7番人気のカフジオクタゴンが優勝(C)netkeiba.com
netkeibaにある膨大な競走成績を人工知能によって機械学習するAiエスケープを開発したAIマスター・Mと、レースデータの分析を専門とする競馬評論家・伊吹雅也による今週末のメインレース展望。コンピュータの“脳”が導き出した注目馬の期待度を、人間の“脳”がさまざまな角度からチェックする。
(文・構成=伊吹雅也)
極端に前評判の低い馬が好走した例は少ない
AIマスターM(以下、M) 先週はレパードSが行われ、単勝オッズ21.6倍(7番人気)のカフジオクタゴンが優勝を果たしました。
伊吹 最終的に1〜7着だった馬のうち、1コーナーを8番手以内で通過したのはタイセイドレフォン(2着)だけ。ここまでタフな展開になるとイメージしていた方はそれほど多くなかったと思います。もっとも、カフジオクタゴンは3コーナーを7番手で、4コーナーを5番手で通過。タイセイドレフォンと同じくらい積極的にレースを進めていましたから、決して展開に恵まれたわけではありません。大外の15番枠だったにもかかわらず向正面で最内に潜り込み、コースロスを最小限に抑えることができた点もプラスに働いたはず。香港を代表するトップジョッキーのひとり、C.ホー騎手の手綱捌きもお見事でした。
M ゴール前の直線はタイセイドレフォンとの叩き合いになり、残り200mの地点を過ぎたあたりで前に出て、そのまま押し切っています。離れた外から迫ったハピ(3着)の追撃も退けましたし、着差以上にインパクトのある内容です。
伊吹 カフジオクタゴン自身も前走で2勝クラスの鷹取特別を快勝しており、決して実績的に見劣りする存在ではなかったものの、ハピはオープン特別の鳳雛S勝ちに加えてジャパンダートダービー4着の実績があった馬、タイセイドレフォンも鳳雛Sで2着に食い込んでいる馬でしたからね。1勝クラスを勝ち上がった後に長めの休養を取ったこともあって、3歳春までの重賞やオープン特別には出走できませんでしたが、もともと世代トップクラスの素質はあったのでしょう。ちなみに、2着どまりだったデビュー4戦目のレースで先着を許したデリカダは、次走に選んだオープン特別の伏竜Sを快勝しています。そして、その伏竜Sでデリカダが2着に下したのは、後にジャパンダートダービーを勝ったノットゥルノ。こうした背景を踏まえたうえで振り返ってみると、単勝オッズ21.6倍の7番人気というのは舐められ過ぎだったのかもしれません。
M 確かに。たまたま人気の盲点になっていただけで、今回は“順当勝ち”だった可能性すらありそうです。
伊吹 このレパードSで重いシルシを打てなかったのはお恥ずかしい限りですが、現在の私はそう考えていますよ。今秋以降のビッグレースでも、相応に高く評価すべきでしょう。
M 今週の日曜新潟メインレースは、サマーマイルシリーズ第3戦の関屋記念。昨年は単勝オッズ9.7倍(4番人気)のロータスランドが優勝を果たしました。今回も単勝人気順別成績からうかがっていきたいと思いますが、近年の傾向はどうなっていますか?
伊吹 基本的に堅く収まりがちなレースと言って良いでしょう。過去10年の結果を振り返ってみても、単勝1番人気の支持を集めた馬は10頭中8頭が3着以内を確保。一方、単勝7番人気以下だったにもかかわらず3着以内となった馬は5頭だけです。
M 単勝2〜3番人気の馬は苦戦しているものの、単勝4〜6番人気の馬は優秀な成績を収めていますね。
伊吹 ちなみに、単勝7〜10番人気の馬は2012年以降[1-2-2-35](3着内率12.5%)でしたが、単勝11番人気以下の馬は2012年以降[0-0-0-65](3着内率0.0%)。極端に前評判の低い馬までマークする必要はないかもしれません。
M そんな関屋記念でAiエスケープが指名した特別登録時点の注目馬は、ザダルです。
伊吹 ちょうど良い塩梅のオッズがつきそうな馬を挙げてきましたね。人気の中心になるかどうかは微妙なところですが、極端な人気薄ということはなさそう。
M 3走前の京都金杯で自身2度目の重賞制覇を果たしたばかり。前走のエプソムC(6着)も勝ち馬とのタイム差は0.2秒でしたし、有力と見ている方は多いと思います。もっとも、今回はより若くて勢いのある馬がいる分、手頃な人気に落ち着きそうな雰囲気です。
伊吹 確かに、6歳である点が嫌われる可能性はあるかもしれませんね。まずは人気の盲点になってくれることを祈りつつ、Aiエスケープのお墨付きを得たこの馬の好走確率を、レースの傾向から見積もっていきたいと思います。
M まず、前走のエプソムCで6着だった点はどう解釈すべきでしょうか?
伊吹 それなりに高く評価して良さそうです。2016年以降の3着以内馬18頭中15頭は、前走の着順が6着以内でした。
M ギリギリではありますが、しっかりとクリアしていますね。
伊吹 ちなみに、前走の着順が7着以下、かつ“前年以降、かつJRA、かつ1600m以上、かつ重賞のレース”において1着となった経験がない馬は2016年以降[0-0-0-36](3着内率0.0%)。1マイル以上の重賞に十分な実績があった馬を除くと、大敗直後の馬は上位に食い込めていません。
M ザダルは2022年の京都金杯や2021年のエプソムCを勝っている馬。仮に大敗直後であっても評価を下げる必要はなかったわけですから、この条件に関しては心配無用ですね。
伊吹 そもそも、前走がエプソムCだった点も強調材料のひとつ。2017年以降の過去5年に限ると、前走が重賞以外のレースだった馬、前走の距離が1400m以下だった馬は苦戦しています。
M 条件クラスやオープン特別のレース、そして短距離戦を経由してきた馬は割り引きが必要――ということでしょうか。
伊吹 その通り。今年もこの条件に引っ掛かっている馬がわりと多いので、思い切って絞り込みたいところです。
M 他に注目しておくべきポイントはありますか?
伊吹 同じく2017年以降の過去5年に限ると、3着以内馬15頭はいずれも“前年以降、かつ中央場所、かつ1600mのレース”において2着以内となった経験がある馬でした。
M ローカル場のレースや1600m以外のレースばかり使ってきた馬も、過信禁物と見ておいた方が良さそうですね。
伊吹 距離適性は重要なファクターのひとつだと思いますが、それほどレースレベルの高くない1600m戦で好走してきた馬を高く評価し過ぎないよう心掛けるべきでしょう。
M 残念ながら、ザダルはこの条件をクリアしていません。
伊吹 ただ、2022年の京都金杯は施行コースこそ中京芝1600mでしたが、例年なら京都競馬場で行われているレース。ローカル場だったという一点だけをもってノーカウントにするのは無理筋です。今年は今回挙げた条件を綺麗にクリアしている馬がほとんどいないので、もともと私もザダルには重いシルシを打つつもりでした。Aiエスケープが高く評価しているのであれば心強い限り。オッズ次第ではより強気に狙ってみようと思います。