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「レース前は必ず神社に参拝して…」愛馬ダイワインパルスとの出会い(1)

  • 2022年05月10日(火) 18時00分
第二のストーリー

阿見乗馬クラブで過ごすダイワインパルス(提供:Mさん)


“僕も何かしなければ”


 競走馬を引退したら引き取りたい。そう思い続けていた男性が、その夢を実現させた。その馬の名はダイワインパルス。現在、茨城県阿見町にある阿見乗馬クラブで過ごしている。

 ダイワインパルスの母・プロテクトジアースがきっかけだった。話は14年前までさかのぼる。

「当時生産牧場さんのホームページで馬名募集のコーナーがあったんです。その牧場の社長が馬主になって走らせる馬の馬名募集だったのですが、僕が競馬のゲームでよく使用していたプロテクトジアースで応募したら、採用していただけました」

 栗東の厩舎だったため、関西圏で走ることが多かったが、Mさんは競馬場に応援に駆け付けた。

「ある時プロテクトジアースの掲示板に『地球を守るんか』という内容の書き込みがあったんです。それを見た時にちょっとイラっとはしたのですが(笑)、それなら僕も何かしなければと思い立ちまして、アースが出走して無事にゴールするたびにユニセフに募金をするということを始めました。ところがそこからハイペースでアースが出走するようになって、お財布が結構大変なことになりました(笑)。地球自体は守れないですけど、地球上の子供たちの命を少しですけど守っているよという、自己満足ですけどね」

 2009年2月21日にデビュー以来、中央、地方通算20戦3勝の成績を収めたプロテクトジアースは、2011年2月6日のレースを最後に現役引退。繁殖として生まれ故郷に無事帰っていった。

プロテクトジアースの初子


「しばらくして牧場さんから、プロテクトジアースはヴァーミリアンを種付けしますというメールが一ファンのために送られてきたんです」

 受胎は年末に牧場のホームぺージで確認した。初出産を迎えるアースのために何かできることはないかと考えたMさんは、1人で千羽鶴を折り始める。

「僕は思わず行動しちゃうんですよね。1日20羽から50羽以上折って1か月ちょっとで完成しました。その千羽鶴と安産祈願のお守りを牧場に送ったら、牧場の社長さんのコラムにも写真付きで紹介していただきました」

 安産を祈り続けたプロテクトジアースの初めての仔が生まれたのは、2012年3月6日だった。

「生まれた日のお昼頃だったと記憶しているのですが、牧場さんから本日午前1時23分、鹿毛の牡馬が無事誕生しましたというお知らせが来ました」

 誕生したその仔馬が、のちにダイワインパルスという競走馬名でデビューすることとなる。

 無事生まれた仔馬は成長し、2014年の千葉サラブレッド・セールに上場された。Mさんはネット中継でセリを見守った。

「セールで馬主さんも決まったので、よし、また全力で応援していこうと決心しました」

 ダイワインパルスと名付けられ、宗像義忠厩舎の管理馬として2014年8月3日、新潟競馬場の芝1600mの新馬戦でデビューし、12番人気4着と健闘。3戦目の2歳未勝利戦(10月11日・東京ダ1400m)で、1番人気に応えて初勝利を挙げた。Mさんはほぼ毎レース、応援幕を持って競馬場に足を運んだ。

第二のストーリー

パドックに応援幕を張って応援!(提供:Mさん)


第二のストーリー

応援幕にはかわいらしいデザインが(提供:Mさん)


「調教タイムが競馬サイトからメールで送られてきたり、格上相手にも一生懸命走る姿を目にするたびに、インパルスが頑張っているから自分も頑張らなきゃなという気持ちにさせてもらいました」

 既にインパルスは、Mさんにとってなくてはならない存在になっていた。

「東京、中山で出走する時は、必ずレース前に府中の大國魂神社に参拝をしました」

 東京競馬場なら神社は近い。だが中山競馬場でインパルスが走る時には、応援幕をパドックに掲げてからJR武蔵野線で府中まで行って大國魂神社にお参りをし、また電車で中山に戻っていたという。

「神社では無事にゴールできますように、競走馬を引退してからも健康で幸せに長生きできますようにとお願いをしました。そしていつか自分のところに迎えたいですということを最後に付け加えていました。自分のところに迎えたいというのは無理だろうなとは思いつつも、ずっと願い続けました」

(つづく)

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北海道旭川市出身。少女マンガ「ロリィの青春」で乗馬に憧れ、テンポイント骨折のニュースを偶然目にして競馬の世界に引き込まれる。大学卒業後、流転の末に1998年優駿エッセイ賞で次席に入賞。これを機にライター業に転身。以来スポーツ紙、競馬雑誌、クラブ法人会報誌等で執筆。netkeiba.comでは、美浦トレセンニュース等を担当。念願叶って以前から関心があった引退馬の余生について、当コラムで連載中。

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