ウインカーネリアンが勝利(c)netkeiba.com、撮影:下野雄規
netkeibaにある膨大な競走成績を人工知能によって機械学習するAiエスケープを開発したAIマスター・Mと、レースデータの分析を専門とする競馬評論家・伊吹雅也による今週末のメインレース展望。コンピュータの“脳”が導き出した注目馬の期待度を、人間の“脳”がさまざまな角度からチェックする。
(文・構成=伊吹雅也)
単勝1番人気の馬が10年連続で敗れている
AIマスターM(以下、M) 先週は関屋記念が行われ、単勝オッズ3.8倍(1番人気)のウインカーネリアンが優勝を果たしました。
伊吹 陣営はもちろん、鞍上の三浦皇成騎手にとっても会心の勝利だったのではないでしょうか。スタート直後からダッシュがついたので、強引にハナを切ることも可能だったと思うのですが、先手を主張した内のシュリ(2着)を先に行かせて、道中は2番手を追走。ゴール前の直線に入っても手応えは衰えず、残り200m地点の手前あたりで先頭に立ち、最後は逃げ粘ったシュリや追い込んだダノンザキッド(3着)に1馬身ほどの差をつけて入線しました。展開に恵まれたと見る向きもありそうですが、スタートからゴールまで完全にレースを支配していましたから、着差以上の完勝と言って良いと思います。
M ウインカーネリアンはサマーマイルシリーズ第1戦の米子Sを勝っていた馬。今回の勝利でトータルの獲得ポイントを18まで伸ばしました。当然ながら、現時点においては断然のトップです。
伊吹 残る対象レースは京成杯AHだけで、2位のベレヌスとは8ポイント差、3位タイのカイザーミノル・カテドラル・シュリとは13ポイント差。京成杯AHは1着でも10ポイント、2着だと5ポイントしか獲得できませんから、ベレヌスが次走にこのレースを選んで勝ち切るパターンしか逆転の目は残っていません。ベレヌスの動向も気になるところですが、ここ2戦はシリーズチャンピオンの称号に相応しいパフォーマンスだったと思いますし、最終結果がどうあれ高く評価すべきでしょう。
M 秋のビッグレースでも活躍を期待できそうですね。
伊吹 もともとウインカーネリアンは3歳時の皐月賞で4着に健闘した実績がある馬。しかも、当時はまだ3週前に1勝クラスを勝ち上がったばかりでした。おそらく相手なりの競馬ができるタイプでしょうから、マイルCSをはじめとする今秋の大舞台でも十分にチャンスはあると思います。ちなみに、三浦皇成騎手が騎乗したレースはこれまでのところ9戦7勝8連対。コンビとしての快進撃がどこまで続くかも楽しみです。
M 今週の日曜札幌メインレースは、現役トップクラスの強豪が一堂に会する注目のGII、札幌記念。昨年は単勝オッズ3.8倍(2番人気)のソダシが優勝を果たしました。基本的には堅く収まりがちという印象ですが、実際のところはいかがでしょうか?
伊吹 何とも言えませんね。過去10年の3着以内馬30頭中、単勝7番人気以下だった馬は6頭だけ。積極的に超人気薄の馬を狙うべきレースではないと思います。ただ、上位人気馬の成績も微妙と言えば微妙です。
M 単勝1番人気の馬はなんと優勝例なし。そんなに勝てていませんでしたっけ?
伊吹 単勝1番人気の支持に応えて優勝を果たしたのは、2011年のトーセンジョーダンが最後。2021年も単勝オッズ1.9倍(1番人気)の支持を集めたラヴズオンリーユーが2着に敗れています。単勝2番人気以内という括りならば2012年以降[5-5-4-6](3着内率70.0%)なので、人気の中心となっている馬を無理に嫌う必要はありませんが、妙味ある配当を狙うことも不可能ではないと見て良いでしょう。
M そんな札幌記念でAiエスケープが指名した特別登録時点の注目馬は、アンティシペイトです。
伊吹 基本的に“穴党”なAiエスケープらしい、思い切ったところを狙ってきましたね。少なくとも、上位人気グループの一角を占めることはないはず。
M 2走前の福島民報杯でオープンクラス初勝利をマークし、前走の七夕賞でも3着に健闘しています。ただ、GIIのレースはこれまでのところ2021年アルゼンチン共和国杯の8着が最高着順。今回のメンバー構成で積極的に狙おうと考えている方は少ないかもしれません。
伊吹 波に乗っている新興勢力ということで、面白い一頭だとは思うんですけどね。Aiエスケープが高く評価している点を踏まえたうえで、レースの傾向からこの馬のプロフィールを分析していきましょう。
M まず、実績面についてはどう見ていますか?
伊吹 残念ながら、割り引きが必要と言わざるを得ません。2018年以降の3着以内馬12頭は、いずれもビッグレースで馬券に絡んだことのある馬でした。
M はっきりと明暗が分かれていますね。
伊吹 一応付け加えておくと、2017年はGI初挑戦だった同年の大阪杯で13着に敗れていたサクラアンプルールが1着、GIどころかGIIに出走した経験すらなかったナリタハリケーンが2着となり、3連単20万1410円の好配当決着。このようなパターンもある程度は警戒しておくべきでしょう。しかし、近年の流れや今年のメンバー構成を考えると、やはり基本的には実績馬を重視したいところです。
M アンティシペイトはGI未出走。もし2017年のサクラアンプルールやナリタハリケーンよりも注目が集まってしまうようならば、過信禁物と見ておいた方が良いのかもしれませんね。
伊吹 ちなみに、同じく2018年以降の過去4年に限ると、前走がGI以外のレースだった馬も苦戦していました。
M 同じサマー2000シリーズ対象レースである函館記念組の好走例も、最近は途絶えていますね。
伊吹 前走のレースが函館記念だった馬の成績を見ると、2013〜2017年が[3-2-2-16](3着内率30.4%)だったのに対し、2018年以降は[0-0-0-12](3着内率0.0%)です。やはり、2018年を境に流れが変わりつつあると見た方が良いでしょう。
M どちらの傾向もアンティシペイトにとっては気掛かりですが、他に何か注目しておくべきポイントはありますか?
伊吹 同じく2018年以降の過去4年に限ると、3着以内馬12頭のうち9頭はキャリア16戦以内の馬でした。
M 高齢馬など、キャリア豊富な馬は評価を下げた方が良さそうですね。
伊吹 出走数が17戦以上だったにもかかわらず3着以内となったのは、2019年2着のサングレーザーと、2020年2着・2021年3着のペルシアンナイトだけ。余程の実績馬でない限り、この条件に引っ掛かっている馬は強調できません。
M アンティシペイトはキャリア17戦。ギリギリではありますが、不安視せざるを得ない側に入っています。
伊吹 今回は私とAiエスケープの見解が割れてしまいましたね。好走馬の傾向を考えると強調できないのは確かですし、私が重いシルシを打つことはないでしょう。もっとも、近走成績や予想されるオッズを単純に評価するならば、侮りがたい一頭であることも事実。押さえとして買い目に入れるかどうかは、最後の最後までじっくり検討するつもりです。