単勝オッズ17.3倍(7番人気)のビリーバーが優勝(c)netkeiba.com、撮影:下野雄規
netkeibaにある膨大な競走成績を人工知能によって機械学習するAiエスケープを開発したAIマスター・Mと、レースデータの分析を専門とする競馬評論家・伊吹雅也による今週末のメインレース展望。コンピュータの“脳”が導き出した注目馬の期待度を、人間の“脳”がさまざまな角度からチェックする。
(文・構成=伊吹雅也)
人気薄の伏兵が上位に食い込んだ例も珍しくない
AIマスターM(以下、M) 先週はアイビスSDが行われ、単勝オッズ17.3倍(7番人気)のビリーバーが優勝を果たしました。
伊吹 完璧な手綱捌きで“勝ち筋”に導いた杉原誠人騎手も、それに応えて持ち味を出し切ったビリーバーも、それぞれ素晴らしかったですね。今回も後方からの競馬になりましたが、すんなりと外ラチ沿いのポジションを確保して、先頭を射程圏内に入れたまま追走。すぐ前を走っていたレジェーロ(4着)が残り200mほどの地点で内に持ち出したため、この時点で外ラチ沿いにいるのは先頭のシンシティ(2着)とビリーバーだけになりました。ここからシンシティとレジェーロの間を突いて一気に伸び、1馬身ほど突き抜けたところでゴール。他の上位馬はなす術がなかったと思いますし、完勝と言って良いのではないでしょうか。
M ビリーバーは前回の当コラムでAiエスケープが注目馬に挙げていましたね。
伊吹 お見事と言うほかありません。好枠を引き当てたとはいえ、馬券に絡んだのは2020年のアイビスSD(3着)が最後。キャリア44戦の7歳牝馬と言うこともあり、苦戦必至と見ていた方は少なくなかったはずです。かく言う私もそのひとり。最終的なオッズにも競馬ファン全体の迷いが見て取れましたから、この馬を狙うという判断はいろいろな意味で正しかったのだと思います。今回に関しては、私よりもAiエスケープの方が一枚上手でした。
M ビリーバーはサマースプリントシリーズのポイントランキングでテイエムスパーダ・ナムラクレアと並ぶトップタイに浮上。この後に施行される対象レースを使えばシリーズチャンピオンを狙える立場です。
伊吹 当コース巧者というイメージが強い馬なので、今回の勝利が次走以降のオッズにどこまで影響してくるかは未知数。サマースプリントシリーズ対象レースを使ってくるようならば、今回より人気を落とす可能性すらあります。ただ、アイビスSDの上位馬が北九州記念などで再度好走した例は少なくありませんし、ビリーバー自身もコーナーのあるコースを問題なくこなせるタイプ。引き続き激走を警戒しておきましょう。
M 今週の日曜新潟メインレースは、唯一の3歳限定ダート重賞としておなじみのレパードS。昨年は単勝オッズ2.8倍(1番人気)のメイショウムラクモが優勝を果たしました。波乱の決着となる年も珍しくない印象ですが、全体的な傾向はどうなっていますか?
伊吹 どちらかと言えば波乱含みの一戦ですね。単勝1番人気馬は3着内率が80.0%に達していたものの、他の上位人気勢はやや物足りない数字。一方、過去10年の3着以内馬30頭中11頭は単勝7番人気以下でした。
M 単勝7番人気以下の馬は3着内率が12.5%。単勝4〜6番人気とくらべても、それほど大きな差はありません。
伊吹 より細かく見ていくと、単勝2番人気の馬が2012年以降[2-1-1-6](3着内率40.0%)、単勝13番人気以下の馬が2012年以降[0-0-0-28](3着内率0.0%)だったのに対し、 単勝3〜7番人気の馬は2012年以降[2-4-3-41](3着内率18.0%)、単勝8〜12番人気の馬は2012年以降[2-3-4-41](3着内率18.0%)となっています。単勝10番人気前後の、手頃な人気薄をいかにして引っ掛けるかがポイントと言えるのではないでしょうか。
M そんなレパードSでAiエスケープが指名した特別登録時点の注目馬は、ビヨンドザファザーです。
伊吹 今回も伏兵を挙げてきましたね。抽選を突破して出走が叶ったとしても、上位人気に推される可能性は低いと思います。
M 前走のユニコーンSは勝ったペイシャエスと0.2秒差。ただ、着順自体は7着どまりでしたし、当時は単勝オッズも70.4倍(13番人気)でしたから、一気に評価が上がるとは考えにくいところです。
伊吹 新潟ダ1800mの新馬を勝っているとはいえ、この点もどこまで評価されるかは極めて微妙。人気薄の一頭として扱うべきでしょう。好調なAiエスケープが有力視している点を踏まえつつ、私はレースの傾向からこの馬の好走確率を見積もっていきます。
M まずはどのあたりに注目すべきだとお考えですか?
伊吹 臨戦過程でしょうね。2016年以降の過去6年に限ると、前走が“JRA、かつ2勝クラス以下のレース”だった馬は安定感を欠いていました。
M 重賞やオープン特別を経由してきた馬が中心と言えそうですね。
伊吹 ちなみに、前走の条件が“JRA、かつ2勝クラス以下のレース”だった馬のうち、前走の着順が1着、かつ前走の2位入線馬とのタイム差が0.4秒以上だった馬は2016年以降[1-2-1-9](3着内率30.8%)と健闘していたものの、それ以外の馬は2016年以降[0-1-1-37](3着内率5.1%)でした。前走が1勝クラスや2勝クラスのレースで、なおかつその前走を圧勝していない馬は強調できません。
M ユニコーンSへの挑戦を挟んだ分、ビヨンドザファザーは高く評価して良いのではないでしょうか。
伊吹 あとはコース適性や脚質も見逃せないポイント。同じく2016年以降の3着以内馬18頭中16頭は、東京ダ1600mおよび“JRA、かつ1800mのレース”において“着順が1着、かつ4コーナー通過順が2番手以内”となった経験のある馬でした。
M 新潟ダ1800mが合いそうな、先行力の高い馬を狙った方が良さそうですね。
伊吹 おっしゃる通り。先行有利なレースとまでは言えませんが、中団や後方からの競馬しかしてこなかった馬は過信禁物と見るべきでしょう。
M 残念ながら、ビヨンドザファザーは先行力がそれほど高くないタイプ。敗れたレースを含め、まだ4コーナーを3番手以内で通過したことがありません。
伊吹 コース適性は高いはずなので、展開次第では何とかなりそうな気もしますけどね。ちなみに、2019年以降の過去3年に限ると、栗東所属調教師の管理する“関西馬”も期待を裏切りがちでした。
M ビヨンドザファザーを管理しているのは栗東の藤岡健一調教師。この傾向もやや気掛かりです。
伊吹 一応補足しておくと、調教師の所属が栗東、かつ前走の負担重量が54.0kg以下だった馬は2019年以降[0-0-1-18](3着内率5.3%)。前走より負担重量の増える “関西馬”は少々不安ですが、前走の負担重量が56.0kgだったビヨンドザファザーはあまり心配しなくて良い――と見ることもできます。
M なるほど。人気を考えると、無理に嫌う必要はないのかもしれませんね。
伊吹 私も、これらの条件に引っ掛かっている上位人気馬は思い切って評価を下げるつもりですが、人気薄の馬に関しては大目に見たり見なかったりするつもりです。ビヨンドザファザーはAiエスケープが高く評価しているわけですし、できれば押さえておきたいところ。最終的なオッズも踏まえたうえで、買い目上の位置付けを考えたいと思います。