▲今年ゴドルフィンマイルを制したバスラットレオン(c)netkeiba.com、帝王賞を制したメイショウハリオ(撮影:高橋正和)
近年、生産馬が目覚ましい活躍を見せる三嶋牧場。戦前から北海道・浦河で馬産を行ってきた老舗牧場は、昨年の安田記念をダノンキングリーで勝って念願のGI初制覇を果たすと、昨年の生産者ランキングも5位にランクインしました。
その中でも、今年帝王賞を勝ったメイショウハリオと、27日にイギリス・サセックスSに臨むバスラットレオンは放牧地に小川が流れる野深分場で生まれ育ちました。ゆったりと時間が流れる放牧地で、2頭はそれぞれ異なるタイプのお母さんに育てられたようです。
三嶋牧場野深分場の中村公昭場長に2頭の仔馬時代、そして27日のサセックスSに臨むバスラットレオンへの期待のほどを伺いました。
(取材・構成:大恵陽子)
「どちらかと言うとインパクトがない」メイショウハリオ。その意外な理由とは
──メイショウハリオで帝王賞制覇、おめでとうございました。
中村 ありがとうございます。家で見ていたんですけど、ちょっとビックリでした。いまのダートで一番強いメンバーじゃないか、という顔ぶれでしたよね。前走の平安Sは3着で、勝ったテーオーケインズが強かったのでまだ力差があるのかな、と感じていましたし、チュウワウィザードはドバイワールドカップ3着、オメガパフュームは東京大賞典4連覇ですから、胸を借りるような気持ちで見ていました。そしたら、「あれ? 勝てるーっ!」と。ハマった競馬じゃなくて、押し切る強い競馬で、直線は声が出ましたね。
▲押し切る強い競馬で強豪相手に勝利(撮影:高橋正和)
──母はメイショウオウヒで、親子ともに「メイショウ」さんの馬でのJpnI勝利でもありましたね。
中村 お世話になっている松本オーナーの馬でGIを勝ちたいという思いはうちのスタッフみんなが持っていたので、ようやくの悲願です。メイショウベルーガがエリザベス女王杯で2着で、そこからですかね、より思いが強くなりました。生産・育成ともに三嶋牧場で勝ったのも初めてでした。
──半弟にはダイヤモンドSを勝ったテーオーロイヤルもいて、すごい兄弟ですね。
中村 お母さんがすごいですよね。JRA未勝利から地方で3勝してJRAに戻ったんですけど、2、3着はあるんですけど、勝てませんでした。でも、帝王賞を勝ってからお母さんの成績を見てみると、最後に馬券圏内に入った3着の時が浜中ジョッキーだったんです。
──息子のメイショウハリオの主戦騎手!
中村 そうなんですよ、何か不思議なつながりがあったのかなって。
──母メイショウオウヒはどんな馬ですか?
中村 お母さんの半弟には15年アルゼンチン共和国杯2着のメイショウカドマツや、芝の短距離でオープン入りしたメイショウキョウジなどがいて、きょうだいが結構走っています。大人しくて、放牧地でも後ろにいるようなタイプです。子供を可愛がって、常に目の届くところに置いています。でも、前に出てくるタイプではないので、どちらかと言うと親子共々そんなにインパクトがなかったです。
──大人しくて目立たないけど、実はちゃんとやっていました、みたいな。そうすると、メイショウハリオが牧場にいた頃の印象は?
中村 すごく大きくて、馬っぷりが良かったです。「いい馬だったな。走ってほしいな」と思っていました。
▲お母さんに顔をすり寄せて甘えるメイショウハリオ。撮影は89年度JRA馬事文化賞受賞の内藤律子カメラマン
友達と喧嘩して生傷が絶えなかった少年時代
──三嶋牧場の生産馬からは近年、多くの活躍馬が出ていて、バスラットレオンではこの春、ドバイ・ゴドルフィンマイルを勝ちましたね!
中村 あの時は、「せっかくドバイに出るから、応援しよう!」と牧場でスタッフと集まって見ていました。この時も、まさか勝つとは思っていなくて、「あれ? これ、もしかして!」とかなりビックリして、鳥肌が立ちました。チャレンジすることって、大事なんだなと実感しました。国内でダートは武蔵野Sを使って13着に負けていましたけど、こうしたチャレンジが実を結んで、矢作先生は素晴らしいですよね。
▲「チャレンジすることって、大事なんだなと実感しました」(c)netkeiba.com
──海外遠征となると、環境の変化への適応力も求められそうですが、牧場時代からその片鱗はありましたか?
中村 よく覚えているのは、生まれてすぐ、慣らすためにいろんなところを触るんですけど、どこを触っても嫌がりませんでした。あんまりこういう馬っていなくて。何をするにも手がかからなくて、順調に育ちました。でも、よく小さい怪我ばっかりして帰ってきていたので、放牧地ではいろんな友達と戦っていたのかな、と。大きな怪我は全くなかったんですけど、皮がべろってめくれて帰ってきて、しょっちゅう傷の処置をしていた記憶があります。
▲放牧地でお友達と遊ぶバスラットレオン(左)。とねっこの頃は生傷が絶えなかったとか。こちらも撮影は内藤律子カメラマン
──人間の子どもが膝をずるむいた、みたいな。
中村 そうですね。お母さんのバスラットアマルはメイショウオウヒとは正反対で、放任なんですよ。子供は勝手にどこか遊びに行っています。今年生まれたバスラットアマル親子は、放牧地に小川が流れているんですけど、川を挟んで親子別々にいます(笑)。お母さんはおっぱいが張ってくると鳴いて子供を呼ぶんですけど、来ないから自分で川を渡って子供の所に行っておっぱいを飲ませて、また自分は川を渡って戻っています。
──ある意味、自立した親子ですね(笑)。野深分場はすぐそばを元浦川が、場内にも小川が流れている素敵な環境ですよね。
中村 静かな環境で、広い場所に多くの頭数で放牧できる分、運動量が増えるのではないかなと思います。お母さんたちはストレスなく草を食べていて、その周りを子供たちが遊んでいます。
──ここで育った馬が海外で活躍するなんて、と思うと感慨深いのではないですか?
中村 日本だけじゃなく、海外にまで行っていろんな夢を見せてもらえています。ドバイもテレビを見ながら、なんかもう実感が湧かなかったんですけど、すごいなあと思って。
バスラットレオンの次走のサセックスSは強力なメンバーになりそうですけど、矢作先生が「爪痕を残して」とどこかで書いてらっしゃいました。本当にそう思います。でもこれって、ドバイの時と同じかな、と思ったり。「爪痕を残してほしい」と思っていたら、勝っちゃったみたいな(笑)。
──現地での様子は届いていますか?
中村 TwitterなどのSNSで見るくらいですけど、ニューマーケットの調教場を走っているのを見て、ちょっと感動しました。「ここにいた馬が!」って。
──またみなさんで集まって観戦するんですか?
中村 一応、ドバイの時と同じメンバーで応援しようかって言っているんですけど、今回は時間が遅いので、そこがどうか。でも、自分は見ます。
──最後に、期待のほどを。
中村 とにかく怪我をしないように、無事に走りきってほしいです。そうすれば、あとは結果はついてきます。イギリスの馬場は日本馬がことごとく弾かれているので、走ってみないと分からない部分もあると思いますけど、ノーマークで逃げてそのまま押し切るっていうドバイと同じような展開になってくれたら最高です。
(文中敬称略)
内藤律子カメラマンが現在制作中の2023年とねっこカレンダーとサラブレッドカレンダーにはバスラットレオンやメイショウハリオの仔馬時代の写真が使われる予定です。
▽内藤律子カメラマンHP
https://blue-wind.wixsite.com/ritsuko-naito/welcome