単勝オッズ7.3倍(4番人気)のノースブリッジが優勝(c)netkeiba.com、撮影:下野雄規
netkeibaにある膨大な競走成績を人工知能によって機械学習するAiエスケープを開発したAIマスター・Mと、レースデータの分析を専門とする競馬評論家・伊吹雅也による今週末のメインレース展望。コンピュータの“脳”が導き出した注目馬の期待度を、人間の“脳”がさまざまな角度からチェックする。
(文・構成=伊吹雅也)
昨年のような波乱が起きた年はあまり多くない
AIマスターM(以下、M) 先週はエプソムCが行われ、単勝オッズ7.3倍(4番人気)のノースブリッジが優勝を果たしました。
伊吹 お見事と言うほかありません。スタート直後に一旦は行く素振りを見せたものの、無理せずトーラスジェミニ(11着)やコルテジア(9着)を先に行かせて、道中は3番手を追走。残り400mくらいの地点で難なく先頭に立ち、そのまま押し切っています。後方から追い込んだタイムトゥヘヴン(5着)やジャスティンカフェ(4着)はもちろん、ノースブリッジのすぐ後ろでレースを進めていたダーリントンホール(3着)やガロアクリーク(2着)もそれぞれよく伸びているのですが、しっかりと追撃を封じ切りましたね。コース取りを含めた岩田康誠騎手の手綱捌きも、大きな勝因のひとつと言えるでしょう。
M ノースブリッジは4歳馬。前走で3勝クラスを勝ち上がったばかりだった馬です。
伊吹 3歳時のラジオNIKKEI賞で3着に食い込んだ実績があるとはいえ、ダービートライアルの青葉賞では13着に、菊花賞トライアルのセントライト記念では10着に敗れていましたから、今回も半信半疑くらいの評価にとどめていた方が多かったのではないかと思います。ただ、好走馬の傾向を見る限りだといかにもこのレースが合っていそうなタイプでしたし、スムーズに好位を取れそうなメンバー構成だったのも事実。◎を打った私が期待していた通りの走りを見せてくれました。
M 今後の芝中距離戦線でも注目を集めそうですね。
伊吹 セントライト記念の後は東京のレースしか使っていないものの、2歳時には中山芝2000m内の葉牡丹賞を勝っていますし、他場のレースでも十分にチャンスはあると思います。父がモーリス、母が2012年のファンタジーSで3着に食い込んだアメージングムーンという血統背景を考えると、将来的にはもう少し短い距離のレースに活躍の場を移す可能性もありそう。長い付き合いになりそうですから、今のうちにこの馬の特徴をしっかり復習しておきたいところです。
M 今週の日曜東京メインレースは、現3歳世代のダート巧者や芝路線からの転向組が激突するユニコーンS。
昨年は単勝オッズ13.4倍(7番人気)のスマッシャーが優勝を果たしました。ちなみに、その2021年は単勝オッズ79.0倍(14番人気)のサヴァが2着に、単勝オッズ5.4倍(3番人気)のケイアイロベージが3着に食い込み、3連単で79万3400円の高額配当が飛び出しています。
伊吹 久々の大波乱決着でしたね。2016〜2020年の5回はいずれも3連単の配当が400倍未満でしたし、単勝4番人気以下の馬が1着となったのは、単勝オッズ9.0倍(4番人気)のナイキアースワークが勝った2006年以来です。過去10年の単勝人気順別成績を見ても、連対馬20頭のうち15頭を単勝3番人気以内の馬が占めています。
M 単勝1番人気の支持を集めながら4着以下に敗れてしまった馬も5頭いますが、単勝3番人気以内という括りで見れば悪くありませんね。
伊吹 より細かく見てみると、単勝3番人気の馬が2012年以降[3-2-4-1](3着内率90.0%)と非常に優秀な成績を収めていました。一方、単勝4〜6番人気の馬は優勝例がなく、3着内率も10.0%どまり。中途半端に注目を集めている伏兵は疑ってかかるべきでしょう。
M そんなユニコーンSでAiエスケープが指名した特別登録時点の注目馬は、ヴァルツァーシャルです。
伊吹 話の流れからすると面白い存在かもしれません。穴人気しそうな馬は避けたいところですが、超人気薄の馬が3着まで来た例はそれなりにありますし。
M オープン初挑戦だった前走の青竜Sは4着どまりでした。当時の上位馬に加え、他のオープン特別や重賞で善戦してきた馬もいるわけですから、この馬を積極的に狙おうと考えている方はそう多くないでしょう。ただ、コース適性の高さは証明済みで、前走も勝ち馬とのタイム差はわずか0.2秒。実績を過小評価されるようならば楽しみな一頭です。
伊吹 少なくともAiエスケープは狙い目と見ているわけですし、じっくり取捨を検討した方が良さそう。私自身の評価を固めるべく、レースの傾向とこの馬の戦績を見比べていきたいと思います。
M まず、前走が勝ち馬から0.2秒差の4着である点はどう評価すべきでしょうか?
伊吹 微妙なところですね。一応、2012年以降の3着以内馬31頭中28頭は、前走の着順が4着以内でした。
M ギリギリではあるものの、合格ラインをクリアしています。
伊吹 ただし、前走の着順が4着だったにもかかわらず3着以内となったのは、2017年1着のサンライズノヴァが最後。今回は前走3着以内の馬がそれなりにいますから、強調材料とまでは言えません。
M では、脚質に関してはいかがでしょう。ヴァルツァーシャルはいかにもこのコースが合っていそうな、末脚を活かしたいタイプです。
伊吹 私は不安要素のひとつと見ています。2018年以降の3着以内馬12頭中10頭は、前走のコースが国内、かつ前走の4コーナー通過順が4〜10番手でした。
M 前走で先行した馬が安定感を欠いている一方、先行力が高くない馬も上位に食い込めていません。
伊吹 ヴァルツァーシャルは前走の4コーナー通過順が11番手。例年とは異なる流れにならない限り、苦しい競馬となってしまいそうです。
M なるほど。他に何か注目しておくべきポイントはありますか?
伊吹 ユニコーンSは年明け以降の戦績を素直に評価したい一戦。2014年以降の連対馬16頭は、いずれも“同年、かつJRA、かつ2勝クラス以上のレース”において“着順が5着以内、かつ4コーナー通過順が10番手以内”となった経験のある馬でした。
M 2歳時のレースや1勝クラス以下のレースでしか好走していない馬はもちろん、4コーナー11番手以下のポジションからしか上位に食い込めていない馬も、割り引きが必要ですね。
伊吹 おっしゃる通り。ヴァルツァーシャルは前走だけでなくここ4戦の4コーナー通過順がすべて11番手以下ですから、残念ながらこのレースが合っていそうなタイプとは言えません。
M そうなると、伊吹さんは無印ですか?
伊吹 おそらくそうすることになるでしょう。ただ、これだけ人気薄なら嫌ったところで妙味はありませんし、例年の傾向から多少外れた展開になるようだと、Aiエスケープが有力視しているこの馬は怖い存在。押さえておく余裕があるかどうか、買い目作りの段階でもう一度考えてみます。