天皇賞・春は単勝4.9倍のタイトルホルダーが勝利(c)netkeiba.com
netkeibaにある膨大な競走成績を人工知能によって機械学習するAiエスケープを開発したAIマスター・Mと、レースデータの分析を専門とする競馬評論家・伊吹雅也による今週末のメインレース展望。コンピュータの“脳”が導き出した注目馬の期待度を、人間の“脳”がさまざまな角度からチェックする。
(文・構成=伊吹雅也)
人気薄の伏兵が高額配当を演出した年も少なくない
AIマスターM(以下、M) 先週は天皇賞(春)が行われ、単勝オッズ4.9倍(2番人気)のタイトルホルダーが優勝を果たしました。
伊吹 完璧なレース運びだったと言って良いのではないでしょうか。好スタートからあっさりとハナを奪い、中盤までは後続を引き離しての逃げ。2周目の向正面でリードがやや小さくなり、3〜4コーナーでは人気のディープボンド(2着)やテーオーロイヤル(3着)が迫ってきたものの、ゴール前の直線に入ったところで再び突き放し、セーフティリードを保ったまま逃げ切りました。鞍上の横山和生騎手を含め、お見事と言うほかありません。
M スタート直後に落馬したシルヴァーソニックがカラ馬のまま先団を追走していましたね。
伊吹 人馬ともに異状なしと発表されたのは何よりですが、タイトルホルダー以外の各馬、特に先行勢は多かれ少なかれ影響を受けたように思います。あのアクシデントがなければ違った展開になっていたでしょうし、敗れた馬たちのパフォーマンスを評価する際はこの件をしっかりと考慮したいところです。
M 勝ったタイトルホルダーはドゥラメンテ産駒で、3着のテーオーロイヤルはリオンディーズ産駒。サンデーサイレンス系以外の種牡馬を父に持つ馬が馬券に絡んだのは久しぶりですよね?
伊吹 Cadeaux Genereux産駒のレッドカドーが3着に食い込んだ2013年以来ですね。なお、連対を果たしたのは2012年2着のトーセンジョーダン(父ジャングルポケット)が最後、優勝を果たしたのは2010年のジャガーメイル(父ジャングルポケット)が最後でした。ちなみに、ミスタープロスペクター系種牡馬の産駒が1着となったのは天皇賞(春)史上初めてです。
M この傾向を重視した結果としてタイトルホルダーやテーオーロイヤルの評価を下げてしまった方は少なくないと思います。
伊吹 当然ながら私もそのひとり。昨年もそうだったとはいえ、やはり阪神芝3200m外内ならあまり重視しなくて良い傾向だったのかもしれません。ただ、今年はこの傾向が各種メディアで頻繁に取り上げられていたせいか、サンデーサイレンス系種牡馬の産駒が過剰人気気味でしたよね。
連勝式のオッズを見てもディープボンド(父キズナ)とタイトルホルダーの間には意外と大きな差がありましたし、サンデーサイレンス系種牡馬を父に持つアイアンバローズ(5着)・マカオンドール(11着)あたりが伏兵として注目を集めた一方、テーオーロイヤル・ヒートオンビート(4着)あたりのオッズは実績を考えると妙味ある水準だったように思います。正直なところ「あえて“逆張り”するならこういうタイミングがベストだろうな」とも考えていただけに、その決断を下せなかったのは心残りです。
M 今週の日曜東京メインレースは、現3歳世代の短距離チャンピオン候補が一堂に会するNHKマイルカップ。昨年は単勝オッズ3.7倍(2番人気)のシュネルマイスターが優勝を果たしました。その2021年は3連単の配当が2万1180円にとどまったものの、波乱の決着も少なくない一戦というイメージがあります。
伊吹 実際、ピンクカメオが勝った2007年(3連単973万9870円)、ジョーカプチーノが勝った2009年(同238万1660円)、マイネルホウオウが勝った2013年(同123万5600円)など、たびたび高額配当が飛び出していますね。過去10年の単勝人気順別成績を見ても、3着以内馬30頭のうち12頭は単勝7番人気以下の馬でした。
M 上位人気勢、特に単勝4〜6番人気馬あたりの数字はちょっと物足りない水準です。
伊吹 より実態に即した区分を採用してみると、単勝2番人気以内の馬は2012年以降[6-3-2-9](3着内率55.0%)、単勝3〜5番人気の馬は2012年以降[1-2-0-27](3着内率10.0%)、単勝6番人気以下の馬は2012年以降[3-5-8-114](3着内率12.3%)でした。それなりに信頼できるのはごく一部の実績馬だけと見ておいた方が良いかもしれません。
M そんなNHKマイルカップでAiエスケープが指名した特別登録時点の注目馬は、キングエルメスです。
伊吹 ……うーん。話の流れからすると微妙なポジションに収まってしまいそうな馬ですね。上位人気グループには入ってこないと思いますが、超人気薄ということもないはず。
M 昨年秋に京王杯2歳Sを完勝。休み明け、かつ初めての1マイル戦だった前走のアーリントンCでも3着に食い込みました。距離適性に若干の不安は残っているものの、今回は叩き2戦目、かつ今回と同じ東京の重賞を勝っている馬ですし、妙味ある伏兵として狙っている方は少なくないでしょう。
伊吹 まぁ、過剰人気の可能性が高ければAiエスケープも注目馬に挙げて来ないでしょうし、それなりのオッズに落ち着きそう。私は別の角度から、この馬の好走確率を見積もっていこうと思います。
M まず、前走のアーリントンCで3着だった点はどう評価するべきでしょうか。
伊吹 強調材料のひとつと見て良さそうです。2016年以降の過去6年に限ると、前走がGI以外のレースだったにもかかわらず3着以内となった12頭は、いずれも前走の着順が2着以下、かつ前走の1位入線馬とのタイム差が0.3秒以内でした。
M 大敗直後の馬だけでなく、前走を勝ち切った馬も上位に食い込めていませんね。
伊吹 主要な前哨戦とは微妙に異なった資質を要求されるレースなのでしょう。今年も前走で惜敗を喫した馬、特に諸々の条件替わりがプラスとなりそうな馬を重視すべきだと思います。
M なるほど。ちなみに、今回の条件が合いそうかどうかはどのあたりを参考に判断すべきなのでしょうか。
伊吹 もっとも重要なポイントは脚質ですね。2019年以降の3着以内馬9頭中8頭は、重賞やオープン特別で4コーナー4番手以内のポジションから連対を果たしたことのある馬でした。
M 東京芝1600mのレースですが、差し有利というわけではないんですね。
伊吹 差しが決まる年もあるとはいえ、差す競馬しかしてこなかった馬は評価を下げるべきだと思います。
M キングエルメスは京王杯2歳Sを勝った時の4コーナー通過順が2番手。条件替わりがプラスに働きそうな一頭と言えるのではないでしょうか。
伊吹 おっしゃる通り。私も相応に高く評価するつもりです。ただ、同じく2019年以降の過去3年に限ると、このNHKマイルCはノーザンファーム生産馬が圧倒的に優勢。ほどほどの評価にとどめておいた方が良い気もします。
M 今年も6頭のノーザンファーム生産馬が特別登録を行いました。
伊吹 このレースが合いそうなタイプばかりではないものの、やはりある程度は高く評価せざるを得ません。Aiエスケープの注目馬である点を頭の片隅に入れつつ、オッズ等も踏まえたうえでキングエルメスの位置付けを決めようと思います。