
▲名門・池江泰寿厩舎が送り出すソウルラッシュはどんな馬か(c)netkeiba.com
マイルに距離短縮した途端、連勝街道を突き進み、ついには4連勝でGII・マイラーズCを勝ったソウルラッシュ。突如現れた新星が安田記念でGI制覇に挑みます。
連勝馬が現れた時に悩むのは予想での取捨ですが、ソウルラッシュはまだ1勝馬の段階から「重賞を勝つ馬です」と池江泰寿調教師がオーナーに伝えていたほどの素質馬だったと言います。また、2勝目を挙げるまでに時間がかかったのには理由があるそうで…。
今年リーディングを走る名門・池江厩舎が送り出す秘密兵器について伺いました。
(取材・構成:大恵陽子)
連勝を下支えしたノドの成長と距離短縮とブリンカー
――マイラーズCの勝利、おめでとうございます。
池江 ありがとうございます。
――これまでのレースと比べ、後方からのレースとなりましたが、どうでしたか?
池江 元々はレースセンスが良くて、どんな競馬でもできるタイプなんですけど、この時はたまたま出負けしてあのポジションになりました。あの日の前残りの馬場傾向から考えると絶望的なポジションで、ペースもそんなに速くなかったので、直線に向いた段階では「これは圏外だな」と思っていました。
――池江調教師でさえ絶望的と感じた位置から、グングン伸びて差し切った脚はすごかったです。
池江 浜中俊騎手じゃないと届かなかったでしょう。馬を動かす技術は日本でもトップじゃないかというくらい、彼が乗ると動きます。
――池江厩舎と浜中騎手と言えば、2015年オークスと秋華賞を勝ったミッキークイーンや、同年の天皇賞・秋ラブリーデイが思い浮かびます。
池江 あの頃以上に、「馬を動かすな」と感じます。彼も大きなケガをして、騎乗数も勝ち鞍も彼にとっては不本意な数字でしょうけど、腕は全く衰えるどころか、さらにパワーアップしていると感じます。

▲マイラーズCは浜中俊騎手じゃないと届かなかった(c)netkeiba.com
――浜中騎手とコンビを組み始めた4走前からソウルラッシュの快進撃が始まったわけですが、元々はデビュー勝ちを決めた馬。2〜3歳の頃はどんな馬だったんですか?
池江 初めて見た時から立派な馬体で均整が取れていて、品があるなと思っていました。デビュー前の調教でも動いていて、新馬戦は結構自信があったんです。ただ、当時は父ルーラーシップに母の父マンハッタンカフェなので、中距離かなと思っていて芝2000mでデビューしました。
――期待通り新馬勝ちを収めますが、その後はあと一歩勝利に届かず…。
池江 デビュー戦の後くらいからずっとノドの状態が良くなかったんです。クラシック路線に乗せたいと思っていて内視鏡検査もしたのですが、喘鳴症とかDDSPといった所見はありませんでした。ノドの粘膜が未成熟で炎症を起こしやすく、ずっと咳をしている状態だったので、調教は動くもののレースとなると2000mで11秒台のラップを続けて走らないといけないので、苦しくなって失速ということが続いていました。
――「ノド鳴り」という言葉をよく耳にしますが、疾患とまではいかなくても、成長段階でノドに不安を抱える馬というのも多いのでしょうか?
池江 いますね。これまでも3歳時に似たような症状を抱えた馬がいました。過去の似た症状の馬の経験から、成長を待てばしっかりしてくる馬が多いと感じていて、オーナーサイドには去年のこの時期でも「重賞を勝てる馬です」と伝えていました。
――1勝クラスで掲示板に載るかどうか、というレースをしていた頃ですが、素質は確実に感じてらしたんですね。デビュー4戦目にはダートを試したこともありました。
池江 ダートもいいのかなと思ったんですけど、サッパリでしたね。あの時もまだノドの状態が良くありませんでした。
――その後、4カ月の休養を挟み、休み明け3戦目から快進撃が始まりました。
池江 一番良かったのは、ノドが成長して咳をしなくなったことです。ちょうど成長の時期だったんでしょうね、すっかり良くなりましたし、休養明け3戦目で1600mに距離短縮したことも良かったのだと思います。
――ちょうど休養明けからブリンカーを着用するようにもなっていて、その効果が大きかったのかな、なんて思っていました。
池江 それも一つの要因でしょうけど、勝つ時も負ける時も要因は一つだけではありません。複数の要因が複雑に絡み合ってレースの結果が出ます。毎日馬を触って体調を感じ取っていて、この頃くらいから安定しているなと思っていました。

▲毎日馬を触って感じ取る(撮影:大恵陽子)
――GI初出走となりますが、この馬の強みは何でしょうか?
池江 レースセンスがいいことですね。まさに「テンよし、中よし、しまいよし」という馬です。ただ、前走に限ってはテンも中も良くなかったですが、どんな競馬でもできるということかな、と。馬場状態は良馬場でも、前走のような重たい馬場でもこなしますし、弱点がだいぶ減ってきたこともセールスポイントです。
「ようやく戻ってきた」名門厩舎の事情
――厩舎の話題に移ると、GI2勝を挙げたサトノダイヤモンドの産駒が今年デビューします。
池江 早速、中京の最初の新馬戦(6月4日、芝1600m)にダイヤモンドハンズがデビュー予定です。お父さんはデビュー前の調教で全然動かなくて、デビューをずらしたいなと思ったくらいでしたけど、息子は調教も動くし新馬向きだなと思います。
――他のサトノダイヤモンド産駒も見て、現時点で感じる特徴などはありますか?
池江 ダイヤモンドに似て、馬体が綺麗ですね。品のある馬も多くて、ダイヤモンドのいいところを引き継いでいる馬が多いなと思います。
――サトノダイヤモンドについて「肢勢が理想的な馬」という話をよくされていた印象が残っています。
池江 ダイヤモンドは教科書通りの、品評会に出てくれば賞を取るような綺麗な肢勢をしていました。産駒もそういう馬が多いですね。脚が真っ直ぐな馬は故障する率も確実に低いです。もちろん、脚が真っ直ぐでも故障する馬もいますし、曲がっていても持つ馬もいますが、やはり率は低くなります。

▲デビュー前から大注目のダイヤモンドハンズ(撮影:井内利彰)
――厩舎は今年、重賞2勝を挙げ、全国リーディングを走っています。
池江 去年が最悪でした。長く調教師をしていると、こういうこともありますね。去年、一昨年は人馬共に怪我が多く、所属の水口優也騎手が怪我をして調教に乗れませんでしたし、スタッフでも調教に乗る人の怪我も大きく影響しました。苦しくなるだろうなと思っていて、その通り苦しくなりましたが、彼らも復帰してがんばってくれていますし、馬も入れ替わってきて若い馬が走るようになってきて、ようやく元に戻ってきたと感じます。
――また池江厩舎のGI制覇を心待ちにしているファンも多いことと思います。
池江 GI制覇となると、19年大阪杯のアルアイン以来と、しばらく遠ざかっていますので、久々にGIを勝って、ファンのみなさんの期待に応えられるような成績を今後も維持していきたいなと思います。
(文中敬称略)