単勝オッズ20.1倍(7番人気)のペイシャエスが優勝(c)netkeiba.com、撮影:下野雄規
netkeibaにある膨大な競走成績を人工知能によって機械学習するAiエスケープを開発したAIマスター・Mと、レースデータの分析を専門とする競馬評論家・伊吹雅也による今週末のメインレース展望。コンピュータの“脳”が導き出した注目馬の期待度を、人間の“脳”がさまざまな角度からチェックする。
(文・構成=伊吹雅也)
平穏な決着となった年もそれなりに多いが……
AIマスターM(以下、M) 先週はユニコーンSが行われ、単勝オッズ20.1倍(7番人気)のペイシャエスが優勝を果たしました。
伊吹 出遅れてしまった馬も多い中、まずまずのスタートから先団につけ、道中は5番手前後のポジションを確保。ゴール前の直線でもしぶとく伸び、残り200m地点を過ぎてから先頭を捕らえ、そのまま押し切っています。他の馬を目で追っていたこともあり、リアルタイムで観ていた時は「いつの間に抜け出してきたんだろう?」と狐につままれたような気分になったのですが、改めて見ると堂々たる勝ちっぷりですね。最後の最後に伸びてきたセキフウ(2着)、バトルクライ(3着)、ヴァルツァーシャル(4着)は、いずれも4コーナーを10番手以下で通過した馬。決して有利とは言えない展開の中、追い込み勢の追撃をしっかり抑えきった点は高く評価すべきでしょう。
M 2着のセキフウは単勝オッズ24.4倍(9番人気)、3着のバトルクライは単勝オッズ21.8倍(8番人気)で、3連単62万4210円の高額配当決着となりました。
伊吹 同じく3連単で79万3400円の配当が飛び出した2021年に続き、2年連続で荒れましたね。3連単が発売されるようになった2005年から2020年までの計16回に限ると、3連単のオッズが一千倍を超えたのは2回だけで、三百倍を超えたのも4回だけ。以前はどちらかと言うと堅く収まりがちなレースだったのです。好走馬の傾向を含め、レースの質が変わりつつあるのかも。来年のユニコーンS予想を行う際は、ここ2年の結果を特に重視したうえで、攻略に向けた作戦を立てたいと思います。
M ペイシャエスは重賞初勝利。ただ、これまでに参戦したオープン特別の3鞍ではそれぞれ9着・3着・5着に敗れていましたし、次走以降も評価が割れるのではないでしょうか。
伊吹 そうなりそうですね。能力面はもちろん、コース適性に関しても、まだ字面の戦績からは明確な傾向を読み取ることができません。他の競馬ファンに先んじてこの馬の特徴を把握するべく、今のうちにしっかり復習しておきましょう。
M 今週の日曜阪神メインレースは、上半期を締め括る大一番、グランプリの宝塚記念。昨年は単勝オッズ1.8倍(1番人気)のクロノジェネシスが優勝を果たしました。なお、2着には単勝オッズ27.8倍(7番人気)のユニコーンライオンが食い込んだものの、単勝オッズ3.5倍(2番人気)のレイパパレが3着を確保したこともあり、3連単の配当は1万3340円にとどまっています。
伊吹 2012年以降の過去10年に限ると、半数の5回は3連単の配当が三百倍未満。堅く収まる年も少なくない印象です。ただし、上位人気馬の好走率が特に高いわけではありません。
M 単勝3番人気以内の馬が7勝しているとはいえ、単勝7番人気以下の伏兵もそれなりに健闘していますね。
伊吹 集計区分を少しズラしてみると、単勝3〜5番人気の馬が2012年以降[2-2-1-25](3着内率16.7%)だった一方で、単勝6〜12番人気の馬は2012年以降[3-5-6-54](3着内率20.6%)と悪くない成績を収めていました。中途半端に注目を集めている馬は、扱い方をひと工夫した方が良いかもしれません。
M そんな宝塚記念でAiエスケープが指名した特別登録時点の注目馬は、ギベオンです。
伊吹 また随分と派手な人気薄を狙ってきましたね。単勝最低人気となる可能性すらあるのではないでしょうか。
M 2021年の金鯱賞や2018年の中日新聞杯を勝っているうえ、3歳時にはNHKマイルCで2着に食い込んだ実績もある馬。もっとも、4歳となった2019年以降はまだ一度しか馬券に絡んでいません。既に7歳ですし、積極的に狙おうと考えている方はほとんどいないはずです。
伊吹 配当的な妙味はまず間違いなくあるでしょうし、Aiエスケープが注目馬に挙げてきたということは、上位に食い込んでくる可能性も世間の見立てほどは低くなさそう。レースの傾向と照らし合わせたうえで、馬券上の位置付けを決めておきたいと思います。
M ポイントとなるのはどのあたりでしょうか。
伊吹 近走成績ですね。“同年、かつJRA、かつ重賞のレース”において2着以内となった経験がある馬は2012年以降[8-6-7-52](3着内率28.8%)と比較的堅実。一方、この経験がなかった馬のうち、前年にGIやGIIのレースを勝っていない馬は苦戦していました。
M ギベオンは年明けの重賞で連対を果たしていませんが、昨年の春にGIIの金鯱賞を制覇。この条件はしっかりクリアしています。
伊吹 あとは直近のパフォーマンスも素直に評価したいところ。前走が天皇賞(春)や1マイル戦だった馬を除くと、4着以下に敗れた直後の馬は強調できません。
M 今回と近い条件のレースを経由してきたのならば、その前走で好走を果たしていてほしいところですね。
伊吹 おっしゃる通り。今年はこの条件に引っ掛かっている実績馬が意外と多いので注意しましょう。
M ギベオンの前走は2000mの鳴尾記念で、結果は勝ち馬から0.2秒差の4着。厳密に言うとクリアしていませんが、嫌うほどでもないように思います。
伊吹 その辺は考え方次第ですね。ギベオンくらいの人気薄であれば、大目に見て良いのかもしれません。
M 他に何か注目しておくべき傾向はありますか?
伊吹 “前年の有馬記念”において9着以内となった経験がある馬は2012年以降[5-6-2-13](3着内率50.0%)。やはり、直近のグランプリで善戦した馬は相応に高く評価すべきでしょう。一方、この経験がなかったにもかかわらず3着以内となった17頭のうち16頭は、馬齢が5歳以下でした。
M ギベオンは2021年の有馬記念に出走しておらず、馬齢も7歳です。
伊吹 今回は5歳以下の実績馬もたくさんいますし、この点に関しては割り引きが必要と見るべきでしょう。
M 近走成績は意外と高く評価できるものの、高齢である点は明確な不安要素。伊吹さんとしても悩ましいところなのでは?
伊吹 そのうえAiエスケープの推奨馬でもあるわけですからね。まぁ、前出の条件を綺麗にクリアしている馬が他にいるので、さすがに中心視するつもりはありません。ただ、これだけの人気薄ですし、相手として押さえておくに越したことはないはず。実際のオッズを見たうえでもう一度検討してみようと思います。