摘した通り、このうち枠番が1〜5枠だった馬は好走率・回収率とも申し分のない高水準。ナランフレグはこの条件を綺麗にクリアしていましたから、私自身も十分にチャンスはあると見ていたのです。的中できたかどうかはともかく、予想の組み立て方次第では、もう少し惜しい結論に持っていくことができたかもしれません。
M ナランフレグの今後についてはどう見ていますか?
伊吹 こういう脚質の馬ですし、ネームヴァリューが一気に高まってしまった以上、しばらくは疑ってかかるのがセオリーでしょう。ただ、能力の高さは十分過ぎるほどに証明したわけですから、買い時が来たら強気に狙ってみたいです。
M 今週の日曜阪神メインレースは、古馬中距離戦線の強豪が一堂に会する大阪杯。昨年は単勝オッズ12.2倍(4番人気)のレイパパレが優勝を果たしました。その2021年は3連単10万6210円と、やや高めの配当で決着。波乱含みの一戦と見ておくべきなのでしょうか。
伊吹 GIIの「産経大阪杯」として施行されていた2012〜2016年を含めても、単勝7番人気以下の馬は3着内率が2.9%どまり。超人気薄の馬が上位に食い込んだ例はそれほど多くありません。
M ただ、単勝4〜6番人気馬は3着内率43.3%となかなか優秀な成績を収めています。
伊吹 ちなみに、単勝2番人気馬は2012年以降[3-2-2-3](3着内率70.0%)、単勝3番人気馬は2012年以降[0-0-0-10](3着内率0.0%)でした。おっしゃる通り、単勝5番人気前後の手頃な伏兵がたびたび好配当を演出しているものの、人気の中心となっているような馬を無理に嫌う必要はないでしょう。
M そんな大阪杯でAiエスケープが指名した特別登録時点の注目馬は、キングオブコージです。
伊吹 面白いところを狙ってきましたね。実績上位の馬ではありますが、今回はそれほど人気にならなさそうな雰囲気ですし。
M 前走のAJCCを快勝しているものの、2000m以下の重賞はこれまでのところ2戦して9着・5着。距離適性を不安視している方が多いのかもしれません。
伊吹 過小評価される可能性が高いのであれば、しっかり取捨を検討しておく必要がありますね。Aiエスケープの評価を踏まえたうえで、好走馬の傾向に合っているかどうかチェックしていきましょう。
M まずは実績面について伺っていきたいと思います。GIIを2勝している馬ですし、十分にチャンスはありそうですが……。
伊吹 残念ながら、このレースに関して言うと、強調できるレベルの実績とは言えません。
M 前年のビッグレースで馬券に絡んでいるくらいの馬でないと、上位に食い込むのは難しいようですね。
伊吹 ちなみに、“前年以降、かつJRA、かつGIのレース”において3着以内となった経験がなかったにもかかわらず3着以内となった2頭は、いずれも前走の着順が1着、かつ前走の距離が2000mでした。キングオブコージはこちらの条件もクリアしていませんし、慎重に扱うべきだと思います。
M では、馬齢に関してはいかがでしょう。4〜5歳勢に注目が集まる分、好走率に大きな差がなければ、高齢馬は妙味ある存在となりそうです。
伊吹 そういうレースも少なくないのですが、この大阪杯は6歳以上の馬がほとんど上位に食い込めていません。
M はっきりと明暗が分かれていますね。
伊吹 キングオブコージはまだキャリア17戦で、高齢馬扱いすべきかどうか微妙なところではありますが、少なくとも強調材料でないことは確かです。
M 他に注目しておくべきポイントはありますか?
伊吹 過去5年の3着以内馬15頭は、いずれも前年以降にハンデキャップ競走を除くJRA重賞で“着順が2着以内、かつ4コーナー通過順が7番手以内”となった経験のあった馬。逆に言うと、極端に先行力が低い馬は苦戦していました。
M キングオブコージはこの条件にも引っ掛かっています。
伊吹 この馬向きの展開になる可能性は低いと見ておいた方が良いかもしれませんね。
M 今回は評価が割れました。
伊吹 強い馬だとは思いますし、軽視するメリットも小さそうですが、この状況で強調するわけにもいきませんから、私は思い切って評価を下げるつもりです。ただ、例年の大阪杯とまったく異なる流れになったら、この馬あたりが突っ込んできそうな気もします。Aiエスケープの評価を信じて勝負するならば、相手も一捻りした方が良いのかもしれません。