▲障害練習が平地馬にもたらす効果を探ります(提供:小牧加矢太騎手)
今回のテーマは、前回のコラムで触れた「障害練習が競走馬にもたらす効果」について。障害練習を行う馬は障害レースにデビューする馬だけではなく、平地の馬でも障害練習をすることがあります。その効果には肉体的な効果はもちろん、精神面の効果も期待され、過去にはメジロパーマーが障害を2戦した後に平地のGIを2勝しました。
そんな障害効果が実際に見られたという馬が直近で4頭もいるそうで、「障害練習をした効果以外、僕には考えられません」と話すほど。加矢太騎手自身が調教をつけて感じた効果を詳細に語ります。
(取材・構成=不破由妃子)
担当の方から「馬が見違えたわ。ありがとう」
8月17日、先々週の障害試験をクリアしたフェブキラナが、地方交流戦を5馬身差で圧勝しました(名古屋11R・名古屋CCアポロ賞・ダ1500m)。厩舎のみなさんも自信を持って送り出したそうですが、「まさかこんなに強い勝ち方をするとは…」と驚いた様子。もともと地方交流では能力上位の存在でしたが、それにしてもの圧勝劇は、障害練習をした効果以外、僕には考えられません。
そこで今回のテーマは、「障害練習が競走馬にもたらす平地力」について。おそらく、その効果はファンのみなさんが思っている以上で、フェブキラナ以外にも、最近僕が携わらせていただいた馬が平地で続々好走しています。
6月12日にはワイドレッジャドロが中京の1勝クラスを6番人気で勝ち、6月26日にはクラウンドマジックが阪神の1勝クラスを10番人気で2着。そうそう、一昨日の土曜日には、先々週の障害試験を見送ったタイキモンストルが、小倉の未勝利戦で11番人気3着と頑張っていましたね。思えばこの馬たちの好走はすべて、障害練習明け初戦となる平地レースでした。
障害練習の効果は馬によってさまざまな形で表れますが、フェブキラナでいうと、大きく変わった点がふたつありました。ひとつは、人の指示に忠実に動いてくれるようになったこと。もともとすごく怖がりな馬で、集中力を欠いて物見をしたり、扶助に対して全然反応がなかったりといった課題がありましたが、障害練習をしたことで、扶助反応がとてもよくなりました。
なぜそういった変化が現れるかというと、人間を頼るようになるからです。慣れない馬にとって、障害物を飛ぶという行為はとても怖いこと。だから、人間の指示を待つようになるし、頼ってくれるようになるんです。
フェブキラナのもうひとつの変化は、走りのバランスが改善され、フォームが変わったこと。もともと頭の位置がとても低く、前脚ばかりで走る馬だったのですが、障害は首を起こして踏ん張らないと飛べないので、何度か障害を飛ぶうちに、踏ん張れる首の位置を自分で探すんです。
その結果、馬自身が自分にとってベストなバランスを見つけ、踏ん張り方を覚えていく。実際、フェブキラナは頭の低さが矯正され、走りのバランスがとてもよくなりました。担当の方から「馬が見違えたわ。ありがとう」と言っていただき、僕もうれしくなりました。
▲フェブキラナは障害練習で見違えるほど良くなったそう(写真は昨年の1勝クラス出走時・ユーザー提供:ぬんぬさん)
そのほか、障害練習がもたらす効果といえば、お尻がすごく大きくなること。障害練習を重ねていくうちに馬体にボンと幅が出て、個体差はありますが、3週間も練習すると普通に体重が10キロ以上増えます。後肢に力が付くからか、「ゲートの出がよくなった」と言っていただくことも多いです。