単勝オッズ18.8倍(7番人気)のハヤヤッコが優勝(C)netkeiba.com
netkeibaにある膨大な競走成績を人工知能によって機械学習するAiエスケープを開発したAIマスター・Mと、レースデータの分析を専門とする競馬評論家・伊吹雅也による今週末のメインレース展望。コンピュータの“脳”が導き出した注目馬の期待度を、人間の“脳”がさまざまな角度からチェックする。
(文・構成=伊吹雅也)
例年は4番人気くらいまでの馬があまり信頼できないレース
AIマスターM(以下、M) 先週は函館記念が行われ、単勝オッズ18.8倍(7番人気)のハヤヤッコが優勝を果たしました。
伊吹 この馬自身の能力や適性はもちろん、浜中俊騎手の見事な手綱捌きも、勝因のひとつと言って良いでしょう。道中は中団のインコースを追走していましたが、残り1000mの地点を過ぎたあたりから少しずつポジションを押し上げ、周囲に馬がいなくなった3コーナーでやや外めに持ち出すと、ゴール前の直線入り口で早々と先頭に立ちそのまま押し切りました。馬場のコンディションやペースだけでなく、最内枠も存分に生かし切る素晴らしい競馬だったと思います。
M ハヤヤッコは2019年のレパードS以来となる2度目の重賞制覇。ダートを主戦場としてきた馬で、負担重量も57.0kgと決して軽くありませんでしたから、苦戦必至と見ていた方が多かったのではないでしょうか。
伊吹 芝のレースで3着以内となったのは2018年8月5日の新潟1R(2歳未勝利)が最後。4年近くも馬券に絡んでいなかったわけですからね。ただ、2走前の日経賞では勝ったタイトルホルダーと0.4秒差の5着に健闘していましたし、前回ご紹介した好走馬の傾向にも概ね合致していました。さすがに勝ち切る可能性は低いと思っていましたが、半信半疑ながらもこの馬を押さえたおかげで的中させることができましたから、個人的にはとても感謝しています。
M ハヤヤッコはサマー2000シリーズのポイントランキングでエヒトと並ぶ首位タイに浮上。今後も目が離せませんね。
伊吹 次走は札幌記念を予定しているそうですが、少なくともコース形態やメンバー構成はだいぶ変わるわけで、質が異なるレースへの対応力を問われることになります。もっとも、57.0kgの負担重量を背負って勝ち切った点は相応に高く評価すべきでしょうし、札幌記念は函館記念で出走メンバー中上位の上がり3ハロンタイムをマークした馬がそれなりに信頼できるレース。チャンスは十分にあるはずです。ちなみに、ハヤヤッコはダート戦を含めるとオープンクラスで4勝をマークしていますが、このうち3鞍は6〜8月のレースでした。夏場が合っていそうなタイプである点も頭に入れておくべきでしょう。
M 今週の日曜小倉メインレースは、サマーマイルシリーズ第2戦の中京記念。昨年は単勝オッズ4.4倍(1番人気)のアンドラステが優勝を果たしました。2020年に単勝オッズ163.0倍(18番人気)のメイケイダイハードが勝ったのも記憶に新しいところで、波乱含みの一戦というイメージを持っている方も少なくないと思いますが、全体的な傾向はどうなっていますか?
伊吹 過去10年の単勝人気順別成績を見る限りだと、人気薄で好走した馬が極端に多いわけではない一方、上位人気馬の好走率は物足りない水準です。
M 単勝4〜6番人気の馬がこれだけ優秀な成績を収めているというのは珍しいパターン。中位人気馬を重視すべきレースなのかもしれませんね。
伊吹 より細かく見ていくと、単勝2〜4番人気の馬は2012年以降[1-1-4-24](3着内率20.0%)、単勝5〜6番人気の馬は2012年以降[4-6-2-8](3着内率60.0%)でした。単勝7番人気以下の伏兵が波乱を演出した例も決して少なくはないので、まずは上位人気グループの馬を信頼し過ぎないよう心掛けるべきでしょう。
M そんな中京記念でAiエスケープが指名した特別登録時点の注目馬は、ファルコニアです。
伊吹 意外なところを選んできましたね。上位人気グループの一角どころか、単勝1番人気の支持を集める可能性も高いはず。
M 前走の読売マイラーズCでは、勝ったソウルラッシュと0.1秒差の3着に健闘。これまでにマークした5勝のうち4勝が芝1800mのレースなので、コース替わりもプラスに働くのではないでしょうか。メンバー構成からも、最有力と見ている方が多いのではないかと思います。
伊吹 Aiエスケープがこの馬を推奨してきたということは、期待値の高い伏兵が見当たらないということなのでしょうね。これまでの経験上、こうしたレースは堅く収まりがちです。この見立てに乗るべきなのかどうか、レースの傾向からジャッジしていきたいと思います。
M 最初に注目しておくべきポイントはどのあたりでしょうか。
伊吹 馬齢ですね。2016年以降の過去6年に限ると、6歳以上の馬はほとんど上位に食い込めていません。
M これはわかりやすい。はっきりと明暗が分かれていますね。
伊吹 ちなみに、馬齢が7歳以上の馬は2012年以降まで集計対象を広げても[0-1-0-29](3着内率3.3%)でした。今年の該当馬も思い切って評価を下げるべきでしょう。
M ファルコニアは5歳馬。ちなみに、4歳以下の馬は3頭しか特別登録を行っていません。これなら素直に強調材料と見て良さそうですね。
伊吹 おっしゃる通りだと思います。あとは近走成績も捻らずに評価したいところ。同じく2016年以降の3着以内馬18頭中13頭は“同年3月以降、かつJRAのレース”において2着以内となった経験がある馬でした。
M ここ半年くらいのレースで連対を果たしていない馬は、過信禁物と見るべきなのでしょうか。
伊吹 そうした方が良さそうです。もっとも“同年3月以降、かつJRAのレース”において2着以内となった経験がなかった馬のうち、出走数が15戦以内だった馬は2016年以降[3-1-0-9](3着内率30.8%)とまずまず。キャリアが極端に浅い馬なら不安視する必要はありません。
M 特別登録を行った馬のうち“2022年3月以降、かつJRAのレース”において2着以内となった経験があるのは、ヴァリアメンテ・カイザーミノル・ダブルシャープ・ファルコニア・ベレヌスの5頭だけでした。キャリア15戦以内の馬が他にいるとはいえ、今回のファルコニアは相手関係にも恵まれた印象です。
伊吹 さらにもうひとつ付け加えておくと、前走の馬体重が480kg未満、かつ前走の着順が2着以下、かつ前走の1位入線馬とのタイム差が0.2秒以上だった馬は、2013年以降まで集計対象を広げても苦戦していました。
M 馬格や直近のパフォーマンスに不安のある馬も割り引きが必要――ということでしょうか。
伊吹 捉え方次第ですけどね。2020年は阪神芝1600m外で、2019年以前は中京芝1600mで施行されたレースですし、今回と同じ小倉芝1800mで施行された2021年には、この条件をクリアしていなかったアンドラステが優勝を果たしています。馬場のコンディション次第では、あまり気にしなくて良いのかもしれません。ただ、これだけの偏りがあるわけですから、チェックしておくに越したことはないでしょう。
M ファルコニアは前走の馬体重こそ472kgどまりでしたが、前走の1位入線馬とのタイム差は0.1秒でした。
伊吹 昨年のアンドラステも前走の馬体重は476kgでしたし、評価を下げる必要はまったくないと思います。Aiエスケープの見立て通り、かなりの確率で上位争いに食い込んでくるのではないでしょうか。私自身も、今年はやや堅めの決着をイメージした買い目で勝負するつもりです。